役員報酬のあり方~資生堂のケース

2016/07/01 <>

・6月に、資生堂について話を聴く機会があった。まずは2015年12月期のアニュアルレポートをじっくり読んでみた。統合報告(Integrated Reporting)としてよくできている。

・筆者の評価では、①マネジメント、②イノベーション、③ソーシャル、④リスクマネジメントという4つの軸に照らして、12点満点中9点となるので良好である。ただ、「VISION 2020」はまだ1年余りを経過したところであり、ビジネスモデルにおける価値創造プロセスの共有という点で、これからである。

・資生堂は、「美しい生活文化の創造」を企業ミッションとする、中長期的な企業価値および株主価値の最大化に努めると同時に、社会の公器として、ステークホルダーへの価値配分の最適化を目指す。

・2015年3月期の売上高7777億円、営業利益276億円、ROE 9.4%に対して、12月期に決算期を変更、3年後の2017年12月期で売上高9000億円、営業利益500~600億円、ROE 9~10%を目指す。そして「VISION 2020」の後半の3年では、2020年12月期に売上高1兆円超、営業利益1000億円超、ROE12%以上を目標とする。

・魚谷雅彦社長(CEO)は2014年に資生堂のトップマネジメントに就任、現在の中長期ビジョンを立案し実行中である。日本コカ・コーラのトップから当社に招聘されたプロの経営者である。

・資生堂は監査役設置会社であるが、取締役会における社外取締役を増やし、委員会体制も強化した。取締役7名のうち、4名が社外取締役で過半数を超えている。監査役会は5名でうち社外が3名である。役員指名諮問委員会(委員長は社外取締役)、役員報酬諮問委員会(同)、コンプライアンス委員会(委員長は副社長)のうち、指名と報酬の委員会は社外取締役が各4名、社内が各2名という内訳である。

・監査役設置会社としての監査機能を重視しつつ、取締役会はモニタリングボード型が適切であると判断して、二重のチェック機能をもたせるようにした。社外役員には、①必要十分な判断材料が出されているか、②議論は尽くされているか、③社会的、客観的にみて、合理性のある決定か、をチェックしてもらう。

・役員報酬に関する資生堂のユニークさは、「VISION 2020」の6年間のうち、前半3カ年の計画は、経営基盤を強化することに重心をおくので、それを反映した報酬体系を設定しているところにある。

・あるべき姿として、中長期のビジョンとそれを達成するための戦略的課題を定めた上で、それに合ったトップマネジメントや社外取締役を選任し、執行サイドの報酬インセンティブもそれに合致した適切な内容を取り入れていくという姿勢を取っている。

・事業基盤の強化には、例えば市場在庫水準の適正化が含まれている。これを実行すると、短期的な業績にはネガティブに働く可能性がある。それでもインセンティブが目標達成に結びつくように、報酬体系を考えている。

・CEOの報酬は、基本報酬50%、業績連動報酬50%のウエイトで決まる。これが執行役員レベルになると、業績連動のウエイトが40%前後に下がってくる。

・また、業績連動報酬は、①年次賞与と②長期インセンティブ型報酬に分けられ、そのウエイトは概ね半々である。①の年次賞与について、CEOは会社の業績70%、個人目標30%で評価される。一方、事業担当の役員は担当事業の評価50%、個人目標30%、全社業績20%というウエイトである。

・②の長期インセンティブ報酬はストックオプションを用いているが、1)付与個数と2)権利行使可能な個数には、それぞれのタイミングで業績条件をつけて確定するようにしている。つまり、できるだけ中長期の業績を反映できるようにしている。

・この報酬体系をみると、基本報酬という固定の割合が50~60%と高いように感じるが、会社サイドとしては3カ年の基盤固めの時期に、短期的な業績を追わないようにブレーキをかけている。業績連動報酬において、年次賞与と長期インセンティブ報酬が半々というのは、現状において妥当なところであろう。

・役位が同じ役員であっても、役割と責任は個々に異なるので、そこに差がつく仕組みを導入している。また、戦略目標の達成に向けて、短期のインセンティブとしての個人考課を30%ほど入れている。

・こうしたことがアニュアルレポートに明記してあり、IR責任者の説明によって、よく理解できた。報酬制度が会社の目標とどう結びついているかが分かるので、極めて有益である。資生堂の報酬制度とその開示は高く評価できる。今後は、マネジメントを担う執行役員がさらに自社株を多く持てるようにする工夫が求められよう。

・一般論ではあるが、オーナー型の企業のトップは、自社株を相当の比率で持っている。一方、サラリーマン型の社長やマネジメント層は、従来のしくみでは十分な株式を持つことができていない。経営者に少しでもオーナー的センスを発揮してもらうには、株式による報酬のウエイトをさらに上げていく必要がある。

・資生堂のケースでいえば、中期計画が順調に推移するならば、後半の3カ年計画がスタートする時には、基本報酬30%、年次賞与30%、株式による長期インセンティブ40%というような構成で、報酬総額をもっと上げていくような形が望ましいと考える。今後の資生堂の中長期展開力、魚谷CEOのリーダーシップと取締役会のガバナンスの実効性(効かせ方)に注目したい。

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