DX銘柄を投資に活かす
・今年5月に「DX銘柄2023」の選定企業発表会が催された。会場でのプレゼンを聞いて、印象に残った点をいくつか取り上げてみたい。
・今やどの企業でもDX(デジタルトランスフォーメーション)に力を入れている。業種によって多少の温度差はあるとしても、DXの推進とその人材育成は必須の経営課題となっている。
・日本のDX化は遅れている。なぜか。既存の仕組みを大事にしながら、新しいDXを少しずつ入れていこうとする。大胆な発想と実行が求められても、トップにその知見が十分でなく、現場のスキルも整っていないからとみられる。
・政府の「新しい資本主義」でも、推進政策の1つと位置付けられ、DX推進に向けたCGC(コーポレートガバナンスコード)も金融庁から出されている。1)DXが経営計画や戦略に反映されているか、2)CIOを置いているか、3)取締役のスキルマトリックスを開示しているか、などが問われている。好事例集の中で、例えば旭化成や丸井のケースが取り上げられている。
・投資家にとってはどうか。①DX戦略が推進されているとして、それが企業価値向上にどのくらい結び付いてくるのか。②そもそも取り組みの中身が先進的なのか。③まだ成果に結びつかないとしても、その道筋がみえるようになっているのか。
・成果が、既存事業の効率化を超えて、新規分野の拡大に結び付いていくのか。こうした内容を知りたいが、多くの場合、開示が十分でない。
・今回のDX表彰では、1)DX銘柄32社、2)注目企業19社が選定された。DXグランプリは2社で、日本郵船とトプコンが選ばれた。
・さらに、3年連続でDX銘柄に選ばれた企業の中で、グランプリに輝いた企業は「DXプラチナ企業」に選定された。今回からスタートした表彰で、中外製薬、小松製作所、トラスコ中山が選ばれた。
・東証の業種分類をベースに、各々のセクターからDX銘柄を選んでいる。セクターによっては、1社ではなく2社が選ばれた。逆に、基準に照らして十分でなければ、1社も選ばれないセクターもあった。
・DX銘柄には届かなかったものの、企業価値貢献で注目すべき取り組みを実施している企業は「DX注目企業」として表彰された。
・東証上場3800社を調査対象として、約450社から回答を得た。アンケート調査の一次評価で企業を絞り込み、評価委員会による二次評価及び最終選考が実施された。
・一次評価では、①ビジョン・ビジネスモデル、②戦略、③組織づくり、人材、企業文化、④ITシステム、デジタル技術利用環境、⑤成果と重要な成果指標、⑥ガバナンスシステムがポイントとなった。
・二次評価では、1)企業価値貢献を2つに分け、(A)既存ビジネスモデルの深化、(B)業態変革、新規ビジネスモデルの創出、2)DX実現能力では、経営ビジョン、戦略、組織、人材、デジタル技術など、さらに3)ステークホルダーへの開示について、企業が提出した事例を含めて評価していく。
・既存のビジネスモデルの深化以上に、新規のビジネスモデルの創出にいかに取り組んでいるかが重要である。上場企業が、新規分野でDXを推進するならば、これは興味深い。
・今回初めてDX銘柄に選ばれた企業は、大林組、第一三共、ヤマトホールディングス、双日、アスクル、クレディセゾン、東急不動産、プロパティエージェント、H.U.グループホールディングスであった。
・DXグランプリを受賞したトプコンの江藤社長は、医・食・住の分野で“尖ったDX”を推進し、「世界を丸くすべく活動している」と語った。ハード機器からソリューションビジネスに展開し、建設現場のデジタル化で建設工事の工場化を目指している。
・同じくDXグランプリを受賞した日本郵船の長澤会長は、データ駆動型経営を実践し、世界初のSIMS(Ship Information Management System)を推進している。AIでエンジンをチェックし、時間や条件を緻密にコントロールしていく。
・この2社がグランプリとは意外であったかもしれないが、話をきいていると、かなり高度なDXを実行して、企業改革を実践している。DXが企業変革に結び付いて、企業価値を一段と向上させることができそうである。今後ともこのような企業が続々と登場してくることを期待したい。