ソニーのクリエイティビティはどこに

2023/03/09

・昨年11月の「世界経営者会議」(日経主催)で、ソニーの吉田CEO(会長兼社長)の話を視聴した。ソニーは見事に復活して、新しい世界を切り拓いている。コロナ禍、地政学的リスクやインフレに直面する中で、独自の成長を見せている。印象深い論点をいくつか取り上げてみたい。

・吉田氏は社長に就いて4年、クリエイティビティを担うクリエイターを重視している。社員の自主性を活かすことが何よりも大事で、社員が①会社に共感できるか、②情熱を向けられるか、③大切な時間を共有できるか、を強調する。

・会社のパーパスはそのための指針である。自立とクリエイティビティはつながっており、「クリエイティビティとテクノロジーで感動を」を実践している。

・パーパスはまさに自分たちの存在意義であり。エンタメは人と人を結び付け、感動を呼び起こすはずである。パーパスと利益をつなぐのもクリエイティビティにある、と語る。

・テクノロジーも、経営と切り離せない。メディアは変化し、進化している。メディアはコンテンツを運ぶものであり、媒介するものである。ソニーは放送のメディアデバイスで成長してきたが、今やネットワークがコンテンツを運ぶ主役となっている。

・その中で、ソニーは一時遅れをとり苦しくなった。コンピューティングと通信のキャッチアップに苦労した。ゲームとプレステで対抗し、ようやく遅れを取り戻した。

・コンテンツを創るという点で、クリエーションサイドに重心をおいている。それを届けるには、ネットワークも重要である。音楽、映画、ゲームというエンタメが、今や売上の5割(かつては2割)を占めている。いずれも20世紀に仕込んだものが花開いている。

・クリエイターに愛されるソニーになるという観点において、エレクトロニクスのテクノロジーはベースとなる。バーチャルプロダクションには、デジタルシネマカメラやゲームエンジンも活きている。CMOSセンサーに4年で1兆円の投資を行うものも、スマホを軸としたクリエイティブデバイスのコアでリードするためである。

・ソニーは誰と戦っているのか。GAFAはライバルか。そうではないという。ソニーはクリエーションサイドにいる。GAFAはビジネスパートナーである。ネット時代のユーザーは変化が素早い。そのネットサイドにつくよりは、コンテンツのクリエイターサイドで勝負している。

・Web3、メタバース、NFTなどが始まっているが、コンピューティング&通信から生まれた空間がメタバースである。デジタルツインもそうである。ソニーはリアルタイムのエンタメ空間を活かしていく。

・エンタメの醍醐味はライブにある。ライブは、時間と空間の共有である。ライブエンタメに向けて、スポーツに力を入れている。次に仮装空間を作り、そこにインターラクションを提供していく。ゲーム、音楽、映像がまさに一体化してくる。

・モビリティの位置づけはいかなるものか。ソニー・ホンダモビリティでは、新しい空間に着目している。コンピューティング&通信が空間の中で活かされ、その空間が移動する。従来の車が単なるEVへ変わるのではなく、移動する空間の機能がソフトウェアで定義されるようになる。CMOSが車の中で多用されるようになる。

・そうみると、実はアイボが原型となっている。モビリティに進出するには、まずは学び、公道を走ってみる必要がある。そこで、ホンダと組むことにした。車を購入した後で、そのソフトをアップデートしていく。蓄電池としての機能も多面的に使える。これをリカーリングで稼ぐ仕組みにしていく計画である。

・地政学的リスクを乗り越えるにはどうしたらよいか。吉田CEOは長期的視点での開発をあげる。CMOSは新しい領域に取り組んでいる。それは2014年にスタートしたものが、収益化するには10年を要するプロジェクトである。

・ミラーレスカメラも、2006年にスタートさせて11年を要した。遡れば、エンタメ事業は創業者の時代に仕込んだものであり。紆余曲折を経ながら繋いできた。ここにきて、ソニーの事業は皆繋がっている。

・各々の事業は自立している。M&Aも各事業単位で、ボトムアップ型で展開されている。それでいて、つながりを求めている。カスタマーとのつながりに向けて、連邦経営を行う。

・クリエイティビティを尊重する自立的経営こそ、吉田CEOが目指すものといえよう。新領域を切り拓くソニーが注目されるものは当然であろう。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ