デジタルトランスフォーメーション~コニカミノルタのB to B to P

2016/11/21 <>

・コニカミノルタの山名社長の話を聴く機会があった。松崎取締役会議長(前社長)からコーポレート・ガバナンス(C G)の講演を聴いたことは何度かあり、その徹底ぶりに感銘を受けた。C Gのよさを踏まえて、成長戦略はどうか。これもかなりユニークである。

・現在までコニカは140年、ミノルタは90年の歴史を有する。2003年に合併し、3年後には写真フィルムとカメラからの撤退を決めた。B to C(消費者向け)の事業から手を引いた。2015年度で、売上高1兆円、営業利益600億円、ROE 6.1%である。売上高の81%が情報機器(カラー複合機などのオフィスサービス、商業・産業印刷)、9%がヘルスケア(超音波画像診断装置、医療ITサービス)、10%が産業用材料・機器(フィルム、計測機器、レンズ等)である。

・2016年度は中期計画の3年目であるが、当初目標とした営業利益900億円、売上高営業利益8%、ROE 10 %以上には届かず、同550億円、同5.3%、同7.2%に修正している。

・これまでを振り返ると、カラーフィルムはデジカメの登場により、5年で市場は半減し、今やなくなってしまった。そのデジカメは、スマホの台頭で、3年で需要が半減した、一方で、グーグルやウーバーの登場にみられるように、業界のルールが破壊されるデジタル・ディスラプション(デジタル技術の活用による業界破壊)が頻繁に起きている。業界ではなく、業際(境界領域)が問われている。

・当社は、課題解決型のデジタルカンパニーにトランスフォームすることを目指している。プロダクトを作るという従来のモデルから脱皮して、サービスも含めてアジャイルに(迅速に)ソリューションを提供する、そのためには、B to B(法人業務用)といえども、その先にいるP(Person、顧客)をみる必要がある、これを山名社長は、B to B to Pへの転換と称している。

・そのために、3つのことに力を入れている。1つが、サイバーフィジカルシステム作りである。フィジカル(現実)はアナログである。これにサイバー(デジタル)を取り入れて新しい顧客価値を提供していく。そのためには、現場に近いところにデバイスが入っていく。強みとなるエッジ(切れ味のよい競争優位)で足らないものは、オープンに他社と組んでいく。

・例えば、何らかの状態を継続的に監視する状態監視領域では、光学センサーが必要であり、画像処理が求められる。360度カメラやサーマルカメラが重要であり、カメラを通して行動分析を行っていく。ケアサポートでは、介護センターの負担をいかに減らすか。排泄、寝返りなどの動きをマイクロ波センサーでデータを取り、AIのDL(ディープラーニング)を活用して、必要な介護の予測を行う。在宅の時からデータをとり、かかりつけ医をサポートする。病院に入院する前から分析していく。こうしたことができそうである。

・2つ目は、デジタルマニュファクチャリングである。全く新しいものづくりである。工場の中を繋ぐだけでなく、もっと上流から下流までを繋いでいく。かつては、コスト競争力の確保を求めて、多くの製造業が中国に工場を移した。中国の人件費が上がったのでベトナムへ行く。その次はミャンマーかラオスか。これでは解決にならない。国と場所を超えた製造システムを作ろうとしている。

・直接作業はモノであり、間接作業はコトであると山名社長は言う。これをきちんとコントロールできるようにする。実際、コニカミノルタのマレーシア工場は、東京からコントロールできる。生産プロセスのすり合わせは自動調整するようにした。そうしたら工数は4分の1になった。鍵は、見えないものをいかに見える化することであると強調する。

・3つ目は、異能な人材によるオープンイノベーションである。世界5カ国にBIC(ビジネスイノベーションセンター)を設置した。日本で担当者が調べて、分厚い企画書を6カ月かけて作っても、社長の意思決定には役立たないことが多い。そこで、3年前に新しい仕組みを作ることにした。

・当社の売上の8割は海外である。シリコンバレー、シンガポール、上海、英国、東京の5極に拠点を置いて、異分野の異能をトップにおいて、新しいビジネスを作っていくことにした。この3年で100近いプロジェクトが動き出している。においの見える化(hanaセンサー)、AR(拡張現実)、おまわりロボットなどいろいろありそうだ。

・技術は非連続であると、山名社長は言う。新しい技術がそのままビジネスになるわけではない。そこで、全社員に対して「Innovation for ?」と訴えている。つまり、何のためのイノベーションか。4.3万人の社員が、どう提案したら顧客のビジネスをトランスフォームすることができるか。それに刺さるアイディアを全員で考えて提案する。

・例えば、「愛のため」→天体プラネタリウム、「花嫁の父のため」→フォトアルバム、「いのちのため」→オキシメータ(脈拍数と経皮的動脈血酸素飽和度をモニター)など、新しい広がりを求めていく。

・デジタルトランスフォーメーションは、IoTに代表されるように、モノのつながりをイメージしがちであるが、それでは不十分である。イノベーションを通して、いかにヒトとのつながりに革新をもたらすか。B to B to Pこそコニカミノルタのイノベーションの目指す方向であると改めて感じた。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。