ソニーのクリエイティビティはどこに
・昨年11月の「世界経営者会議」(日経主催)で、ソニーの吉田CEO(会長兼社長)の話を視聴した。ソニーは見事に復活して、新しい世界を切り拓いている。コロナ禍、地政学的リスクやインフレに直面する中で、独自の成長を見せている。印象深い論点をいくつか取り上げてみたい。
・吉田氏は社長に就いて4年、クリエイティビティを担うクリエイターを重視している。社員の自主性を活かすことが何よりも大事で、社員が①会社に共感できるか、②情熱を向けられるか、③大切な時間を共有できるか、を強調する。
・会社のパーパスはそのための指針である。自立とクリエイティビティはつながっており、「クリエイティビティとテクノロジーで感動を」を実践している。
・パーパスはまさに自分たちの存在意義であり。エンタメは人と人を結び付け、感動を呼び起こすはずである。パーパスと利益をつなぐのもクリエイティビティにある、と語る。
・テクノロジーも、経営と切り離せない。メディアは変化し、進化している。メディアはコンテンツを運ぶものであり、媒介するものである。ソニーは放送のメディアデバイスで成長してきたが、今やネットワークがコンテンツを運ぶ主役となっている。
・その中で、ソニーは一時遅れをとり苦しくなった。コンピューティングと通信のキャッチアップに苦労した。ゲームとプレステで対抗し、ようやく遅れを取り戻した。
・コンテンツを創るという点で、クリエーションサイドに重心をおいている。それを届けるには、ネットワークも重要である。音楽、映画、ゲームというエンタメが、今や売上の5割(かつては2割)を占めている。いずれも20世紀に仕込んだものが花開いている。
・クリエイターに愛されるソニーになるという観点において、エレクトロニクスのテクノロジーはベースとなる。バーチャルプロダクションには、デジタルシネマカメラやゲームエンジンも活きている。CMOSセンサーに4年で1兆円の投資を行うものも、スマホを軸としたクリエイティブデバイスのコアでリードするためである。
・ソニーは誰と戦っているのか。GAFAはライバルか。そうではないという。ソニーはクリエーションサイドにいる。GAFAはビジネスパートナーである。ネット時代のユーザーは変化が素早い。そのネットサイドにつくよりは、コンテンツのクリエイターサイドで勝負している。
・Web3、メタバース、NFTなどが始まっているが、コンピューティング&通信から生まれた空間がメタバースである。デジタルツインもそうである。ソニーはリアルタイムのエンタメ空間を活かしていく。
・エンタメの醍醐味はライブにある。ライブは、時間と空間の共有である。ライブエンタメに向けて、スポーツに力を入れている。次に仮装空間を作り、そこにインターラクションを提供していく。ゲーム、音楽、映像がまさに一体化してくる。
・モビリティの位置づけはいかなるものか。ソニー・ホンダモビリティでは、新しい空間に着目している。コンピューティング&通信が空間の中で活かされ、その空間が移動する。従来の車が単なるEVへ変わるのではなく、移動する空間の機能がソフトウェアで定義されるようになる。CMOSが車の中で多用されるようになる。
・そうみると、実はアイボが原型となっている。モビリティに進出するには、まずは学び、公道を走ってみる必要がある。そこで、ホンダと組むことにした。車を購入した後で、そのソフトをアップデートしていく。蓄電池としての機能も多面的に使える。これをリカーリングで稼ぐ仕組みにしていく計画である。
・地政学的リスクを乗り越えるにはどうしたらよいか。吉田CEOは長期的視点での開発をあげる。CMOSは新しい領域に取り組んでいる。それは2014年にスタートしたものが、収益化するには10年を要するプロジェクトである。
・ミラーレスカメラも、2006年にスタートさせて11年を要した。遡れば、エンタメ事業は創業者の時代に仕込んだものであり。紆余曲折を経ながら繋いできた。ここにきて、ソニーの事業は皆繋がっている。
・各々の事業は自立している。M&Aも各事業単位で、ボトムアップ型で展開されている。それでいて、つながりを求めている。カスタマーとのつながりに向けて、連邦経営を行う。
・クリエイティビティを尊重する自立的経営こそ、吉田CEOが目指すものといえよう。新領域を切り拓くソニーが注目されるものは当然であろう。