ESGデータを使う時の心構えはいかに
・7月に「ESG評価・データ提供機関に係る行動規範」(案)が出された。金融庁の担当者から話を聴く機会があった。投資家としてはどのような心構えを持って、データを活用していったらよいのか。注目すべき点について考えてみたい。
・ESGの評価機関・データプロバイダーとしては、例えばFTSE、Rusell、MSCI、S&Pグローバル、アラベスク、ブルームバーグ、CDP、Fitch,Sustainalytics TruvalueLabs ,日経、東洋経済などがある。
・ESGのデータを提供する評価機関は、それをビジネスにしている。データはフェアに扱われることが前提であるが、何らかのバイアスが入ってくることもありうる。
・ESGの定義をどのように行うのか。企業価値向上に資するESGが基本である。サステナビリティを支える仕組みとしてESGがある。企業サイドがどのようにESGを構築し運営しているかによって、提供されるデータに違いが出ている。
・ESGを評価するためのデータには、さまざまな内容がありうる。そのスコアリングの仕方も多様である。定義を見極めてから使わないとバイアスが入ってくる。スコアリングした後に、定性的にどのようにレーティングしていくかも課題である。
・評価機関に対しては、6つの原則を求めている。①品質、②人材、③独立性、④透明性、⑤守秘義務、⑥コミュニケーションである。評価機関にとっての規範、あるべき姿として、いずれも重要である。
・さらに付加するとすれば、「評価価値の共有」を提案したい。誰のために、何のために、という評価の価値について、データの提供者、評価者、利用者がその評価価値を共有できれば、存在意義は高まる。
・データの提供者である企業は、分かり易く開示する。評価データの利用者である投資家はその使い方を明らかにする。これによって、データの有用性が高まってくる。データの共通化を進めるために、非構造データの構造化も求められよう。
・データの信頼性は、誰が担保するのか。元データ、入力データ、加工データ、評価プロセスデータなど、さまざまなレベルでミスが生じうる。それが投資判断にまで使われるとすると、何らかの保証(アシュアランス)が欲しくなる。大きなデータミスやデータ操作があれば、評価の信頼は一気に低下し、市場での存在が許されなくなろう。
・ESGに関する企業からの一次データ、評価機関が集計・加工して提供する二次データ、投資家が利用する時に用いる三次データなど、各々のレベルでの精度が問われる。精度を上げるには、当然投資が必要でコストがかかる。社会インフラとしての目線を揃えていくことも求められる。
・サステナブルファイナンスに当たって、ESGデータの利用は不可欠である。評価データの透明性、公平性は確保していく必要がある。株式ポートフォリオの構築に当たって、ESGインテグレーションは必須となっており、グリーンボンドなどESG関連債の発行に当たっても、ESGの適格性評価が決定的に重要となっている。
・評価機関によって、結果が違ってくることは十分ありうる。評価の基本フレームワーク、プロセスやバイアスの処理などに依存する。過去データが将来にどのように結び付くのか。それは期待にどこまで応えるのか。評価の正解を求めているわけではないので、精度を高める方策を競うことになろう。
・評価のプロセスにおいて、データの推計、情報の付加を行っているとすれば、精度の向上が図れるという反面、バイアスともなりうる。
・評価機関のビジネスモデルは、どうあるべきなのか。格付機関のように発行者負担なのか。利用する投資家負担なのか。ビジネスに利益相反はつきものであるが、それを乗り越える仕組みを磨いていく必要がある。
・生データの提供、定量的なスコアリング、定性的なレーティングなど、評価手法も多様である。投資家としては、最終判断は自ら行い、評価機関の判断をそのまま利用するわけではない。しかし、結果的にほぼそのまま利用することになるとすれば、どの評価機関のどの評価データを使うかに全面的に依存することになる。
・企業は、評価機関の評価が上がるようにデータを提供したくなる。投資家はパフォーマンスが上がるように評価機関の評価データを使いたくなる。評価機関は評価データでデファクトスタンダードを確立すべく鎬を削る。
・パッシブ運用が主流となる中では、評価機関のデータをそのまま活用したインデックスが大きく台頭しつつある。評価機関の役割は一段と大きくなろう。ゆえに、今回のような行動規範が必要となっている。
・企業はESG経営をさらに磨く必要がある。投資家はESGを投資判断に活かして、独自のアルファを追求したい。双方を視野に置いて、ESG評価・データ提供機関の活動に注目していきたい。