違いをつくる競争戦略とは

2023/06/29

・一橋大学の楠木教授の話は示唆に富む。日本における競争戦略の大家である。企業を見る時、真似ができるか、できないか。競争のものさしがあるのか、ないのか。ものさしがあると、その土俵ではスピードの戦いになる。ものさしがないような違いをつくれれば、それは本物の陣取りとなる。

・ものさしのある競争は、”Operational Effectives”(OE:効率性)の戦いであり、betterを求めて進む。一方、ものさしのない競争は、“Strategic Positioning”(SP:陣取り)で、ものさしで測れないdifferent(違い)をいかにつくっているか、が問われる。

・OEのベター戦略はいずれ消耗戦になり、賞味期限切れがある。SPの差別化戦略は、まずは違いでポジションをしっかりとってしまう。違いを作って、それをつなげていく。このつながりをストーリーという。

・ところが、多くの企業の戦略を聞いていると、戦略のアクションリストだけが出てくるという。確かに、筆者が上場企業の中期計画を聞いていると、目標に対して、こういうことをやるという打つ手がリストアップされているだけで、うまくつながってこないことが多い。

・社内では繋がっているのに、外には見えていない場合もありうる。ここをどう引き出すかがアナリストの腕でもある。

・取引関係の説明だけでは、ストーリーではない。つながりには因果関係を伴う、と楠木教授は話す。ストーリーは思考の順列であるから、時間軸が入ってくる。単なる組み合わせではない。シナジーを組み合わせで説明されても、それは戦略でないという。確かに納得できる。

・では、違いをどのようにつくるか。その時に、時代のはやりに惑わされないように、と警鐘を鳴らす。旬のキーワードは表面的なステレオタイプになり、それがバイアスを生む。それにとびついて戦略らしきもの立てると、すぐに行き詰まってしまうことも多い。

・プラットフォーム型、サブスク型、SaaS型など、この手のビジネスモデルが注目されているが、本当に差別化戦略を構築しているかどうか、はよく見極める必要がある。

・DXで新しいビジネスモデルを作っているか。インターネットを使うというだけでは、DS(デジタル代替)であって、みんながやっている。使わなければ負けるが、これを使ったからといって、違いを生み出すことにならない。

・ESGも同じである。ESGは大事であるが、その中身について、要請されたことに対応しているだけでは、違いを生み出すことにはならない。社外取締役を3人にしたら、会社が変わるのか。CO2の排出を半減にして、会社はどうなるのか。条件をクリアしたからといって、わが社の価値創造のストーリーにならなければ、独自の強みとはならない。

・楠木教授は、まず儲けよ、しかも長期の儲けのみを考えよ、と強調する。筆者は、企業価値創造とは、分かり易くいえば、長期の金儲けであると、長らく言ってきた。長期の金儲けの仕組みづくりが企業価値創造のビジネスモデルであり、そのための競争戦略が本質である。SDGsもESGもそのためにある。企業のサステナビリティはここにある。

・その意味では、同じ土俵に乗らず、競争しない戦略を実践できれば、それに越したことはない。まねのできない仕組みを作って、それを先行させていけば、価値創造のサステナビリティは確保できよう。

・同じことを続けていれば、いずれ真似されてしまう公算が高まる。全く新しい仕組みが登場して、突然負けてしまうこともよくある。その点で、ストーリーをつなぐためのイノベーションが次々と求められる。このイノベーションの連鎖を続ける組織能力を有しているか。投資家としては、企業のここを見抜きたい。

・創業者がイノベーターである場合、次世代の経営力は本当に確保できるのか。通常はかなり難しい。組織の中にイノベーターがいて、1発か2発のヒットを出すとしても、それをサポートする体制が整っているか。現有事業の中で、人材は育つかもしれないが、事業ポートフォリオの入れ替えが必要になった時に、それを担える経営人材は本当にいるのか。

・多くの上場企業のビジネスモデルはかなり色あせている。これまでの延長では次に続かない。それがPBR 1倍割に表れている。投資家が十分分かっていないという見方もできるが、そうでもない。PBR 1倍以上に持っていくように努力中の企業は多いが、その実現は険しい。

・PBR=ROE×PERであるから、ROEを上げるためにまず儲けよう。次に成長性をもっと高めよう。そうすればPBRも1倍を超えてくる、という見方も成り立つ。しかし、この恒等式を別に解釈したい。

・PBRは時価と簿価の比較であるから、PBRが1.0を下回るということは、B/S上に現われない価値創造上の無形資産が評価されていないということである。評価に値するものが十分でないとすれば、それを作り込んで、見える化してほしい。できないとすれば、経営者の交替や社員の入れ替えが必須となる。

・こうした視点を踏まえて、企業の共創戦略を評価するために、①経営者の経営力、②事業の成長力、③業績のリスクマネジメント、④企業のサステナビリティ(ESG)をインテグレーションしていきたい。これが企業価値評価の主軸であろう。今後も実践していきたい。

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