攻めのIT経営銘柄~アサヒGHD、東レ、東京センチュリー

2016/07/06 <>

・6月に「攻めのIT経営銘柄2016」の表彰と代表的企業によるシンポジウムが催された。主催は経産省と東証で、競争力のあるIT戦略を実行している企業を、業種(セクター)毎に選んだ。日本企業がITをビジネスに活かして、稼ぐ力をより高めようという主旨である。

・社内組織の業務効率を上げるのが従来型のITで、いわゆる「守りのIT」である。それに対して‘ビジネスをITで創り出す’のが、「攻めのIT」といえよう。バックオフィスの効率化は守りであり、今の本業や新規事業において、ITを軸に新たな価値を創出するのが「攻めのIT」である。

・東証に上場している企業の中から、企業価値向上に繋がる「攻めのIT」に積極的な企業を選定して、経営者の意識変革を促し、それを投資家にもアピールしていこうという狙いである。

・評価項目は5つの軸から成り立っている。①経営方針として、企業価値向上のためにIT活用を明確に位置付けているか、②企業価値向上のための戦略的IT活用を実行し、成果を上げているか、③攻めのIT経営を推進するための体制と人材を整えているか、④攻めのIT経営を支える基盤的取り組み(ITリスク、システム維持・改善などのインフラ構築)を行っているか、⑤そうしたIT投資の評価ルールを持って、PDCAによる改善活動を実践しているか、という5項目である。

・選定プロセスは、①東証上場企業にアンケートし、2回目の今回は347社(前回210社)の回答を得た。②それを5項目に従ってスコアリングし、一定基準を満たした候補の中から、③直近3年の平均ROEが8%以上又は同一セクターの平均以上を達成しているかという条件でスクリーニングした。そして、④最後に選定委員による総合審査を経て、優れた企業を確定した。

・2016年は26銘柄が選定された。その中で時価総額が比較的小さい会社として、小売業のHamee(コード3134)、同じく小売業の日本瓦斯(8174)、その他製品のトッパン・フォームズ(7862)、化学のエフピコ(7947)などが選定された。

・今回のシンポジウムに登場したアサヒグループホールディングス(2502)、東レ(3402)、東京センチュリーリース(8439)は、いずれも2回連続の受賞であり、それぞれ特色をみせている。共通していることは、経営トップ自らがITに意欲的に取り組んでおり、会社変革の基軸に据えている。当然、企画、財務とIT部門は綿密に組んでいる。逆に言えば、社長が担当に〈ITは任せた〉という会社は、攻めのITに遠い会社ともいえる。

・3社について注目点をまとめた。アサヒGHDは、前回の中期計画からグループ経営の強化に向けて、イノベーションを実行するための共通基盤の最適化を進めてきた。今回はその次のステップとして、ビジネスに貢献するITを目標に、その活用を位置付けている。

・パブリッククラウドを活用した全社ワークスタイルの変革では、AIを用いて予測を行い、生産、出荷の調整に活用している。IoTではまだ検証段階ながら、ビール鮮度や品質管理にITテクノロジーを活用しようとしている。

・アサヒGHDは、ITをいかにダッシュボート化するかという点に力を入れている。まさに経営の見える化をして、それによるコミュニケーションと意思決定の迅速化を図っている。知久氏(IT部門ジェネラルマネージャー)は、守りができて攻めができる、と強調した。

・東レは、情報システムの活用によって、グローバルな事業拡大、グループ業績の向上、強靭な企業体質作りを目指している。グループ企業全体で、精度の高い日次データを把握し共有化することで、即時アクションがとれるように対応している。実際グループ会社においても、情報の日次分析による素早い改善活動を利益拡大につなげている。

・また、NTTと共同で生体情報を連続計測する機能素材「hitoe」を開発し、これを使用したウェアを着ることで、日常生活の健康状態を常時モニタリングすることができる。この生体情報をクラウドによって遠隔で見守り、それをサービスとしてビジネス化することを検討している。もの作りとITを融合させて、新規事業を展開しようとしている。

・東レは、グループ企業におけるKPIの見える化に力を入れ、それをベースに俊敏な改善に手を打つ仕組みを作っている。また、繊維という素材そのものをセンサーにして、シャツから生体信号をとろうとしており、素材のサービス化を狙っている。西氏(情報システム部門長)は、いかにPDCAを高速で回すか、そのためにはIT部門がビジネスを深く理解することが重要である、と強調した。

・東京センチュリーリースは、ITを強みとする高い専門性と独自性を持つ金融・サービス企業として、企業価値の向上に努めている。スマートマンション向けエネルギーマネジメントを担う顧客に対して、そのITツールと機器リースを活用したサービスを提供している。クラウドを活用し、トータルで一元的にマネージできるようにした。

・また、オートリースサービスにおいて、テレマティクスサービスとして、事故・危険運転などの自動記録や日々の運行管理(運転特性の見える化)を実行し、安全安心の向上に結び付けている。テレマティクスサービスでは、それによって事故が減少し、燃費が改善し、管理の作業負担も3割ほど減っている。

・東京センチュリーリースは、この7年で国内のリースの売上ウエイトが80%から50%へ下がっている。10月より社名からリースをとって、「東京センチュリー」にする予定である。それだけ新しいサービスが伸びており、その要にITを据えている。本田専務(システム部門担当)は、この受賞をIRに活かして会社をアピールしている、と強調した。今後とも一層ITでビジネスの差別化を図ろうという方針である。

・価値創造の仕組みであるビジネスモデルの中に、ITをいかに組み入れるか。①商品やサービスのプラットフォームとして、高付加価値化を推進しているか、②人手を減らして、IoT、AI、BD、ロボットを活かしているか、③社会に役立つソリューションを提供しているかなど、攻めのIT経営はまだ始まったばかりである。国内だけでなく、グローバルに通用するようにイノベーションに取り組んでほしい。そういう会社こそ中長期の投資対象となろう。

 

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