日本企業の収益力向上を見抜く~シスメックス、大東建託、日東電工
・10月の日本証券アナリスト大会で、シスメックスの家次恒社長、大東建託の熊切直美社長、日東電工の高﨑秀雄社長のパネルディスカッションを聴いた。企業の収益力向上を見抜く上で、注目すべき視点が議論された。いくつかを取り上げてみる。
・企業のよしあしを評価する軸は四つあるというのが持論である。①マネジメント(経営力)、②イノベーション(成長力)、③ソーシャル(ESG)、④リスクマネジメント(業績変動)という4点に照らして、今回のパネルでは、経営者が技術革新、ダイバーシティ・ガバナンス(社外取締役)、グローバルリスク(日本、米国、中国、新興国)について語り合った。論点の立て方は、企業を評価する軸にピッタリであった。
・シスメックスの家次社長は、経営におけるクールジャパンを追求する。つまり、日本発のマネジメントで、グローバルメジャーを目指すと強調する。血液分析を主力とする検査機器とその試薬で、成熟した日本から世界190カ国へ展開している。新興国が伸びる。中国も漢方から西洋医学に進むと検査は必要になる。今後とも二桁成長は見込めそうである。
・万人に効く薬というのはなかなかない。個人差があり、効くか効かないかを個人ごとに見出していく必要がある。ゲノムベースのパーソナル医療に向けて、新しい検査の仕組みを作っていく。このイノベーションに向けてR&Dを強化している。
・R&Dは日本中心ながら、米、欧、中にも拠点が置いてある。個別化医療のへの対応である。海外売上比率は82%、従業員7000人の半分は外国人である。検査機械は、メイドインジャパンで差別化しているが、試薬は現地でも生産している。グローバル展開に当っては、英国でのM&Aがコアになって、人材のロイヤリティも高く活躍しているという。
・大東建託の熊切社長は、人口減少社会における2040年問題を念頭において、日本を基盤に介護やエネルギーサービスなどインフラ事業の広がりを視野に置く。当面は2015年1月の相続税改正で、都市近郊の資産家の土地活用が活発化しているので、それに向けたトータルサービスに力を入れる。
・土地を活用した賃貸住宅一括借り上げという賃貸経営受託システムを展開し、その分野では業界トップの地位を築いている。独自のビジネスモデルを構築する中で、徹底的に経営の透明性を高め、高い資本効率とステークホルダーにとっての価値創造を実現している。海外投資家が56%を占め、ROEも20%以上を維持することを実践している。配当性向50%、自社株買い30%で、総還元80%を目途とする。コーポレートガバナンスに力を入れ、マネジメントが明解でスッキリしている点が共感できる。
・賃貸住宅の8割が2×4工法で、材木は海外から輸入する。職人不足には、外国人技能実習生なども入れて活用を図っている。マーケットは国内が全てなので、長期的には人口減少社会の中で、サービスの多様化と深堀りをしていく方向にある。高効率経営を徹底すべく、常に挑戦的である。
・日東電工の髙﨑社長は、液晶の偏光フィルムに代表されるように、グローバルニッチトップを確保すべく、新製品比率を最も重視する。常に成長市場に身を置いて、売上高新製品比率40%以上を目標とする。2018年に創業100周年を迎えるが、次の時代もグリーン、クリーン、ファイン分野に軸足を置く。
・スラットパネルの次は、自動運転に代表されるカーエレクトロニクスが一大テーマとなる。それに向けて、事業ポートフォリオを大きく入れ替えていくという。医療ヘルスケア分野にも乗り出している。海外売上比率が70%を超えており、社員の7割は外国人である。現地のマネジメントは現地の人々が担っている。
・キャッシュ・フローの活用については、優先順位を決めており、①新製品・新ビジネスのための投資、②配当、③M&A(枠も明確化)、④自社株買い、という順番である。このサイクルにおいて、ROEも高めていく方針である。現在のポートフォリオをみると、偏光フィルム、アジアと、製品的にも地域的にも偏りがあるので、このバランスの改善を図っていくことが次のテーマであると強調した。
・この3社は、いずれも優れた企業である。それをマネジメント、イノベーション、ソーシャル、リスクマネジメントという4つの軸で評価してみると、筆者の個人的な評価は、12点満点(1軸3点)で、日東電工11点、シスメックス10点、大東建託9点、という内容であった。大事なことは、点数に拘ることではなく、評価軸を定めて、その中身を自ら吟味することにある。こうした活動を繰り返す中で、投資家としての収益力を見抜く力が磨かれてこよう。