株主総会の活用

2015/07/14 <>

・今年は6月26日(金)が株主総会のピークであった。この一週間で4社ほど株主として出席してみた。重なっていて参加できない会社もあったが、日にち順に印象に残った点をコメントしたい。

・6月19日(金)、NRI(野村総合研究所)に参加した。不採算プロジェクトで100億円の損失が出たことに対して、今後どのように手を打っていくのかという質問が出た。業績は順調であり、平穏に終わった。8年後の「ビジョン2022」では、“磨く、変える、創る”をテーマに、営業利益で現在の2倍の1000億円、ROE14%、売上高営業利益率14%、海外売上高1000億円を目指すという将来計画について、きちんと語った。内容的にはよくまとまっており、納得できるものであった。

・6月23日(火)は京都に行って、オムロンに参加した。“自走的成長”をテーマに、25年ぶりに売上高営業利益率が10%に乗せ、ROEも13.4%を達成した。「長期VG2020」では売上高1兆円、営業利益率15%を目指している。制御システムを中心にイノベーションによる市場開拓余地は、大アジアに大きい。オムロンの企業理念経営が具体的に語られ、会社の一体的運営がよく伝わってきた。価値創造の仕組みを現場にうまく組み込んでいる。他社を例にして当社のリスク管理体制に対する質問も出たが、実に丁寧で好ましい総会であった。

・6月25日(木)、日立製作所に参加した。業績はかなり浮上し、過去最高を達成した。さまざまな株主がいるので、まだ株主対峙色があるが、今後は改善されよう。今期は中期3ヵ年計画の3年目で、売上高10兆円、営業利益率7%を目指す。ほぼ達成できそうである。筆者も赤い紙を上げて、株主総会で初めて質問してみた。①企業価値向上における日立らしさとは何か、②他社とどのように違いを出すのか、③それを多様な事業の現場にどのように落とし込んで仕組み化していくのか、という視点である。共通プラットフォームの確立やフロントの強化を通して、社会システムイノベーションが推進されるならば、期待がもてる。次の中期計画ではROEの目標も出てこよう。

・6月26日(金)はLIXIL(リクシル)に参加した。買収した企業の中国子会社が粉飾を行っていた。中国のジョウユウは一時フランクフルト市場に上場、それを独グローエが買収し、そのグローエをリクシルが買収した。デューデリジェンス(企業価値の精査)は一流のプロを使って行い、経営陣とも直接会っていたが、中国人ファミリーの粉飾は見抜けなかった。現在、調査委員会を設置し調べている。リクシルの株主は論理的で、質問も的を射ており、出る幕はなかった。今回の失敗を次にいかに活かすか、が問われる。グローバルなM&Aはこれからも継続する。案件ごとに5~10年の収支を試算し、3年でマネジメントの一体化が図れるかどうかを判断基準にしていく。海外ビジネスの収益性を高めて、ROEをいかに8%以上にもっていけるか。挑戦のハードルは高いが、トップマネジメントへの期待は持続しているという雰囲気であった。

・「あるべき株主総会」を考えてみると、5つの重要な軸がある。各社の個性があってよいので、ここでは一般論としての視点で検討する。1つは、マネジメントの軸で、経営者が株主からの企業価値向上に関わる質問に対して、真摯に受けとめてきちんと答えているか。特別な意見を開陳したい株主は別にして、これを受け止めて答える姿勢にかなり違いが見られる。

・2つ目は、成長に向けたイノベーションの軸である。会社としてどのような成長戦略を実行していくのか。そのためのイノベーション(仕組み革新)にいかに取り組んでいるか。この点を価値創造とのコネクティビティ(結びつき)を含めて明確に語っているか。ここにも差が見られる。

・3つ目は、ESGの軸である。環境、働き方、ガバナンスにおいて、納得できる経営を行っているか。その説明をきちんと取り入れているかどうかで差がある。環境経営、ダイバーシティ、コーポレートガバナンスの実効性について、価値創造の視点から語ってほしい。

・4つ目は、業績変動に対するリスクマネジメントである。1)不正競争を行っていないか、2)不採算プロジェクトのマネジメントはできているか、3)海外子会社の内部統制は本当に大丈夫か、4)M&Aのデューデリジュンスに抜かりはないかなど、株主はビジネス優先の甘い管理は許さないという姿勢である。

・5つ目は、将来のビジネスモデルを描いているか、という軸である。価値創造の仕組みであるビジネスモデルを、どのように新しいものに仕上げていくか。そのビジョン、戦略、KPIをきちんと語っているかどうかで、大きな違いが出ている。

・以上の5つの軸を3段階(3点、2点、1点)で評価してみると、15点満点に対して、オムロン 14点、NRI 13点、日立製作所 10点、リクシル 9点であった。これは筆者の個人的評価であって、単なる参考値である。投資家本人が自ら評価することが重要である。株主総会の中で、企業が株主に訴えるコンテンツについて、株主が自ら評価してみる。①会社説明会で納得して株主になり、②総会に出て会社の将来を確認する、③確認できれば株主を継続し、できなければ株主をやめる。その意味において、株主総会の改革は、制度的にも自主的にも、一段と進められるべきであろう。

 

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