東証の市場改革、さらに効かせるには

2023/09/11 <>

・PRB1倍割れを軸に、株式市場での企業価値見直しが続いている。新市場区分がスタートした2022年4月時点では、プライム市場1839社、スタンダード市場1466社、グロース市場466社であった。東証1部からスタンダード市場に移ったのが338社、適合未達企業ながらプライムに残った企業が295社であった。

・2023年9月までにスタンダード市場に移る未達企業も多いので、プライム上場企業数はさらに減少しよう。スタンダード市場に移ったからといって、企業経営者が思うほど投資家は気にしていない。ステークホルダーにとっても、上場企業であるという点でほとんど問題ない。

・どの市場にいても、今からさらに企業価値向上が図れるか。しかも、中長期的に向上できるか。企業価値を3倍、5倍、10倍に上げてほしいと期待するが、その道筋は見えているだろうか。夢を実現するストーリーが何としてもほしい。

・東証は、資本コストや株価を意識した経営の実現に向けて努力し、成果を上げてほしいと要請した。具体的には、1)資本コスト(WACC、株主資本コスト)、資本収益性(ROIC、ROE)を的確に把握し、2)その上で、改善に向けた計画を策定し、開示する、3)計画に基づき経営を推進し、投資者と積極的に対話してほしいというものである。

・当たり前のようにきこえるが、これができていない。どうすればよいのか。まずは自社でシミュレーションしてみることだろう。1年間の業績計画はどんな会社でも立てるはずなので、その時に、P/Lだけでなく、B/S、C/Fを予測する。資金繰りという観点からはどの会社も行っている。

・そうすれば、ROEやWACCは算出できるはずである。これを事後的に計算するのではなく、今期の目標としていくらに設定したいという観点から逆にみていく。中期的計画も同様で資本コスト、資本収益性からC/Fの現在価値を算出する。

・これがやられているようで、そうでもない。自社の企業価値は今いくらか、3年後はいくらにしたいか。中長期的にはいくらを目指すのか。その時のKPIを、連続性をもって明確に設定してほしい。東証はこれを要請している。

・事業計画と成長可能性について、何を開示すれがよいのか。グロース市場では、年に1回以上「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示が義務付けられている。この開示項目が役に立つ。

・1)ビジネスモデル(事業の内容、収益構造)、2)市場環境(市場規模、競合環境)、3)競争力の源泉(競争優位性)、4)事業計画(成長戦略、経営指標、利益計画と前提条件、進捗状況)、5)リスク情報(認識するリスク、及び対応策)である。これらは、いずれも当然の項目であるが、問題は開示の中身で、そこに大きな格差が生じている。

・その上で、コーポレートガバナンス・コード(CGC)への対応と、「投資家と企業の対話ガイドライン」の実行である。ESGがサステナビリティを支える基盤であるが、EとSにとっても、まずはGがベースとなる。

・中長期的な企業価値向上に向けた動機付けとして、東証は4点を強調した。①資本コストや株価への意識改革、リテラシーの向上、②コーポレートガバナンスの質の向上、③英文開示の更なる拡充、④投資者との対話の実効性の向上、である。

・PBR=ROE×PERであるから、ROE8%×PER12.5倍=PBR1.0倍となる。ここがスタート台となろう。ノーマルな水準としては、ROE10%×PER15倍=PBR1.5倍がベースである。

・英文開示について、プライム市場の企業は97%が実施している。逆にスタンダードとグロース市場の企業では全体の3分の1に留まる。ビジネスが国内中心で、外人持株比率もほとんどない。よって英文資料は必要ない。英文化にコストがかかるだけであるという理由である。

・ここでも逆の発想が求められる。インバウンドの増加でさまざまな人々が外国からくる。HPに英文資料がないということは、図書館に本がないのと同じであると考えてほしい。閲覧の回数が見込めないので、英文は置かない。これでは何も進まない。

・誰かが見に来た時に、英文で資料があれば、ここからコミュニケーションが始まる。今は、自動翻訳のレベルも上がっている。手間もさほどではない。やってみて、効果が上がるように工夫してほしい。社員のやる気も違ってくるものとなろう。

・投資家との対話では、まず株主との対話である。これを真剣にやっているだろうか。次に株主になってもらう層を広げることである。ここにもIR戦略が必要で、漫然と構えているだけでは投資家は寄ってこない。

・東証の市場改革は企業価値向上につながるか。つながるはずであるが、まだこれからである。ROE8%の次は、PBR1倍割れが注目されている。一定のインパクトが出た。行動変容のきっかけになりつつある。

・どの企業においても、若手の人材を活用してほしい。その方が、変革が進みそうである。成功体験に依存しているようでは、次の発展はみえない。PBR1倍台の企業は、PBR2倍を目指してほしい。そのハードルは高いかもしれないが、やりようはいくらでもある。その経営力に期待したい。

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