オムロンの理念経営に学ぶ

2023/07/10 <>

・オムロンは、5月に創業90周年を迎えた。立石文雄前会長の父、立石一真氏が創業し、ベンチャー型企業として、企業を成長させた。その子供たちが社長や会長として、創業者精神を受け継ぎ、企業を発展させた。

・ファミリー経営をいかに脱するのか。長男、次男、三男、四男、がそれぞれ父の薫陶を受け、各々の立場で優秀であったからこそオムロンは発展した。しかし、二代目、三代目が優秀とは限らない。個人の資質に頼るだけでは、企業の持続性は確保できない。

・オムロンは、1990年に創業者の精神を「企業理念」として制定し、その後2回改定した。2022年には企業理念を定款に入れた。立石ファミリー色をいかに脱していくか。これはどの企業にとっても課題となるが、オムロンでは、企業理念経営を実践して、ガバナンスを固め、サステナビリティを追求している。

・未来は技術が切り拓くので、これが一方の軸であり、もう1つが今の企業を支えるROIC経営で、これも徹底している。これらを両輪として、企業価値創造を見事実践している。

・企業理念を定めても、どこか飾りとなり、社員に浸透しない。あるいは、よく分かっていても、実践されていない企業も多い。さらに、企業理念を定めれば、イノベーションが起きるのか。あるいは、企業のサステナビリティは確保されるのか。そんなことはない。では、どう実践するのか。ここが難しい。

・オムロンでは、対話、調査、表彰のしくみを工夫し、実践してきた。第1のダイアログは、それが風土、文化として定着するように継続している。立石氏は「企業理念」、創業者精神をこれからも全社員に語っていく。山田会長(前社長)も同じように実践していく。

・第2のエンゲージメントサーベイでは、「VOICE」という仕組みで、社員の声を聞いている。まずよく聞いて、それを分析して、必ずアクションに結び付ける。ニーズに応えていくことが好循環を生む。

・「オムロングローバルアワード」(TOGA)は、企業理念実践のアワードである。もう10年間続けており、社員がチームを作って、オリジナルなアイデアを商品やサービスに作り上げていく。これをグローバルに実施しており。ファイナルな発表会は京都で催される。カギは企業理念の実践であり、共鳴の輪の広がりにある。

・ボイスの取り組み事例として、コーポレートのDX推進、ヘルスケアにおける設計プロセスの電子化、ジョブ型人事評価システムなどがある。

・ROIC経営では、現場でPDCAが実践できるように、逆ツリーに分解する。ポートフォリオについては、ビジネスユニットごとに中身を評価していく。実際、売上の伸びが低く、ROICも低い車載ビジネスについては他社に売却した。逆に、双方とも高い領域として、JMDCと資本業務提携を結んだ。

・技術経営では、1970年に創業者が提唱したサイニック理論をベースに、未来をみていく。フォーキャストしつつ、あるべき姿からバックキャストすると、そこにギャップが生まれる。このギャップを非連続なイノベーションで埋める。これを組織として実践できるようにすべし、と立石前会長は強調する。

・イノベーションプラットフォームを作り、7対3の原理でリスクテーキングする。つまり、7割の確率でできると思ったらやってみる。一方で、きちんとリスクマネジメントもしていく。

・4月から「SF2030」という新ビジョンをスタートさせた。山田会長は2011年に社長は就任して以来、アニマルスピリットを有する強いオムロンを確立すべく、理念経営を実践してきた。企業理念の浸透と、稼ぐ力を高めるという2軸を追求した。

・稼ぐ力は粗利益率で測り、これを36.8%から45.1%に上げた。成長力、収益力、変化対抗力に重心をおいた。理念の浸透に当たっては、共有、共感ではなく、その上の共鳴を求めた。社長との車座や、TOGAでの共鳴は筋金入りで、褒め合う文化、称え合う文化を作ってきた、と強い自信をみせた。

・次の10年はどうか。SF2030ビジョンでは、人が活きるオートメーションを目指す。オートメーションによって、どんな人でも生き甲斐をもち、どこでも誰とでも好きなことを楽しめるようにする。

・ユニークなKPIとして、事業のエネルギー生産性を明確に定義している。また、人的創造性を、付加価値/人件費と定義して、これも目標を立てて測っていく。

・次の経営を、辻永社長(CEO)へバトンタッチした。オムロンは創業家のファミリー色を超えて、新しい企業理念経営で実績を上げてきた。次の経営もこの推進が求められる。

・新しいビジネスモデル創りとして、資本業務提携したJMDCと共同して、「健康経営アライアンス」を設立した。企業で働く社員の健康を守り、企業健保の組織としての健全性を保ちつつ、人的資本による企業価値創造に邁進できるように、それを支えるインフラとしてのプラットフォームを作っていく。

・企業の定年が70歳まで延びてくると、健康を維持することがますます重要になってくる。JMDCは1000万人の検診データ、レセプトデータを有している。こうしたデータをベースに、企業で働く人々の健康を、病気になる前から早めにリスクを抽出して、個人の入力データからAIを活用して、予測モデルを作っていく。

・そして、重症化予防とソリューションの共創プラットフォームを構築して、健康経営の可視化を行う。こうしたソリューションビジネスを10年がかりで大きく育てていこうという構想である。

・企業理念の実践は、多くの企業にとって個性を発揮する基盤であるが、それをものにしている企業は少ない。オムロンの経営にぜひ学びたい。投資家としても、こうした視点で企業の価値創造力を見抜いていきたい。

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