AI(人工知能)を知る~学習モデルの考え方

2016/05/30 <>

・車を運転するには免許証が必要である。その試験の勉強では、車の構造についても学ぶ。なぜ車は動くのか。かつてはエンジンだけであったが、今ではハイブリット、燃料電池と多様になりつつある。

・テレビは誰でも観る。しかし、なぜテレビが映るかという理屈を学ぶ必要はない。しかし、液晶ディスプレイがブラウン管に代替し、一大産業にのしあがったが、投資家としてはその仕組みや部品について詳しく知っておく必要があった。かつての半導体も、日本がDRAMで一世を風靡した時には、機関投資家はみな半導体オタクになった。

・AI、ビッグデータ、ロボット、IoT(もの・コトのインターネット)が、これから新たな産業に育つことは明らかである。資産運用もAIを活用するようになる。プロのファンドマネージャーはいらなくなるのか。個人投資家の出る幕はなくなるのか。そんなことはないと思いながらも、囲碁や将棋のプロがAIコンピュータに負けるという話を聞くと、金融もいずれそうなるのかとも思う。

・そこで、AIはどんな理屈なのか。その考え方を少しは知っておきたいと思った。筆者は若い時に、人の判断能力と制御能力を分けて判定するというモデルを作ったことがあった。車の運転でいえば、状況をみて判断する能力は高くても、ハンドルさばきが鈍い人がいる。その逆の人もいる。今注目されている自動運転は、人が運転しなくてもよい。車自体が情報を感知し、状況を判断して、車の運転をさばいて、目的地まで運んでくれることを目標にする。

・航空機や新幹線では、自動運転がかなり実用化している。しかし、パイロットや運転士がいらないというわけにはいかない。肝心なところは訓練を受けたプロが責任をもって担当している、不測の事態には人の判断が必要な場合も多い反面、人が判断しない方がよい場面もある。サンフランシスコの空港では、霧が深い時、飛行機の着陸は自動パイロットに任せることになっているという。視界が悪い中で、計器をみながら人が操縦桿を握る必要はないという考えである。

・これまでのコンピュータは、決められた通りの手続きに従って、計算することは得意であった。大量のデータを高速で処理することができる。その能力はますます上がっている。処理の手続きが明確で、それを人によって事前にすべて決めることができるのであれば、あえてAIは必要としない。AIは、人が事前に決められない事態を自ら学んで経験を積み上げていく。その学習モデルの構築方法が、ディープラーニング(Deep Learning、深層学習)といわれる。

・DL(ディープラーニング)の前提は、データが大量にあることである。データを通して機械(コンピュータ)が自ら学んでいく。ディープとは階層がいくつもあることで、そこを通してデータの処理がなされていく。入力データから何らかの規則性やパターンを抽出し、そこから、判断するための学習モデルが作られていく。

・オンラインショッピングの購買者属性の特定やそのグルーピング、手書き文字や顔認証のような画像認識、自然言語による音声認識など、入力データを学習モデルに入れて、判別処理をして、何らかの妥当な出力(答え)を得る。こうしたニーズは多様にありえる。

・DLは人の脳のニューラルネットワークをイメージしたアルゴリズム(計算手順)を用いている。脳にある①神経細胞(ニューロン)とそれをつなぐ②軸索(樹状突起、アクソン)、その端の③接合部位(シナプス)に対して、DLでは①ノード(層の値)、②エッジ(重み)、③活性化関数をそれぞれ用いてモデル化する。

・入力と出力の関係がはっきりしている模範データ(教師データ、訓練データ)を用いて、学習モデルにおけるつなぎのエッジ(重み)の最適化を図っていく、これが上手くいくと、AIの判断能力が大きく上がってくる。層をいくつも通しながら、1) 入力データの局所の特徴を浮き立たせたり、2)そうでもない変化の精度を下げたり、3)ある時は層を少なくして、情報を圧縮したり、4)入力情報が固定の長さではなく、文字や音声のように可変の長さに対応できるようにしたり、といろいろ工夫する。それによって、アルゴリズムのモデルが違ってくる。

・DLでは、情報抽出の方法については人が事前に決めるが、実際のデータからどのような学習モデルが作られていくかは、データに任せる。モデルの最適化は、エッジ(重み)の決め方にあり、その方法は、入力データに対して出力データが出てきた時、模範データ(正解)との差ができるだけ小さくなるように、重みを計算していく。

・実際には、ノード(各層にある特徴を形成するファクター)の数が多すぎると、最適化は難しくなる。そこで、最初の計算の時には一定のノードを無視して、ノードの数を少なくし、次第に精度を上げていく。

・勉強をする時、教科書を1ページ目から丹念に学んでいくか。試験問題の設問と答えを見て、答えから設問を学び、その設問に相当する教科書の場所に戻って勉強する、というようなやり方ともいえよう。

・これは、ある意味で正解のある模範データがある場合である。世の中には模範データがはっきりしないことも多い。その場合でも、学習モデルをいかに構築し、判断の精度を上げていくかが問われる。

・DLが応用できる分野はどんどん広がっていこう。その判断の精度も上がってこよう。人がデータ分析を通して判断するよりも、確かなケースが増えてこよう。人が判断するよりは速くて正確なら、それはAIに任せた方がよい。それが制御機能(アクチュエータ)を持ったロボットに内蔵されるならば、ロボットに任せた方がよい。

・人はどうするのか。筆者なら、AIやロボットの研究開発をやりたい。また、人にできて、AIにはできない分野もまだまだありそうである。仕事や生活が、AIやロボットで楽になる。仕事を奪われるという心配をするよりも、よりクリエイティブな新しい仕事が生まれてくるとポジティブに考えたい。投資家としては、AIを活用して新しい付加価値を創り出す企業に大いに期待したいものである。

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