インパクト投資とは何か

2025/12/09

・インパクト投資を実践している人からみれば、今頃何を素朴な問いを発しているのかといわれそうである。しかし、投資の目的は何か、というのは本質的な問いで、ここが明確でない投資などない。

・投資とは、お金を投じて、うまく儲けたい。儲ける方法は何でもよい、という人は少ない。企業家や起業家でも、楽しくて儲かれば何でもよい。早く時価総額1000億円企業になりたいというだけでは、誰もついてこないであろう。

・企業家には志があり、今どきであれば、パーパスやミッション、ビジョンがそれに相当する。ここをもう一度明確にして、ステークホルダーに共有してもらい、価値創造をしたいというのが基本であろう。

・インパクト投資とは、社会的課題の解決に貢献しつつ、しっかり儲けるという投資をいう。それは、普通の事業投資と何が違うのか。社会的課題に手を打つこと、その意義は大きいとしても、収益性が見込めそうにないテーマというのも多い。

・それは無理なので、政治や行政のサポートに任せようというのではなく、工夫して、ビジネスモデルを作り上げれば、目的とするソリューションに貢献しつつ、収益を上げることができる。そういう投資を大いに実践しようというのがインパクト投資である。

・儲からなくてもよいNPO法人ではなく、一定の投資収益を上げるべく邁進する。リスクは高そうだが、つまり実現は難しそうだが、できれば意義は大きい。それで儲かるなら、そんなよいことはない。

・社会的意義に賛同する人々が多ければ、投資してくれる人は出てこよう。それを推進する組織、事業体にも人が集まってこよう。人はやりがいのある仕事の一翼を担いたい。報酬のために働くだけでは楽しくない。もっと意義を見出したいのである。

・インパクト投資は、文字通り、社会的インパクトを第一義的とする。このインパクト、つまり、社会的にどんな意義をもつか、そのソリューションを実行することによって、どのくらいの効果(インパクト)があるかをきちんと測る。

・その上で、それがビジネスとして成り立って、一定の収益性が確保できるようにする。これができれば、まさにサステナブル(持続的)で長期的に運営できる。寄付や補助金だけに頼らなくてよい。

・金融庁は2024年3月に「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を出した。インパクト投資は、サステナブルファイナンスの1分野であり、社会・環境課題の解決と事業性の改善を図り、経済基盤の強化、持続可能性の向上に資すると位置づけた。

・収益性について、一定の収益性の実現を図るものに限定している。インパクト投資では、①投資に意図の明確化、②投資実行の効果の実現、③効果の測定と管理、④それによる市場や顧客の変革を支援する。

・投資の意図では、その社会的課題の解決への貢献を、自らの事業主体のミッションやパーパスと整合的に関係付けることが求められる。投資の効果を特定し、測定し、管理することが大事である。このIMM(特定:Identification、測定:Measurement、管理:Management)に当たって、定量的なKPIを設定すべきである。

・投資対象の資産クラスは多様でよい。ファンド、クラウドファンディング、スタートアップなども含む。では、インパクト投資とESG投資は何が違うのか。これも各々の定義をどのように定められるかに依存する。経済的価値と社会的価値の両立をどの範囲で定めるかによるといってもよい。

・経済的リターンをどのレベルにおくか。「一定の投資収益の確保」という中で、一定とはどのレベルか。投資収益の最大化か、資本コストを上回る水準か、赤字にならなければよいのか。この一定の水準には、何らかの満足度基準が必要である。

・極大化である必要はない。経済的価値と社会的価値の共存領域を自ら設定し、ファイナンス提供者の共感を得ていく必要がある。慈善事業ではないので、WACC(資本コスト)を上回るROIC(投下資本利益)はほしい。

・大事なことは、分かり易さであろう。出来そうもないことに挑戦していくことが、起業家としての事業推進であるとすれば、インパクト投資の中身を分かってもらうことは容易でない。リスクはある。そのリスクをとってソリューションを実現するからリターンが得られる。

・インパクトの特定、測定、管理というIMMは、実はどの上場企業にとっても重要である。自らの創り出す企業価値がどのような社会的インパクトを有しているのか。その測定に挑戦してほしい。

・自らが提供する製品やサービスが、今の売上高ではなく、市場や顧客にとって、どのくらいの価値があるのか。彼らは、わが社の提供価値から、さらにどのような価値を生み出しているのか。このバリューチェーンの各々における余剰価値を、何らかの形で計測したい。そうすれば、自らの提供する製品やサービスの価値を再認識できる。

・社会的価値に経済価値が見合っていないとすれば、ポジティブにもネガティブにも戦略を見直す必要があろう。新規事業ならば、その事業のインパクトから対話を始めたい。

・日本CFA協会のセミナーで、ヘルスケアのCureApp(キュア・アップ)社の話を聞く機会があった。この会社は医師が設立しており、デジタルのアプリで質の高い治療を提供している。例えば、ニコチン依存症治療アプリ、減酒治療アプリ、高血圧症治療アプリ、慢性心不全治療アプリなどを開発して、実際の治療に役立てている。

・すべての人が、医療格差がなく、良質な医療を受けられるようにすることを目指している。ソフトウェアで治療を再創造することをミッションとし、アプリで治療する未来を創造することをビジョンとする。

・同社は、2024年に初のインパクトレポートを発行し、1)ビジネスモデル、2)インパクトのロジックモデル、3)マテリアリティの特定を行っている。まさに、インパクト経営の実践である。

・インパクト投資が広がりを見せている。何が本物のインパクトなのか。それが企業価値にどう結び付けているのか。その価値創造は正当なのか。もっと見直されてよいのか。こうした視点で、企業のインパクト価値を再考して、新しい価値を発見したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ