株式報酬のすすめ

2016/05/09 <>

・誰が一番お金持ちになれるか。それは企業の創業者である。会社を興し、その会社が成長し上場すれば、企業の価値は株価で計れるようになる。

・では、経営者の報酬はどう決めればよいか。通常のサラリーマンであれば、月額給与、賞与(ボーナス)、それに長く勤めれば退職金が加わるというのが、これまでの姿であった。サラリーマンから、その会社の役員になると、社員の延長のような報酬体系で、社長になっても年俸が欧米亜の企業に比べてさほど高くない、というのも一般的である。

・問題は、役員報酬が固定的で、業績に見合って上下する変動が少なく、中長期的な成果を反映するようになっていないことにある。サラリーマンであれば、①年次で基本給が少し上がる、②昇格すれば基本給と役職給が上がる。③ボーナスは月額給の2~4倍程度というのが、1つのイメージである。

・役員はどうか。役員にも、そのクラスによって基本給・役職給があり、これに賞与が加わる。しかし、従来の日本では、賞与のウエイトが低く、変動が少ない。よって、固定報酬のウエイトが上がることになる。

・上場会社の役員といっても、企業によって大きな格差はある。執行担当の取締役の例として、基本給・役職給で年俸1000万円、今期の賞与で1000万円、中長期の価値向上への貢献で1000万円、しかも、その中長期の貢献1000万円分を自社の株式で付与するといわれたらどうであろうか。

・さらに、今期の賞与は0~2000万円で変動する。中長期の報酬も0~2000万円で変動する。そうすると、①会社の業績が全く振るわない場合の年俸は1000万円、②しっかりやって普通ならば3000万円、③すごくうまくいった時には5000万円となる。

・これが社長なら、取締役の5~10倍として、最低で5000万円~1億円、平均で1.5~3.0億円、最高で2.5~5億円となる。これを聞いて、株主として納得できるだろうか。

・企業としてしっかり稼いでくれるなら文句はない。但し、社長や役員の貢献を、本当に適切に評価できるのか。中長期の報酬の前提となる企業価値評価はどのように行うのか。そこがはっきりしないと、自らに甘い、お手盛り報酬になってしまうのではないか、という懸念がでてこよう。

・ペイガバナンス社の調査によると、2014年度の大手企業(日本は時価総額1兆円以上)のCEOの平均年俸は、日本1.7億円、独7.7億円、米国10.6億円であった。

・このうち基本給は、日本1.0億円、独2.0億円、米国1.2億円と大きな差はないが、年次賞与は、日本0.5億円、独2.0億円、米国2.3億円であった。

・また、長期インセンティブは、日本0.2億円、独3.8億円、米国7.2億円と全く違う。日本は圧倒的に長期のインセンティブが少ない。米国は長期インセンティブが圧倒的に高く、しかもその大半が株式報酬である。つまり、自社の株式をくれる。

・日本でも、この4月から役員の株式報酬制度がスタートした。中長期の企業価値創造に力を入れて、稼ぐ力を高めるために、コーポレートガバナンスの改革を進めている。この時、経営者の報酬が中長期の業績に見合って支払われるようにしていくことが求められる。とりわけ、自社の株式を持って、投資家と同じスタンスでリターンとしての報酬を得ていくことは重要である。

・企業の経営者や役員は、経営の遂行による企業価値の向上で評価されるべきである。会社の業績が明示的に反映しない役員退職慰労金は、今どきの経営に馴染まない。議決権行使で、機関投資家は反対する。そこで役員の退職慰労金という仕組みはなくなりつつあるが、サラリーマン社長が、自社の株を十分保有していないことは問題である。

・企業のオーナーはかなりの株を所有するので、中長期の価値創造に敏感であるが、そうでないマネジメントに対して、株式による報酬を直接出すことができるようになるので、そのインパクトは大きい。

・これまでも、ストックオプションや株式交付信託という制度はあった。これに加えて、1)業績連動報酬にROEなどのKPI(重要経営指標)を含めることができるようにした。また、2)株式報酬(譲渡制限付株式:リストリクテッド・ストックの付与)が税務上損金算入の対象として使えるようになる。

・具体的にどういうインセンティブの仕組みに設計するかは、個々の企業に任せられる。経営者(CEO)や役員が、一定の高額な株式報酬を得て、中長期の企業価値向上に邁進することができるならば、投資家にとって望ましい。業績連動の報酬制度、その中での株式報酬のあり方には、今後大いに注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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