企業価値創造に向けた戦略実行と統合報告(IR)の活用
・CFOエグゼクティブフォーラム(CFO協会)で、スリーエムジャパン(3MJapan)の昆政彦副社長の話を聴く機会があった。CFOの役割について3つの視点から考えを述べたが、その中でIR(Integrated Reporting、統合報告)の枠組みを活用することが有効であると強調したことに注目したい。
・まず昆副社長はアカウンタビルティの意味についてコメントした。通常は、説明責任と翻され、きちんと説明すべしととられるが、それでは不十分であるという。アカウンタビリティには執行責任が伴うので、やるといってできなかったことに対する責任を意味する。かつて、日産自動車にカルロス・ゴーンが乗り込んできた時、一緒にきた仏ルノー出身のCFOは、アカウンタビリティとは結果の責任をとることであり、できなかったらやめるということだと説明したことを思い出した。つまり、コミットメントとアカウンタビリティは対になっているといえよう。
・CFOの役割については、昆副社長は自ら30年間財務で働き、CFOを努めてきた経験から、3つの目線を強調する。1つは、社長と同じ目線、2つは市場と同じ目線、3つは戦略実行と同じ目線である。
・1つ目の社長と同じ目線については、LIXILの藤森社長や富士フィルムホールディングスの高橋元副社長(CFO)も同じように指摘をしている。社長の替わりが務まるような経営の視点を共有しながら、財務をみていく。1年後、2年後、3年後の事業推進において、そのPDCAに具体的に関わって行くことが重要である。
・3MJapanは、5つの事業分野を柱とする。技術のベースは同じものながら、領域として、①コンシューマ、②エレクトロニクス&エネルギー、③ヘルスケア、④インダストリアル、⑤セーフティ&グラフィックスに分けている。ポストイットの接着剤はもちろん、液晶フィルム、交通標識など当社の製品は、実に多様なところに使われている。
・市場は米国以外が65%と、グローバルに展開している。常に、テクノロジー、プロダクトのイノベーションによって、社会的価値を上げることをビジョンとしている。面白いだけのイマジネーションでは対価は払ってもらえない。顧客が価値を見いだせるイノベーションを追求する。価値に対してお金を払ってくれるプロフィッタブルマーケットを相手に、市場を作っていく方針である。リージョナルを重視し、その国に合ったものを提供するために、日本の3Mでも独自のR&Dや生産拠点を充実させてきた。
・事業の推進の当っては、①ポートフォリオ・マネジメント(PM、5セグメント27事業部)、②イノベーション投資(II)、③ビジネス・トランスフォーメーション(BT)をレバー(操縦桿)としていく。BTとは、PMやIIをできるだけシンプルにするためのソリューションをビジネスプロセスに埋め込んでいくことである。
・3MJapanでは5カ年計画を作るが、その前に社会情勢のメガトレンドを知るという作業を行う。直近では、1)ヘルスケア、2)インフラ、3)エネルギー、4)ハイテク、5)新しい購買行動などがテーマとなった。そこで見定めたメガトレンドを中期計画のプログラムに落とし込んでいく。
・この中期計画は毎年作る。5年目までの計画を現在に戻して絶えず見直していく、という方式である。ベクトルを設定し、戦略を立て、予算として具体化する。それをモニタリングして、戦略の見直しを踏まえて計画を立て直し、次の1年に活かしていく。5カ年計画を毎年ローリングしていく。
・さらにユニークなのは、経理財務部門にビジネスカウンシル(事業協議)の機能を持っており、そこにいる事業アナリストが事業計画の立案遂行の推進役となる。事業アナリストは事業の将来をみて、ビジネスプランに責任を持つ。
・2つ目の株式市場と同じ目線を持つという点では、トレジャリー(キャッシュベースの資金マネジメント)に力を入れている。上場企業としての3M(米国本社)は、①EPSを毎年9~11%伸ばす、②そのうち内部成長は4~6%で、足らないところはM&Aや自社株買いなどで対応する、③追加資本に対するROIC(投下資本利益率)は20%を確保する、④FCF(フリーキャッシュ・フロー)のコンバージョン比率(FCF/ネットインカムで定義)100%を以上とする、ということを2013~17年の中期計画でコミットしている。
・3つ目の戦略実行の目線に立つという点では、IIRC(国際統合報告評議会)のフレームワークを重視する。つまり、どこで企業価値を生み出しているかについて、6つの資本(財務資本、製造資本、人的資本、知的資本、自然資本、社会資本)という観点で、検討を加えている。もともと3Mは、PM、II、BTなど独自の価値創造モデルを確立し、それを磨きつつ実践している。技術と製品は必ず分け、製品は陳腐化しても、技術は捨てない。自由に新しいものに挑戦できる仕組みを持っている。それを踏まえて、事業アナリストが作った価値創造のロジックツリーを、IIRCのオクトパスモデル(6つの資本)に入れてみた。これが、自らの価値創造プロセスを再認識することにもなった、と昆副社長は強調した。
・3Mのビジネスモデルは強い。その強みを引き出すべく、価値創造のロジックツリーが機能している。それが、IIRCの枠組みにも合致しているとすれば、投資家にとってはより理解しやすいものとなろう。企業サイドにおいても、投資家との対話において、今後さらに重視すべきものがみえてくるとすれば、それこそが対話のコンテンツとなろう。3Mのマニュアルレポートを読んでみたが、まだそこまでは書かれていないように思う。3Mのアニュアルレポートの統合レポート(IR)化に期待したい。