国民医療費を抑える医療情報サービス~ICTの活用とデータホライゾン
・データヘルスが本格化する気運が高まっている。健診やレセプトなどの健康医療情報の電子化が進み、これらを活用した医療保険者の健康状態に即した効果的な保険事業(データヘルス)が進もうとしている。
・その中の先進的な事例として、広島県呉市のモデルが注目されており。それをリードするデータホライゾン(コード3628)の内海良夫社長の話を聴いた。当社は、即効性のある医療情報サービス(データヘルス)を独自のシステムで提供する。
・当社のデータヘルスを呉市が採用し、それが大きな成果を上げている。2015年3月には総務省から表彰された(「地域サービス創生部門賞」)。塩崎厚生労働大臣が早速視察し、国の骨太の方針にも取り入れられた。
・データヘルスによる健康増進、重症化予防、ジェネリック(後発医薬品)の使用促進に関するエビデンス(科学的証拠)として評価され、このやり方を全国的に展開する方向となった。
・内閣府、総務省、厚生労働省、経済産業省の支援の下、来年度の予算要求ではデータヘルスの効果的な取り組みに向けて、従来に比べて1桁上の50億円が出されている。では、何がそんなに注目を集めているか。
・国保(国民健康保険)に加入している保険者1人当たり年間医療費の伸びを、低く抑えることができるからである。先駆的に実施した呉市では、過去5年間の1人当たり医療費の伸びが+9%に止まり、国全体の+14%を5%ポイントも下回った。1年遅れて始まった広島県内自治体では4年間で+11%に抑えられ、ここでも明らかに効果が出ている。
・呉市の医療費は年間200億円であったから、5%の差は10億円に相当する。もし、日本全体で呉市と同じことができれば、国民医療費40兆円の5%、2兆円が節約でき、1年間では1%分の4000億円が抑制できることになる。このインパクトは極めて大きい。
・どうやったのか。レセプト(患者が受けた診療について、医者や薬局が市町村や健康保険組合などに請求する診療報酬や調剤報酬の明細書)のデータを使って、呉市では2008年から国保加入者に対して、ジェネリック医薬品の使用促進通知を開始した。次いで、2010年から糖尿病腎症透析予防を開始した。
・通知を受けた人の8割はジェネリックを使い始めた。糖尿病が悪化した時の人工透析予防では、透析直前状態の患者をレセプトから抽出して、その患者に個別指導を実施した。透析直前患者の10%が、翌年透析が必要になることはデータ解析で分かっている。透析に入ると、1人年間600万円の費用がかかる。さらに付随的な費用も含めると1000万円に相当し、これが呉市の負担として響いてくる。
・生活習慣病なので、患者も気付かずにいる。そこに実態を知らされ、適切な指導を行うと効果はてき面、節制によって透析が必要になる患者が通常の半分以下に減少する。つまり、最も医療コストが急増しそうな患者を的確に捉え、その人達をピンポイントで指導する。
・では、なぜこうした仕組みが普及しないのか、システムはできているが、自治体は使うことを躊躇した。内海社長は厚生労働大臣に説明した。いいのは分かってくれるが、1)そうしたことをやると新しい仕事が増える、2)仕事が増えて責任を負わされることを行政の現場は嫌う、3)初期投資にお金が必要であるが、その資金が予算として捻出できない、からである。
・そこで厚労省では、来年度からの施策導入に向けて、インセンティブをつけることにした。自治体に補助金を出して、普及を促進させることにした。そのための予算を1桁多く付けようとしている。
・データホライゾンは、レセプトデータを解析して、雑多な医療データから対応が必要な患者を特定していく。ここに当社独自の解析技術(特許保有)が使われる。さらに、それに対するサービスもまとめて面倒みる。行政に対しては、余計な手間を取らせないように、すべてアウトソーシングできるようにする。
・この‘ヘルスケアやまと’と名付けたサービスを呉市の対象者5.6万人に対して、2800万円で提供した。1人当たり500円のコストである。これで医療費の抑制が3.8億円見込めるのだから、その投資効果は大きい。
・医療費を抑制して、健康長寿社会を実現するには、データヘルスの推進、糖尿病の人工透析予防、重複受診者の多重投薬予防、ジェネリックの使用促進、かかりつけとして健康サポート薬局などが欠かせない。データをエビデンスとして活用し、確かな成果を上げるICT、ビックデータの先進的企業に注目したい。