アナリストからみた業績予想と企業価値評価

2015/01/19 <>

・かつて「アナリスト10カ条」というものを作った。自らが実践し、それを踏まえてアナリスト育成の原則とした。今でも当時のアナリスト達が時々使ってくれているらしい。そこで、この10カ条を振り返ってみる。

・第1条は、「担当企業の正確な業績予想ができますか」、という内容である。これが難しい。多くの会社は、今期の会社予想を発表するが、来期の予想はない。来期を予想するためには、いろんな要素を勘案する必要がある。ましてその先となると呻吟するかもしれない。

・第2条は、「担当企業のベーシックレポートを書いていますか。」 ベーシックレポートとは、その会社について、①特色、②強み、③中期経営方針、④当面の業績、⑤企業評価がしっかり書いてあるレポートである。会社のホームページやマニュアルレポートからそのまま引用したのでは意味がない。自分なりにその会社をどうみるかという点を強調して書き下ろすのである。これをやっておかないと、来期の業績すらきちんと予測することはできない。

・第3条は、「担当業界の深い産業分析レポートを書いていますか。」 会社は必ず競争相手とどこかで戦っている。なかには、1社1業種というのもあるが、所属する業界について同業他社も含めて分析する必要がある。その会社がグローバルに活動するなら、海外の企業も詳しく調べる必要がある。とすると、そのための時間と労力はかなりかかることになる。

・第4条は、「担当企業のマネジメントと良好な関係を築いていますか。」 担当企業に対して理解を深めるには、トップマネジメントと議論できるような関係を作っておく必要がある。先方から一目おかれる存在になっておくことが求められる。そのために企業レポートや産業レポートが重要な役割を果たすことになる。

・第5条は、「担当企業の株価動向を説明できますか。」 株価は長期的には業績を反映するとしても、短期的にはいろんな要素によって変動する。株価変動の7割はその会社の固有要因ではなく、マクロ的な要素が大きく影響するともいわれる。経済の動き、市況の変動、為替の影響などのマクロの要因、業界のイノベーションや構造変化、競争条件の変化などに関わるミクロの要因がどのように株価を動かしたかについて、十分理解しておく必要がある。

・第6条は、「投資判断をタイミングよく顧客にリコメンドできますか。」 株価とういうのは、業績に並行してなだらかに動くわけではない。年に数回、数年に1回という頻度で大きく水準を変えることが多い。大きく変動する前に、自分なりの分析に基づいて人よりも早く違った意見を発する必要がある。株価が動いてしまった後、つまり多くの投資家が売買をした後、後追いでフォローしても独自の存在感はでない。

・第7条は、「投資アイデアを提供する顧客ネットワークを持っていますか。」 自分の意見に一目おいてくれる投資家と普段からしっかりした信頼関係を築いておかなくては、大事な勝負の時にアクションをとってもらえない。顧客の投資判断の参考になってはじめて、アナリストとしての意味があり、ビジネスも成り立つのである。

・第8条は、「財務戦略について担当企業に提案できますか。」 インベストメントバンキング(企業金融)の立場ではない。あくまで投資家の立場に立つアナリストとして、担当企業の財務戦略について、アドバイスできるようになると、会社のCFOにとっても大いに役立つ。

・第9条は、「経営戦略について担当企業に提案できますか。」 会社は自らの経営について、最も分かっているはずである。アナリストや投資家に経営判断などわかるはずないという意見も有力であるが、そんなことはない。広い視野で、同業他社や、別のセクターの先行事例などをみていると、その会社のマネジメントについて別の意見が出てくる。それが、会社にとって役立つこともある。ここまでくると一流のアナリストといえよう。

・そして第10条は、2つのパターンがある。1つは、「産業界、金融資本市場に政策提言ができますか。」 もう1つは、「独立しても今の仕事が続けられますか。」 国や業界に関わる政策について、現在所属する組織を離れて、的確な政策を提言できれば、その意義は大きい。また、独立してもビジネスが遂行できれば、本物のプロフェッショナルといえよう。

・分析(アナリシス)の基本は、①比較と、②予測にある。比較は、同質なものから異質なものに行くほど難しくなる。予測は、短期、中期、長期と、長くなるほど容易ではない。

・企業業績の予測能力は、企業レポートを書いて、3年程度フォローすると積み上がってくる。企業の中身は常に変化しているが、ビジネスモデル(価値創造の仕組み)のコアや勘所が身に着いてくるからである。

・それでも、注意すべきことがある。1つは、予想が当たるということは、その企業にあまり変化がなく、なだらかな動きが続く場合である。もっと大きなビジネス変革が必要なのに、それを怠っていることもある。従って、当たったといって喜んではいられない。

・もう1つは、予想が当たらず、はずれる場合である。業績予想のモデルは合っているが、インプットのデータが違った場合、それはインプットを入れ直せば修正可能である。ところが、モデルが間違っていた場合はそもそも当たらない。後者の場合は、自らの能力を抜本的にたたき直す必要があり、資質としてアナリストに向いていない可能性も高い。

・実は、ビジネスモデル自体が常に変化していく。会社の意思によって戦略的に変化させていく場合と、マーケットにおける次なる革新によって、その会社のビジネスモデルが崩されていく場合もある。従って、最も大事なことは、価値創造の仕組みであるビジネスモデルの頑健性と自律的な変容について的確に分析し、フォローしていくことである。ここに、業績予想と企業価値評価のベースを提供するアナリストの本質的役割があるといえよう。

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