古くて新しい投資~改めて見直してみると

2022/10/12

・ウクライナ紛争はいつまで続くのか。ベルリンの壁が崩壊して以降のグローバリゼーションが見直しを迫られている。国際分散投資において、アセットアロケーションはどのように変化していくのか。

・7月に代替投資(オルタナティブ投資)に関する2つ協会、CAIA JapanとAIMA Japanの共催によるセミナーを視聴する機会があった。そこで感じたことをいくつか取り上げながら、株式投資の基本を見直してみたい。

・新型コロナを克服して、リベンジ消費が惹起するかと思ったら、ロシアによるウクライナ侵攻でサプライチェーンが一気に混乱した。戦争はすでに半年を過ぎて、被害は甚大なものとなっている。しかし、事態の収束は見えない。むしろ危うさは高まっている。

・食料、エネルギー、希少資源の供給不足による影響は、アフリカでの食料危機、欧州のエネルギー高騰、先進国でのハイテク製品などに出ており、弱者にとってはますます厳しくなりつつある。

・原材料価格の上昇、エネルギー価格の高騰は、製品やサービス価格に転嫁せざるをえない。通常の値上げで調整できればよいが、調達できないとなれば事態は深刻である。このままでは従来のように暮らせない。相当節約して我慢するしかない。

・インフレに見合って所得が増えなければ、生活水準は落とさざるをえない。企業においても、価格転嫁して、売上が減らず、社員の給料を上げられればよいが、それができる企業は相対的に少ない。むしろ減益を余儀なくされよう。数年をみると、産業間格差、企業間格差は大きく広がって、競争劣位の企業は再編に向かわざるをえない。

・インフレ下のリセッション(スタグフレーション)になれば、経済は停滞する。各国の中央銀行は金融政策でインフレを抑え込むことができるか。米国のFRBは急ピッチでFFレートを上げており、これでうまく対応できるという楽観論もマーケットにみられるが、やはり慎重に構えた方がよい。

・米国、EUを巻き込んだロシアとの国際紛争であるから、思わぬ事態を想定しておく必要がある。米国、ロシアとも、思惑とは違った事態となっており、ウクライナを媒介とした代理戦争の様相を呈している。

・日本はどうか。デフレ脱却の政策もあって、日銀の低金利政策は続いている。米国との金利差で円安や進んだ。今の金利差からは140円/ドルが妥当しても、購買力平価でみれば、120円台が妥当という見方も有力である。

・ということは、インフレの高進でさらに円安になるリスクもあるが、逆に落ち着きがみえてくれば、110円台への戻りもありうる。円安への対応は難しい局面が続こう。

・アセットアロケーション(AA:資産配分)はどのように考えるのか。プロのファンドマネージャーは自らの運用商品において、各々AAを考える。アセットオーナーは、安全資産にシフトしながら、オルタナ(代替資産)投資の比率を上げることも検討課題となっている。パフォーマンスの向上には、新しい収益源が必要である。

・個人投資家という立場で考えると、1)安全第一ならキャッシュであるが、インフレになるのであれば、それは得策でない。2)金利が上がれば債券価格は下がるので、国内債/外債についてはさらに注意が必要である。

・3)為替リスクについては、ヘッジするのか、為替益も狙うのか。そのバランスがとわれる。4)株式投資は、国の競争力を考えれば、日本株より米国株であるが、米国株にきちんとついていけるか。日本株の方が身近に分かるというホームグランドバイアスも大きい。

・リート・不動産ファンド、ベンチャーやスタートアップ投資、クリプトアセット(仮想通貨)・NFT(ノンファンジブルトークン)などのオルタナ投資についてはどう考えるのか。

・投資家として、新しいものをすぐに取り入れるイノベーターなら、積極的に立ち向かう。保守的なフォロアーであれば、オルタナの中でも、アセットクラスが確立して、十分理解できてから参加した方がよい。

・リートはすでに分かりやすいが、クリプトアセットになるとまだ危うい。NFTは本物になりそうだが、その裏付けを十分確認する必要があろう。

・地政学的リスクへの対応は、二面性を持つ。COP(気候変動枠組条約国際会議)では、今後もグローバルな対応が迫られよう。それでも、エネルギー政策は見直さざるを得ない。一方で、国家間、民族間の対立を想定するとブロック化は避けられず、経済安全保障が新たな意味を持ってくる。軍需産業、ハイテク民需産業が想定するマーケットについても戦略的対応が必要である。

・株式投資においても、インデックスをベースにした国際分散投資では十分でないかもしれない。個々の企業をよくみていく必要がある。アクティブ運用、アクティブマネージャーの役割は大きくなってこよう。

・しかし、世はインデック投資の時代である。一般論として、アクティブ運用はパッシブに負けている。これでは、アクティブ投資の出番は少ない。プロの世界では、一流のアクティブマネージャーに頑張ってもらうとして、個人投資家はどうすべきであろうか。

・もちろんプロに任せて、信頼できる金融商品に投資するというのが王道であろう。しかし、それでいつもうまくいくとは限らない。自らのセンスを磨くためにも、自分で10銘柄程度のポートフォリオを作って、企業をみていくことが望ましい。

・川北先生(京大客員教授)は、7月29日の日経経済教室に、新しい資本主義の視点として、「企業選別による長期投資こそが本筋」であるという論説を載せた。これを筆者なりに理解してみる。

・1)短期売買は誰かの売りかは誰かの買いであり、損得は行って来いである。2)長期投資は企業の利益を反映しているので、投資家にプラスの収益をもたらすはずである。3)しかし、長期投資といっても、すべてが経済全体に連動するわけではない。

・4)インデックスに投資するのは有力な手法であるが、中身の企業は玉石混交であり、パフォーマンスが十分でない企業も相当ある。5)では、どのように選べばよいのか。有力な方策は長年PBRが1.0倍を下回っているような企業は外すことである。こうした企業は構造的に期待できない可能性が高いとみられる。川北先生はこのように主張する。

・上場企業の経営者を見ると盤石とはいえない。必死に頑張っているが、格差がつき、収益性や成長性で劣後する企業が出てくる。それでもすぐに上場廃止とはならない。時に目のさめるようなターンアラウンドをみせる企業も登場する。こういう企業は、いい会社に変わってきたとわかってから投資しても遅くない。

・PBR=ROE×PERという関係であるから、財務数値に現れる前の企業の経営をよくみていく必要がある。①トップマネジメントの経営力、②事業の成長性、③収益が突然急落することがないようなリスクマネジメント、④企業のサステナビリティ(持続性)を支えるESGの頑健性に注目したい。

・その上で、ROE(収益性)×PER(成長性)⇔PBR(企業の見えざる価値の評価)をバランスよくみていきたい。少数株主として継続的にみていくと、企業の良し悪しが次第に分かってくる。それをベースに自分のポートフォリオを作ってみると、投資の楽しみが一段と増してこよう。

株式会社日本ベル投資研究所
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