アベノミクスの行方~8つの成長分野

2016/07/25 <>

・アベノミクスが勢いを失っているようにみえる。何が課題なのか。目標としている「1億総活躍プラン」は、まさにその通りであり、ぜひ実現してほしいと思う。

・出生率を1.8に上げるように、子育てのサポートを充実する。高齢となった親の介護のために、仕事を辞めざるをえなくなるような介護離職をゼロにする。そして、働き方の自由度と効率を高めていくという方針を、具体的に動かそうとしている。

・GDPを600兆円に持っていく目標も揚げている。足元のGDPは、実質ベースで531兆円、名目で506兆円であるが、これを実質で年率2%、名目で同3%伸ばしていく方針である。GDPが600兆円に増えると、所得も40兆円増えることが見込まれる。消費と投資が増えるなかで、成長と分配の好循環を生み出そうという作戦である。

・GDP600兆円に向けて成長戦略を実行すると、8つの分野においてマーケットが拡大すると、政府では試算している(日本再興戦略2016)。1つ目は、今最も話題となっているIoT、BD(ビックデータ)、AI(人工知能)、ロボット分野の新市場形成である。すでに市場にあるものとは別に、全く新しい需要を創り出そうとしている。それが2020年には、現状に比べて+30兆円のマーケットを形成すると予測している。

・2つ目は、健康予防や個別化健康サービスなどのヘルスケア分野である。2020年までに+10兆円の需要増が見込まれる。3つ目は、省エネ、再エネ、新エネ投資などのエネルギーの分野で、2030年までに+10兆円の市場が上乗せとなろう。

・4つ目はスポーツ産業で、オリンピックを含めて、2025年に+9.5兆円の需要増を見込んでいる。5つ目は住宅のリフォーム・流通で、2025年に+9兆円の上乗せ効果をみている。

・6つ目はサービス産業の生産性向上で、2020年に+67兆円の効果を期待している。この上乗せ効果が最も大きいが、できるだろうか。7つ目が農林水産業の6次産業化で、2020年で+4.9兆円を見込んでいる。

・最後の8つ目は観光分野で、外国人の旅行消費で、2020年に+4.5兆円、2030年で+11.5兆円の上乗せをみている。

・合計すると、2020年で+129兆円、2030年で+152兆円の新しい市場が形成されることになる。これは1つの試算であって、この通りになるかどうかは分からない。しかし、産業界の識者も参加した論議の中でまとめられたものなので、メガトレンドとしては当たっているといえよう。つまり、これらの8つの分野に成長機会があるとみてよい。

・600兆円に向けての3つの軸は、①生産性の向上、②イノベーションの推進、③海外市場の開拓にある。1)生産性革命では、規制や制度の改革によって、健康・医療、雇用、農業、自動運転、ロボット、空きキャパシティ(全国の余剰施設の活用)などの分野で、付加価値を高めていくことである。

・ここでいう生産性とは、労働生産性のことで、働き手一人当たりの付加価値を高めていくことである。この生産性が上がれば、働く本人の所得を増やすことができる。GDPとは日本全体の付加価値の総計であるから、一人当たりGDP(労働生産性)を上げることができれば、人口が減っても、国全体のGDP(一人当たりGDP×人口)を増やすことができる。

・国全体でいえば、働き手がますます足らなくなる。そこで女性がもっと働き易いように仕組みを変えて、女性の生産性向上によって所得を増やすようにすべきである。60歳以上の高齢者も、元気で意欲のある人は働き、生産性の向上に貢献して、もう少し高い所得を得ることができるようにする。

・イノベーションとは、新しい技術、新しい仕組みを導入して、中長期的な付加価値の源泉を生み出すことである。IoT、BD、AI、ロボットはまさにそうした分野である。「攻めのIT」とは、‘ITを使って新しいビジネスを創出する’という点で、イノベーションのど真ん中にあるといえよう。

・しかし、そのための人材が足らない。IT人材が全く不足している。若者には、アルバイトで働くような単純作業ではなく、ヒトでしかできないような高い付加価値を生み出すような仕事ができるように教育していく必要がある。高度な研究教育や専門的な新しい職業教育が必要である。

・日本は貿易立国から投資立国に一段と向かっていく。日本の市場だけでは狭い。世界にマーケットを求めている。TPPはその時の1つのシンボルであり、互いに市場の自由度を高めて、貿易や投資をやりやすくし、得意分野を活かして、付加価値を生み出していくかが重要である。

・こうした方針の下で、アベノミクスは第2ステージに入っている。政府はそれなりの努力をしているというが、即効性はない。規制改革や制度改革には、さまざまな抵抗勢力も根強い。1ドル80円から120円に向かった円安も、今や100円に戻している。このままではデフレ経済に戻ってしまう。英国、ユーロ市場の不安定さがリスク要因ではあるが、2025年に向けた成長戦略の実効性が、自助努力として問われる。

・政府は新しいルール作りで先行し、グローバルにも協調して動くべきである。企業は、収益力を高めるように、①マネジメント、②イノベーション、③ESG(サステナビリティ)、④リスクマネジメントに一段と力を入れてほしい。そのための方策は見えている。

・企業価値向上を‘見える化’するために、価値創造モデルのトランスフォーメーションに大いに挑戦すべきである。日本経済と株式市場の調整脱出は、ここにかかっているからである。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。