地政学的リスクの中での半導体産業
・わが国の半導体産業はどのように発展するのか。地政学的リスクが高まっている。治まる気配がない。局地戦ではあるが、戦争が継続している。ロシアはなぜウクライナに侵攻したのか。イスラエルはパレスチナをなぜそこまで攻撃するのか。中国は台湾を武力で制圧するのか。
・武器に半導体は不可欠である。軍需産業と民需産業はかなりオーバーラップしており、コアパーツは自国で量産しておかないと、いざという時に武器の供給が間に合わない。戦いは兵力に依存する。兵力を支える食糧、武器、弾薬が十分でなければ、戦闘は継続できず、早晩自滅してしまう。
・戦争には大義が必要である。所詮、力がものをいう。そう考えている国がある限り、守りを固める必要がある。パワーバランスが重要なので、守りつつ、余計な刺激をしないことである。ところが、これがうまくいかない。一方がバランスに不安を感じ、国防に弱みがあると想定外に攻めてくる。攻められる方は突然と考えるが、よくみると突然でないことも多い。
・日本の半導体産業は、米国の力で凋落を余儀なくされた。日米半導体協議の中で、枠をはめられ、経営の失敗もあり、メモリーを中心に90年代に競争力を失った。一方で、半導体材料や製造装置の国際競争力は、多くの日本企業の努力によって未だに輝いている。
・米中貿易摩擦は、トランプ第2次政権下で、世界貿易戦争に突入している。関税をかけて自国の産業を守ろうという政策が乱発されている。
・トランプ流の政策は無謀のように見えるが、狙いは、①貿易赤字の削減、②減税、③規制緩和にある。製造業を米国内に取り戻し、減税によって生活者を支援し、規制緩和によって、AI、半導体、DC(データセンター)、発電などの先端分野を切り拓いていこうとしている。
・日本は半導体産業を復活させる必要がある。従来型の半導体ではなく、次世代の半導体の産業基盤を強化して、個々の企業の競争力を高め、グローバルな供給力を高めていくことが求められる。
・TSMCの熊本工場(JASM)は生産が本格化しており、第2、第3工場も計画されている。四日市のキオクシア、広島のマイクロンも活発である。千歳のラピダス(Rapidus)はIBMと連携しつつ、国産の先端半導体工場として、2027年の量産を目指している。小池社長はスピードを重視し、開発製造と顧客開拓を一気に進めている。
・そのファイナンスがついてくるか。政府主導の資金投入を呼び水としつつ、大手の金融機関も巻き込んで、大型ファイナンスを実行していく。5~10兆円規模の企業を5~10年で立ち上げようという壮大な計画である。
・ラピダスの半導体を必要とするニーズは高い。半導体の設計、AIへの応用、データセンターでの利用など、2ナノの半導体を必要とする企業は多い。遅れては意味がない。スピードが勝負である。半導体製造装置、前工程、後行程での加工プロセスにおいて、材料、部材の新しい領域も拡がっている。ここでのイノベーションもグローバルに熾烈である。
・ラピダスは、次世代半導体工場として、RUMS(ラムス:Rapid & Unified Manufacturing Service)を目指している。設計、前工程、後行程の水平分業ではなく、それらを統合してスピーディに生産する仕組みをビジネスモデルとする。
・同時に、ゼロカーボン、自動操業、リサイクルを実現するコンセプトをIIM(イーム:Innovative Integration for Manufacturing)と名付け、それを推進している。
・実際、ウェハをバッチで生産するのではなく、1枚、1枚を生産し、次の工程に流していく。これによって、ビッグデータの活用が進み、歩留りの改善も大幅にスピードアップさせる。また、回路の線幅の小ナノ化、パッケージングの3D化、CPU、GPUの専用化によって、回路の電力消費量を大幅に削減する。
・次のR&D、イノベーションでは、光電融合デバイス(光チップレット)の利用が具体化しよう。量子コンピュータも実用に入ってこよう。膨大な投資が継続的に必要となる。需要とのタイミングがうまく図れないと、投資判断に踏み切れない。
・ここで遅れが出ると、かつての二の舞になりかねない。投資に遅れて、ビジネスをものにできず、新半導体産業が立ち上げられなかったら、産業の競争力は低下し、国力もしぼんでしまう。国を守る防衛力にも影響が出よう。
・半導体の前工程では、ナノレベルの回路を形成し、後行程ではパッケージングにおいて、高層化して高集積化を図っていく。パッケージングでは、基板、配線、形成、接合などの超精密化が勝負となる。1社独立ではなく、いかに連携を図っていくかが、半導体材料メーカーにとって重要な戦略となろう。
・GAFAMからみると、AIの活用にとって、半導体は重要戦略部品である。自ら製造に関与して、供給力を確保し、AIの利用に当たっては、データセンターの電力も自ら調達するというエコシステム創りを目指そうとしている。
・米国がイノベーション競争のトップフィールドであることにかわりない。人材の採用・育成・定着には、今後ともかなりの工夫が求められよう。
・日本の半導体産業を強化するには、3つの視点が重要である。第1は、サプライチェーンにおける自らのポジショニングを認識し、それをいかに強化するかである。需要変動と供給力の制約から、半導体産業は汎用品になると市況変動が大きい。
・市況の変動が大きいと、不況期に苦境に立たされるので、下位メーカーは生き残れない。大手集中型になってくるので、部材メーカー、材料メーカーの中小企業においても、自らのポジションをよく知っておく必要がある。小粒でも重要部材を担当しているならば、その地位を活かして、高付加価値化が図れるはずである。
・第2は、供給力の確保という点で、先行投資を躊躇しないことである。内外の需要先の先まで見渡して、ニーズを探りつつ、消費地立地の工場建設を自らまたはジョイントで計画し、推進してく。人材、資金面で常に不足感に悩まされるとしても、投資は怠れない。上場企業、地域金融機関との連携も必須である。
・第3は、カスタマーと連携しつつ、R&Dで先行することである。先が見えないことも多いが、トレンドを見て、流行に流されることなく、研究と開発を分けて進めていく。常にグローバルな市場を同時にみていく必要がある。半導体専門商社や製造装置メーカーとのつながりも重要となろう。
・AIと半導体は今後の成長を見据えて、重要な投資テーマであるが、波があるので、注意を要する。需要変動、投資サイクル、地政学的リスクなど変動が大きい。台湾有事の時、台湾の半導体工場はどうなるのか。台湾からの難民に対して、日本はどこまで受け入れるのだろうか。混乱はあるとしても、一定の受け入れは必須であろう。
・日本の半導体関連企業は今後も一律に成長でするわけではない。グローバルな序列は今後の戦略によって大きく変動しよう。その中で、ニッチトップを狙えるような企業にまずはフォーカスしたい。
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