企業価値創造の経営に向けて
・価値とは何か。さまざまな捉え方があろうが、第一義的には、「主観的な良さ」とみておきたい。主観的ということは、個々人にとって受け止め方が異なる。良さといっても、何が善いことなのか、大事なことなのかは、人によって違うかもしれない。
・この価値が、個人的なものでなく、何らかの組織や社会で共有できるものとなれば、それは多くの人々に広がっていく。良さは、効用として捉えることもできるし、幸せとして捉えることもできる。
・企業価値という場合は、企業に関わるステークホルダーと共有できる価値(良さ)ということになろう。この良さをどう定めるかは、個々の企業の自由である。それがステークホルダーにピンとこなければ共感は得られない。
・わが社の企業価値は、何を成し遂げることによって実現されるのか。こう考えると、価値のありようがはっきりしてくる。創業者、経営陣、社員にとってのパーパス、ビジョン、理念がその根幹となろう。
・企業価値のありようを投資家に訴求していく。納得して中長期的な株主になっていただければ、価値創造に邁進できよう。
・では、価値をどう測るか。その場合、定性的な価値を、定量的に測ることを明確にしてほしい。最終的には財務的なお金で測るとしても、その前の段階で何らかのKPIがほしい。例えば、顧客の数を10倍にするとか、1人当たり顧客の満足度を3倍にするとか。さまざまな定義の仕方があろう。
・次に、財務的な指標でみれば、PBR=ROE×PERという関係式において、PBRを2倍以上に上げてほしい。ROE 10~15%、PER 20倍を実現すれば、それが達成できよう。
・ROEは、極大化するのではなく、満足度基準として15%をベースにしてほしい。その上で、それを達成するための成長戦略を見える化すれば、PERで20倍が確保できよう。
・上場企業にとって、自らの投資機会はどこにあるのか。まずは自らのリソースを整える必要がある。R&D、人材教育、組織開発、M&Aなど、必要なリソースを求めて、先行投資を行う。そのための資金が足りなければ、ファイナンスしていく。ファイナンスするためには、資金の出し手に事業計画を納得してもらう必要がある。
・デットファイナンスと共に、もっとエクイティファイナンスを活用してよい。手持ちの余裕資金に拘る必要はない。事業の先行きが十分読めなくても、投資をしたい案件もあろう。それをやるのか、やらないのか。このリスクマネジメントも大いに問われる。勝負するにはやはり勝算がほしい。
・企業が事業ポートフォリオの組み替えに本格的に取り組まないならば、投資家は自らのポートフォリオから、その企業は外すだけである。資本市場で一定の評価が得られなければ、自社の衰退は加速しよう。
・企業の新陳代謝が進むという点では望ましいが、その企業にとっては我慢できない。経営陣の入れ替えや、本格的な資本業務提携などが急がれよう。
・経営の変革には時間がかかる。その通りであろう。かと言って、匍匐前進では相対的な遅れをとって、消耗戦になってしまう。もっと効果的な戦略を立てて、迅速に実行せよ。これが命題である。
・その戦略が分からないとなれば、経営陣は交替するしかない。戦略は分かっても、リソースが足らないという時にどうするか。できる範囲で手を打つというだけでは、負け戦になりかねない。優先順位を決めて、大胆に打って出る必要があろう。ここでも、CEOの交替が必須となろう。
・通常の中期計画でそれができるか。ほとんどの場合、無理である。多くの企業は、それほど本気で中期計画を作っていない。本気の中期計画を作って、実践するには相当の準備が必要である。さもないと、実現できない絵にかいた餅になってしまう。それで、経営責任をとらないとなれば、問題外である。
・バックキャスト型経営がよしとされるが、くれぐれも注意してほしい。わが社のあるべき姿が本当に描けているか。あったらいいなというレベルをイメージして、バックキャストしても、実行戦略がついてこない。
・経営環境は刻一刻と変わってこよう。そんな時でも、びくともしない戦略を立てないと、毎年戦略の見直しが必要になってくる。これでは、マーケットで通用しない。
・社外取締役を充実して会社が抜本的によくなるのか。そういうケースもあるが、多くの場合、それほどでもない。経営力のカギは、何といってもCEOにある。CEOの能力をフルに活かしつつ、それを支える執行陣、その基盤として社外取締役による監督と助言がある。
・社外取締役がCEOの選解任に真に役立つように、指名委員会の仕組みを充実させ、それを担うことができる優秀な社外取締役を選ぶべきである。先進的企業では、本物の実効性が実現しているので、その広がりに期待したい。
・M&Aは今や当たり前の戦略である。しかし、PMI(買収後の経営統合)で苦労しているケースが多い。事業ポートフリオの見直しでは、パーシャルスピンオフの使い勝手がよくなっている。大いに活用してほしい。ソニーやレゾナックに注目したい。
・PEファンドの果たす役割も高まろう。個々の企業ではできない大胆なポートフォリオの入れ替えを、PEファンドを活用することによってできるようになる。投資のリターンが見込めるとなれば、投資資金は集まってこよう。
・日本におけるPE取引は、近年、年間1兆円を超えており、2021年3.2兆円、2022年は2.8兆円であった。今後も大幅に拡大することが期待される。
・資産運用立国に向けて、マーケットの活況は続くか。人材不足が著しい中、プロフェッショナル人材の活躍の場は広がっている。人材投資立国をリードして、高付加価値戦略を遂行する企業に注目したい。