ヘルスケアへの投資

2026/04/20 <>

・アナリストとして、あなたの担当は何ですか。こう聞かれると、ITとヘルスケアと答えている。15年前に決めた。実は、中小型企業の企業価値創造の仕組みを分析して、投資に役立てることを本来的目的としているので、セクターにはさほど拘っていない。

・ITはどの企業にも重要である。トレンドはITからDXへ、そして今やAI全盛期である。ヘルスケアは医療サービス、創薬、未病、健康など、高齢化社会の最大テーマであり、高齢期に向けた資産運用も重要である。

・昨年11月の世界経営者会議(日経主催)で、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)のデュアントCEOの話を聞いた。

・J&Jは、140年の歴史の中で、3年前に消費者関連の事業から撤退し、医療関連に集中することにした。イノベーションによるブレークスルーで、創薬を目指す。癌を、慢性治療を要する病気と捉えて治すと決めた。

・もう1つの認知症は、いかに神経細胞を再生させるかがカギである。脳にも集中していく。膨大なデータを処理するデータサイエンスの変革と同時に、外科領域では視覚ロボットも重要である。ここにも力を入れる。今後10年で過去100年分の変革を成し得る、と挑戦を続ける。

・高齢化社会にあって、健康に長寿を全うするには、早い診断と予防が大事である。これもテクノロジーで促進できる。ヘルスケアを担うライフサイエンス分野は、経済成長のリード役になれよう。

・認知症をケアする社会的コストは高い。よって、認知症の治療がうまくいけば、ポジティブなインパクトを社会にもたらす。ヘルスケアはコストではなく投資であり、そのインパクトは大きい。リターンも十分見込めると、デュアント氏は強調した。

・中国市場をどうみるか。J&Jは常にオープンで、イノベーションはどこからでも起きる。中国での開発も進めており、コラボレーションが重要である。患者のため、という共通の目標に向かっている。

・米国はどうか。トランプ関税は患者のためになるのか。それでも、J&Jは、米国に550憶ドルを投資して製薬の拠点を作ることにした。サプライチェーンを強靭にしていく予定である。

・エーザイの認知症への取り組みはどうか。認知症の①悪化抑制、②発症抑制、③悪化完全抑制を目指して、創薬を進めている。まず検査をバイオマーカーで簡単にできるようにして、在宅投与で治療できるようにしていく。AD(認知症)フリーな社会を作っていこうとしている。

・認知症は発症するまで時間を要する。20年前からアミロイドベータが徐々に溜まっていく。レカネマブは、症状が出る前にアミロイドベータを抑制する。エーザイはここで先行した。さらに、神経細胞に影響するタウを抑制する抗体の研究も進めている。

・1)効く人を選択する。2)投与量を決定する。3)治療の終着点を明確にする。こうしたプロセスで開発を進めている。とりわけ、タウを攻めるユニークな抗体、エタラネタグでエーザイは先行している。エタラネタグの開発に加えて、レカネマブ+エタラネタグで、世界をリードする方針である。

・エーザイのレカネマブ(商品名レケンビ)の社会的インパクトはどうか。2024年の価値創造レポート(統合報告書)で、シミュレーションを示している。米国におけるレケンビの社会的インパクトは、2025年度で2600億円、これに対して2030年度は1.8兆円と試算している。

・この社会的インパクトとは、レカネマブの治療によって、患者当事者と関連介護者の負担が軽減され、それによって得られる社会的付加価値である。

・今回は1人当たり年間社会的価値37600ドル×10年間×当事者数で計算している。その社会的インパクトのうち、エーザイの製品売上として4割、米国社会への還元が6割として試算している。

・つまり、自ら開発した商品・サービスが社会にもたらすインパクト(経済的貢献度)を考慮し、そのうち自社にどのくらい戻ってくるかをシミュレーションしている。こうしたシミュレーションは、バリューチェーンにおける貢献度の測定、という観点からみて画期的である。

・一方で、社内で生み出した付加価値をESG Value-Based損益計算書として開示している。人的資本としての人件費も含めて、営業利益+R&D(知的資本)+人件費(人的資本)=ESG EBITと定義している。

・R&Dや人件費は単なる費用ではなく、付加価値として評価している。この開示も画期的である。次はここから付加価値生産性や付加価値収益率などの分析に進みたい。

・では、認知症にならないための社会的活動はどうであろか。理化学研究所の大武美保子氏(ほのぼの研究所代表理事)の話を聴く機会があった。大武氏は、認知症を予防するための会話支援手法「共想法」を実践している。

・共想法では、1)参加者は出題されるテーマについて、写真を撮って持ち寄る、2)何人かが集まった中で、話し手は写真について話し、3)周りの人の質問に答えながら、自分と違う視点を知り、思考回路を広げる、というやり方である。会話を通じて、想いを共有する方法なので、共想法と名付けた。

・これを、何人か人が集まるのではなく、対話支援システムとしてのロボットと行ってもよい。あるいは、遠隔会話支援システムでもよい。とにかく違った発想の日常的会話が、脳機能の長持ちにつながるという効果を狙っている。

・アルツハイマー型認知症の予防では、1)生理的アプローチでは、酸化、糖化、炎症を防ぐ、2)認知的アプローチでは、言語活動、知的活動、社会的交流を活発化させることが効く。食事に気を付け、運動をして代謝を上げ、質問し合って視野を広げ、これまで使っていない脳の回路を使うことである。

・薬ではなく、非薬物療法の研究と実践も進んでいる。認知症の70%はアルツハイマー型で、脳神経にタンパク質のカスが溜まっていく。20%は脳血管の別な原因に帰する。

・いかに、生理的進行を遅らせるか。認知的影響を減らすことによって、元気な脳をキープしたい。将来は、タンパク質に溜まるカスを除去できれば、脳が若返るかもしれない。血管の若返りにもなろう。

・病気にならないように、病状が悪化しないように、健康が維持できるように、ヘルスケア産業の関わる余地は広い。予防、治療に向けて、さらなるイノベーションの実践を期待したい。

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