のれんの償却をどう評価するか

2026/01/19 <>

・売上高500億円、営業利益100億円の会社がある。売上高営業利益率は20%と、利益率は十分高く、儲かっている会社といえよう。

・総資産は600億円、純資産(自己資本)300億円の会社なので、自己資本比率50%と財務体質もよい。純利益が60億円なので、ROEは20%となり、この水準も極めてよい。

・PERは15倍で評価されそうなので、ROE×PER=PBRとして時価総額900億円が妥当水準とみられる。現状の時価は500億円なので、株価は割安といえよう。

・この会社が成長戦略として、200億円のM&Aを実施してある会社を買収した。この会社は売上高150億円、営業利益10億円、純資産40億円であった。

・のれん代は160億円、8年で償却するので、年間ののれん償却は20億円となる。親会社のEBITDA(営業利益+減価償却)120億円に対して、M&Aを実施した子会社のEBITDAは(営業利益+減価償却+のれん償却)20億円となる。

・連結すると、売上高650億円、営業利益90億円、EBITDA 140億円、ROE15.9%となる。のれんの償却が20億円あるので、連結営業利益は90億円(100億円+10億円-20億円)へ減ってしまう。ROEも20%から15.9%へ下がってしまう。EBITDAは120億円から140億円へ増えている。これをどう評価するか。

・日本の会計基準でなく、IFRS(国際会計基準)を採用すると、のれんの償却はしなくて済む。そうすると、営業利益は110億円、ROEも19.4%となる。のれんを償却しない方が財務的な数値はよさそうにみえる。

・では、のれんとは何なのか。買収する企業の価値をバランスシートに載っている財務数値より高く評価した。その評価した分を新しいバランスシートに反映させる。それは投資であるから、設備投資と同じように一定期間で償却していくのか。

・あるいは、新しく評価した価値は年々減っていくものではないので、償却する必要はない。価値が明らかに減価した時には、その時に減損として特別損失を出せばよいので、毎期定期償却する必要はない。

・のれん代の償却は必要か不必要か。投資家にはどのように見えるか。PL(損益計算書)派は営業利益を重視する。先の例では、のれんの償却で営業利益が減ってしまい、ROEも下がってしまう。ここに引っ張られて評価する。

・一方、CF(キャッシュフロー)派は、EBITDA(償却前営業利益)を重視する。のれんの償却といっても、実際のキャッシュが出ていくわけではない。重要なのはキャッシュインフローで、これは増えている。ROEもやや下がるだけにとどまる。よって、PL派よりは企業価値を高く評価しそうである。

・では、実際の株式市場では、どのように評価されるか。一律には判断できない。M&Aが中期的に成長戦略に寄与するのか、会社の狙い通りの成果が出るのか、M&A後のPMI(買収後の経営統合)がうまくいくのか、などによって、将来キャッシュフローに関わる財務的な数値の評価は分かれてこよう。

・アナリストとしての私の体験では、M&AはCFで評価すべき(将来キャッシュフローの現在価値を見る)としても、結構PL派に引っ張られているように感じる。それならば、日本基準をIFRS(国際会計)基準に替えて、のれんを償却しなければ、この問題はなくなるであろうか。

・新たな問題が発生しよう。M&Aで思うような成果がでない時、のれんついては一気に減損を行う必要が出てくる。将来CFを見積って現在のビジネスを評価する。ここには一定の予測を伴うので、経営陣によって、あるいは監査法人によって、評価の程度に差が出る。

・投資家にとっては、突然、ドスンと減損が発生するので、サプライズとなることが多い。キャッシュアウトは伴わないとしても、M&Aを実施した時の投資が、その時点で失敗ではないかとみなされる。

・しかし、どんなビジネスにも浮き沈みはある。内部成長を図る事業でも、外部成長として時間を買うM&Aでも、事業の成否、巧拙にはさまざまな経路がありうる。のれんの償却の良し悪しを一律に決めつけることはできない。

・M&Aは、日本企業にとって重要な戦略となっている。今や当たり前に、どの企業もM&Aを行う。経験も蓄積している。よって、IFRSを採用しなくても、日本基準でものれんを償却しなくてよいような会計処理が一般化してよいと考える。

・日本の会計基準を変更して、例えばプライム上場企業には、のれんの非償却を義務付け、一律に比較できるようにする。スタンダードやグロースの企業は、のれんの非償却を選べるようにする、というのが望ましいと思うが、いかがであろうか。

・のれんの非償却が認められれば、M&Aは明らかにもっと活発になろう。投資家は利益の実態を見やすくなるので、企業に対する株式市場での評価も明暗がはっきりしてこよう。ポジティブな評価がより表面化してくることに期待したい。

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