トランプ旋風の波紋

2016/05/02

・4月にウォールストリートジャーナル(WSJ)のジェラルド ベーカー編集局長の話を聴いた。彼は、共和党の大統領候補の討論会で共同司会を務めた。英国人であり、フィナンシャルタイムス(FT)の記者として東京にいたこともある。米国の大統領選を25年以上追いかけており、かなりのベテランである。

・選挙の行方にはさまざまな見方があり、彼自身予測はしないと話していたが、1つの枠組みは持っているので、それを理解しておくことは参考になる。そこで、いくつか印象深かった点をまとめてみた。

・今回の大統領選は異例である。これまで共和党の候補というのは、既にその地位を確立した人が出てくるので、次と目する人が大体予測できた。しかし、今回は党の中で一定の地位をもつジェブ ブッシュやマルコ ルビオが早々と脱落してしまった。従来の流れでは共和党の後継者といえないドナルド トランプやテッド クルーズが台頭している。

・一方、民主党の候補は、気持ちで選ばれることが多いので予測が難しいが、ヒラリー クリントンがバーニー サンダースに追い上げられている。

・トランプはなぜ人気が出たのか。それはエスタブリッシュメントでないから、とベーカー氏はいう。政治家として既に地位を確立したエクタブリッシュメントに、国民の不満がたまっている。共和党のリーダー達に対して不満があり、昨今、この不満を党の政策として全く吸収できていないと指摘する。

・では、不満とは何か。2008年のリーマンショック後の企業リーダーへの不満、イラク戦争をはじめとする米国の戦争への関わり方への不満、社会の不公平・不平等への不満が渦巻いていると強調する。

・これまでは、アメリカンドリームに象徴されるように、米国は機会均等を謳ってきた。貧困の中に生まれても、成り上がることができるという価値観があった。しかし、91年以降、米国の平均所得は伸びていない。この中で、格差が大きく開いている。

・この格差への不満は高まっている。CEOと一般社員の年収格差は、30年前には20倍であったものが、今や320倍になっている。社会システムに不公平があると分かっているのに、政治のリーダー達はこれを解消しようとしていない。

・なぜ格差は開いたか。グローバル化が進む中で、中国やロシアが台頭し、新興国の発展が、米国の不平等を加速した。教育水準が高く、資本を持っている人に有利に働いた。労働の内容や仕組みが変化して、労働者は政治に不信感を強めている。リスクを取って投資をしている投資家は恩恵を受けているが、一般の人々には不安に映るだけであるとみている。

・ここにトランプの人気がある。彼は人々に直接話しかける。分かり易い言葉で話す。これが伝統を重んじる白人の支持を集めている。過激な暴言も、1つの誇張であって、理解しやすいと受け止められる。

・しかし、トランプがクリントンに勝つのは難しいと、ベーカー氏は見ている。白人だけの支持では不十分で、ヒスパニックや黒人にも食い込む必要があるからだ。

・一方、クリントンはサンダースに追い上げられている。サンダースは自ら民主社会主義者と名乗っており、米国で初の社会主義候補である。サンダースが民主党で勝つことはないとしても、クリントンはポピュリズムに合わせる必要があり、これまでよりも左寄りにならざるを得ない。

・民主党でも共和党でも、自由貿易は米国に不利であると考える。TPPへの反対もある。移民も、不法なものは厳しく取り締まるべしと考える。イラク戦争は間違いであったと考える。安全保障においては、自分の国は自分で守るのが原則で、米国に頼りすぎるのはフェアでないと考える。

・今後、世界の政治における米国の役割は低下していく。次の大統領が誰になろうと、米国が世界と関わる姿勢は減っていくと指摘する。トランプは極端主義者であるとしても、米国が閉鎖的になるのは避けられないとみている。

・トランプは、選挙に自らのお金をさほど使っていない。富豪なので寄付に頼らなくてよいと豪語する。資金的に政治団体と繋がっていないところがうけている。一方、政治報道においては、トランプの存在自身がニュースになるという。彼はツイッターを効果的に使っており、カラフルな存在で、みんなが見たがる。メディアを上手く使って、ポピュリズムにうまく訴えている。これが続くかどうかははっきりしない。反トランプも台頭している。

・ベーカー氏は、次の大統領がどうなるかはまだわからないが、米国への期待として、英国チャーチルの次のような言葉を引用した。「米国は正しいことをやる。但し、他のすべての手段を使ったあとで。」米国の揺らぎは、民主主義の難しさを示している。日本の外交政策にも大きく関わってくるので、投資環境を読むうえで引き続き注目したい。

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