三越伊勢丹ホールディングスのトランスフォーメーション~百貨店市場縮小の中で

2016/04/25 <>

・個人的には、日本橋の三越をよく利用しているが、新宿三丁目の伊勢丹にはあまりなじみがなかった。3月の個人投資家説明会で、大西洋社長の話を聴いて、早速二人で出かけてみた。若い、ファッショナブルでセンスを感じる。いつもここに来ようと会話が弾んだ。

・百貨店業界の市場は縮小している。業界の年間売上高は1991年の9.7兆円をピークに、2015年は6.2兆円まで減少した。これは1980年頃の規模である。全国の店舗数も99年の311店から238店にまで、継続的に減っている。

・2000年以降、百貨店の再編が続き、そごう・西武百貨店はセブン&アイの傘下へ、松坂屋・大丸はJ・フロントリテイリングへ、阪神・阪急百貨店はエイチ・ツー・オーリテイリングへ、そして三越伊勢丹ホールディングスが誕生した。

・全国の百貨店の店舗(238店)は、その7~8割が赤字とみられる。普通の百貨店では儲からなくなっている。それでも地方のオーナーは不動産事業で百貨店の赤字をカバーしている。その地域の顔でもあるので、赤字だからといって簡単に止められない。百貨店が亡くなると、地域がもっと衰退してしまうかもしれない。しかし、赤字事業をずっと続けるわけにもいかない。いずれ閉店に追い込まれるかもしれない。その時期が次々とやってこよう。

・三越は340年の伝統を有する。伊勢丹も130年を迎えた。上得意客の「お帳場」に代表されるように、お客と向かい合う三越と、他社に真似できないファッション提案力を磨いてきた伊勢丹が、2008年に経営統合した。その後、業績は順調に向上し、2016年3月期は売上高1.31兆円、営業利益370億円を見込んでいる。

・現在進行中の3カ年計画では、2019年3月期に営業利益500億円、ROEで5.5~6.0%を目指している。引き続き収益力の向上が課題で、自社所有のビル(不動産)に対して、百貨店の利益が十分でなく、ここをどう高めていくかが問われている。

・2014年度の売上構成をみると、国内百貨店83%、海外百貨店7%、小売専門店4%、不動産3%、金融3%と、百貨店のウエイトが圧倒的に高い。そのうち、伊勢丹新宿本店は年間売上高2584億円、年間入店客数2500万人(入店客数当たり売上高1.0万円/人)、1店当たりの売上高は世界で№1である。

・一方、三越日本橋本店は、年間売上高1655億円、年間入店客数1400万人(同1.2万円/人)である。また、三越銀座店は、同744億円、同2000万人(同0.4万円/人)である。

・伊勢丹新宿はファッションミュージアムとしてのリモデルを実行し、成果を上げている。三越日本橋は、2016年~2017年度で大規模なリニューアルに挑戦し、新たなカルチャーリゾートを目指す。三越銀座は市中免税店をこの1月にオープンして、外国人向けグローバルストアとして売上高の大幅アップを狙っている。

・大型百貨店ではない中小型の専門店については、現在の101店を2018年度に180店へ、将来は200~300店への拡大しようとしている。地域密着型、化粧品特化型、空港ターミナル型、セレクトストア型など、特色を出していく。

・サプライチェーンでは、卸機能を減らして、企画・開発などモノ作りへの関与度を高め、SPA(製造小売業)型へシフトしていく。婦人靴のナンバートゥウェンティワン、日本の衣食住の価値を提供するジャパンセンスィズ、デジタル試着室など、工夫を一段と凝らしていく。

・大西社長(60歳)は、売上高の9割を占める百貨店の一本足打法から、将来は、百貨店以外の売上比率を4割に高めたいと考えている。2020年に向けて9:1を6:4へ、新規分野の拡大を志向している。ブライダル事業、レストラン・カフェ事業など周辺多角化にもさらに力を入れていく方針だ。

・当社のEコマースはまだ売上高の1%で、世の中の10%からみて低い。海外もかつてはアジアの成長にのったが、現状では苦しい面もある。事業構造の転換(トランスフォーメーション)にはやるべきことが多いといえよう。

・それを担う人材に対しては、販売員(スタイリスト)が十分接客できるように、営業時間を短縮したり、定休日を増やしたりしている。優秀なスタイリストを全国的に表彰するエバーグリーン制度も充実させている。若手を登用する仕組みの活用も実践している。

・大西社長は東京マラソンを4年連続で完走した。自ら走り続けることの証でもある。これまで個人投資家説明会はほとんど行ってこなかったというが、今回300人を前にした説明会は、社長の個性が発揮されて、有意義であった。何を訴えていくか。さらに改善の余地はあるが、これからも継続的に力を入れてほしい。三越伊勢丹ホールディングスのトランスフォーメーションに注目したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。