新しいビジネスモデルへのトランスフォーメーション~日立のケース
・今から30年後の2045年はどんな世の中であろうか。なかなか予想はつかない。では、30年前はどうであったか。あっという間といえるが、1985年と現在を比べて、根本的に変わったことは何であろう。
・過ぎてみれば、さもありなんと想えても、予測するのは難しい。人は確実に歳を取る。人口は減少する。企業の時価総額ランキング(上位100社)も3分の2は入れ替わっていよう。国際間の緊張が大きく変化し、地政学的リスクが経済のしくみに抜本的な打撃を与えているかもしれない。
・予測できそうなことは、現状の枠組みが今のまま続くのであれば、きっとこうなるだろうと言えそうなことだけかもしれない。問題は、その前提となる世の中の枠組みが変化してしまうことである。とすると大事なことは、たとえ世の中が変化しても、その変化に対応してサバイブしていくことができればよい。
・企業としては、よりよくサバイブしていく必要があり、まさにサステナビリティ(長期的持続性)が求められる。「変化への対応」はどうすればよいのか。はっきりしていることがある。もし企業が現状のまま同じことを続けていれば、人の寿命と同じように体力は落ちて、老化し、いずれ死に至る。それを避けるには新陳代謝しかない。新しい人材を登用して、新しいビジネスモデルにトランスフォーメーション(変容)させていくことである。
・ビジネスモデルとは、価値創造の仕組みである。分かり易くいえば、長期的な金儲けの仕組みである。すでに現在のビジネスモデルが色あせてきている企業も多い。それに気がつき、次のビジネスモデルを掲げて、手を打っている企業もある。しかし、3カ年の中期計画が現在のビジネスモデルに従った匍匐前進であっては、革新的なトランスフォーメーションはできない。
・投資家は、経営者に革新的なビジネスモデルへの転換を求めている、ところが、1)次のビジネスモデルを定めがたい、2)革新的なビジネスモデルに飛躍するにはリスクが高すぎる、3)そのための十分な経営資源がない、よって4)従来の延長線上で何とかするしかない、となってしまうようにみえる。理想的には、今のビジネスモデルを次世代のビジネスモデルに自動的に進化させることができれば最高である。そうした仕組みを内在させている企業がグローバルには存在する。
・成熟期を迎えている企業には、4つのステージがありうる。①まだ余裕がある相対的危機のうちに、人材を登用して新しいビジネスモデルづくりに挑戦していく。②いよいよ絶対的危機に追い込まれて、抜本的リストラを余儀なくされる。③リストラを経て、平常な水準まで業績が戻ってくるとホッとしてしまって、次の革新的なビジネスモデルへの挑戦ができない。④過去の経験をバネにして、新しいトランスフォーメーションを実践し、新たな成長軌道に入っていく、というケースである。
・日本を代表する企業は今どのステージにあるのだろうか。いくつかの異なる事業やビジネスユニットを抱える企業にあって、それぞれの事業はどのステージにあるのだろうか。事業はポートフォリオである。良い時も悪い時もある。全力で前進してほしいと思う。
・10月に日立製作所の社会イノベーションの話を聴いた。社会イノベーションを軸にした日立のプレゼンテーションは6回目で、中西会長(CEO)の話も充実してきた。印象に残った言葉は、「アベイラビリティ・コミットメント」であった。
・日立の社会イノベーションは、社会の課題に対して、それぞれの分野の技術とICTを軸にして、ソリューションを提供し、そのことを通して新しい価値を作り出し、自らのビジネスモデルも発展させていこう、というものである。
・エネルギー、都市化、交通、スマート化、ヘルスケア、といったメガトレンドを読んで、デジタルデータをベースに分析し、モデル化して、マスカスタマイゼーションを実行していく。しかも、自社ですべてはできないので、オープンイノベーションで価値創造を行っていく。これを協創による価値創造、「共生自律分散」と名付けている。
・「協創」は簡単でない、と中西会長は強調する。課題とビジョンを共有することに、時間をかけて真剣に取り組む必要がある。合意形成に向けてワークショップを開催し、見える化して、つなぎを作り出す。これをパートナーと一緒になって実行する。そうすると、今までにない大きな構想が、社会イノベーションとなって動き出すという。
・日立はどうやって価値を創りだすのか。従来はものづくりの日立、良い製品を開発し、それを作って、提供すればよかった。もはや、ものを売るだけでは十分な価値創造はできない。販売した後のメンテナンスも大事であるが、それでも不十分である。つまり、ものやサービスを提供するというコンセプトを越えていく必要がある。
・日立は英国で鉄道ビジネスを受注し、本格展開しようとしている。そこでは、鉄道において列車がいつでも使えるというアベイラビリティ(利用可能性)についてコミットメントしている。中西会長はここを強調した。つまり、日立は鉄道ビジネスにおいて、そのアベイラビリティ・コミットメント(いつでも使える状態を約束すること)を事業として実践していく。車両やメンテナンスを提供するのはもちろんだが、もっと革新的なビジネスモデル作りに入ろうとしている。これは画期的なことである。こうした日立の社会イノベーションに期待したい。
・今やIoTの時代を迎えている。IoTは通常モノのインターネットと言われるが、Internet of Thingsのthingsはモノと同時にコトも意味する。いわば、モノとコトのインターネット化である。モノをつなぐだけでなく、コト(状態)もつなぐ。
・ハードが稼働しているデータだけでなく、システムがサービスを提供している状態の情報も利用されるようになる。ビジネスモデルの新しい革新がいたる所で起きそうである。日立のICTの活用もそこにありそうである。大いに注目したい。