資産運用の高度化に向けて

2022/12/12

・「資産運用業高度化プログレスレポート2022」(金融庁)を改めて読んでみた。5月に公表され、8月に金融庁の担当者から話を聴いていた。新規に運用会社を立ち上げた企業との関りにおいて、大事な論点を確認したい。

・運用会社はすでに一定の枠組みを持っているが、もっと高度化して、安定したよいパフォーマンスをあげてほしい、という意味が込められている。パフォーマンスが今一つのファンドが多い。どうしたらよいのか。

・顧客の利益を最優先する業務運営が行われているか。自社や親会社の利益を暗黙に優先していないか。パフォーマンスが上がらないにも関わらず、高い手数料をとっていないか。こうした疑念が常に生じていているからである。

・最近、ESG関連の公募投信が台頭しているが、その運用の中身が本物なのか。マーケティング優先で、ESGの評価のあり方が“やったふり”になっていないか。本格的な取り組みを求めている。

・運用会社の経営体制では、1)独立性、2)長期性、3)専門性が重要である。親会社からの天下り経営者に、本当に運用会社のマネジメントができるのか。長期ではなく、目先の販売マーケティングの成果を優先してしまいかねない。明確な牽制機能が求められる。とりわけ、独立社外取締役の機能発揮が問われる。

・プロのアクティブファンドマネージャーといいながら、パッシブに勝てないとすれば、本人の才能以外に、運用会社の仕組みのどこを改善すればよいのか。運用プロセスの再構築が必要である。

・ESGインテグレーションは本当に機能しているのか。ESGを考慮している運用を実践しているというが、顧客の受けがよいということで、やったふりをしているのではないか。

・ESG評価、データ提供機関のサービスを取り入れ、多少自社の味付けをしているが、それで本物のエンゲージメントやパフォーマンスで、差別化されたアルファを生み出せるのか。ここを示してほしい。

・ESGに関するマテリアリティとして、さまざまな項目が挙げられているが、その内容は概ね類似的である。E(環境)では、気候変動、自然資本、水資源、汚染・廃棄物、生物多様性、サーキュラーエコノミーなどである。

・S(社会)では、働き方、人権とコミュニティ、ダイバーシティ、人的資本、健康と安全、教育格差、サプライチェーンなどである。G(ガバナンス)では、企業行動、取締役会構成・評価、腐敗防止、公正の確保などである。

・どのようなマテリアリティマップを作るか。評価項目の優先順位付け、ウエイト付けをどうするのか。スコアリングの仕組みとその活用の仕方で、運用プロセスが異なり、ポートフォリオの構成にも変化をもたらす。ポートフォリオの最適構成にどのように寄与するのか。外からはなかなか分からない。

・EとSとGのウエイトにしても、1:1:1なのか、5:3:2なのか、1:4:5なのか、ファンド特性やポートフォリオの性格によって、重み付けは違ってよい。

・ESG重視を追求すれば、当然それなりの仕組み、陣容が必要である。そのための投資が増加する。それによってAUM(運用額)が積み上がればよいが、ESGウォッシングやグリーンウォッシングといわれる‘やったふり’が横行するようでは、問題が深刻化する。

・ESGインテグレーションのインパクトは本物か。何らかの測定が求められる。長期的にはパフォーマンスに貢献するはずであるが、可視化は容易でない。

・ESG運用機関の課題として、筆者なりに解釈すると、1)やったふりではなく、プロセスをきちんと開示せよ、2)専門人材と連携せよ、3)ESGインテグレーションをリサーチも含めてモデル化せよ、4)評価・データ提供機関のデータ、スコアは検証が必要である。

・さらに、5)スチュワードシップ活動として、ESG要素をしっかり組み込み、6)外部委託先の管理をしっかりせよ、ということになろう。今後、ESG投信の監督指針が策定される予定である。

・運用プロセスを高度化するには、コストがかかる。よって、手数料や信託報酬は高めにならざるをえない。金融庁が問題にしているのは、コストを安くしろといっているのではない。コストが顧客利益に十分見合っているか。当然顧客利益を優先せよ、と運用機関の主体性を促している。

・個人金融資産が2000兆円もある。日本の運用会社はもっとがんばれるはずである。ぜひともインベストメントチェーンを全体として高度化し、成果を追求してほしい。そのためには、各プロセスを担う企業においても、先行投資が必要である。高度化投資によって、世界に通用する運用会社が1社でも増えてくることを期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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