ネットイノベーションと暮らしやすさ~アイリスオーヤマのケース

2016/01/12 <>

・地方に住んでいると、次第に買い物に困るようになる。かつて実家の近くにあったスーパーが閉店となった。年を取ると車の運転はできなくなるので、遠くまで出かけることは難しくなる。筆者の母はそもそも運転ができなかったので、バスやタクシーで日用品の買い物に出かけた。しかし、荷物を持って動くことは、雪の多い冬場には困難である。田舎での一人暮らしが無理になり、少し離れた兄のところに同居するようになった。

・今筆者が住む世田谷でも、スーパーで買った物を自宅まで届けてくれるサービスが広がっている。高齢化によって、車の付いたショッピングカートで買い物に来ても、引いて帰るのが大変である。インターネットを使えば、今や何でも買える。重い水ものを家まで配達してくれる。実に便利である。しかし、ネットを上手く使えないと、この利便性は享受できない。地方ではデリバリーのコスト負担もあるので、ここにもイノベーションが求められる。

・11月の世界経営者会議で、アイリスグループの大山健太郎会長の話を聴いた。アイリスオーヤマはユニークな未上場企業である。トップマネジメントは大山兄弟による同族ながら、社員のやる気を見事に引き出している。アイリスは需要創造型企業で、毎年1000品以上の新製品を発売しており、販売における新製品比率は50%を超える。

・仙台に本拠地を置くアイリスグループは23社から成り、海外に11社を有する。化成品メーカーからスタートして、ホームセンターに自社店舗を出し、製造小売業として独自の発展を遂げてきた。今やネットビジネスも内外で拡大しており、グループの年商は3000億円を超えている。

・海外11社にうち8社は中国にあり、96年にいち早く進出した大連は今や最大の拠点である。海外ビジネスは順調に拡大している。中国が最大のマーケットで、とりわけネットビジネスが好調である。中国経済は現在、成長率が徐々に落ちており、インフラ投資や輸出は厳しい局面にあるが、個人消費は着実に伸びている。

・中国の流通は、SC(ショッピングセンター)が中心であるものの、交通インフラはまだまだ遅れている。近くに店舗がないので、たまに遠くのSCに行くしかない人々も多い。そこで、リアルな店舗から一気にネットビジネスにシフトしている。

・中国の11月11日は「独身の日」。この日に因んだキャンペーンがいろいろ行われるが、ネットでの販売も特別な売上をみせる。独身を楽しむ、あるいは、独身に別れを告げる、ということで販売が盛り上がるようだ。ネット通販最大手のアリババは、昨年この日1日で1.1兆円を売り上げたが、今年は1.7兆円にアップした。中国における1人当たりネットでの購入金額が20万円に達しているというデータもある。

・まさにEコマースが伸びている。しかも、今まではPCが中心であったが、最近はスマホによるモバイルショッピングが4割を超えてきた。ネットユーザーの普及率も5割を超えており、ネットで買い物をするというのが普通になりつつある。中国のネットビジネスはこれからも年率30%以上で伸びていくと、大山会長はみている。

・課題は物流にある。ネットで購入したものを、いかに届けるか。この2~3年で物流も進み始めている。アイリスグループも中国で物流センターを一段と整備していくという。アイリスグループでは、中国ビジネスにおいて直営店を136店ほど展開しているが、売上全体にはネットビジネスの拡大も大きく寄与している。

・中国の小売におけるEコマース比率は、現在の10%が将来30%に上がっていくと、大山会長は想定する。流通の遅れが、ネットビジネスを日本以上に加速していく局面にある。中国では日本のチェーンイノベーションを飛び越して、いきなりネットイノベーションが実現されつつあるといえよう。

・一方、日本ではオムニ戦略(全ての販売チャネルの融合)が主流となる方向にあり、ネットとリアルの融合が推進されようとしている。日本において戦後50年は小売業におけるチェーンイノベーションが市場を創造し、ローコストオペレーションが小売のバイイングパワーを強めてきた。しかし、今や日本は店舗過剰のオーバーストア状態になり、既存店は軒並み苦戦している。

・オーバーストアになった日本では、20年前からマーケットインが求められるようになった。プロダクトアウトでは、消費者に受け入れてもらえない。競争の中で差別化を図ろうとしても、小売におけるバイヤーが壁になってしまう、と大山会長は指摘する。

・消費者のための品揃えが、店にとっての品揃えとなってしまい、そこにギャップが生まれる。ところがネットではバイヤーの壁がなくなり、生産者の商品が消費者にそのまま選択してもらえる。ネットでは、店舗や店員がいらない一方で、物流が決め手となる。日本ではドラーバーが採用しにくくなっており、物流センターも不足している、今ここに大きな需要が出ている。

・リアル店舗では、店の都合でプッシュ型(押し込み)販促を行うが、ネットでは客がレビューを書くので、プル型(引き付け)購買を促すことになる。1)ネットには品揃えの限界がない、2)比較購買がしやすい、3)オリジナルやオンリーワンといった特長のある商品を提示出来る、という点で賢いスマート消費ができる。

・日本において、地方に住む人々のネットリテラシー(使いこなし)が課題である。地方の高齢者もネットをどんどん使うようになり、ネットとリアルの融合が進めば、地方における買い物、ひいては生活のハンディはかなり解消される。少子高齢化社会の1つの切り札として、ネットビジネスの新たな展開に期待したい。

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