コーポレートガバナンスを機能させるには
・日本企業のコーポレートガバナンス(CG)はよくなったのか。よくなっているとすれば、企業のパフォーマンスも上がってくるはずであるが、それが目に見えているか。
・4月に催されたCFA協会のウェビナーで、一橋大学の円谷昭一教授は、1)学術的にみると成果が出ているという実証研究はまだ十分でない、2)CG改革の成果はもう少し長い目でみる必要がある、3)今の経営陣が形を整えるだけでなく、いかに本気になって実践するかにかかっている、と話した。
・東大の田中教授は、1)三井住友トラスト・グループのガバナンスサーベイ(2021年7~8月)をもとに、CG改革と投資家の期待の間にはまだかなりのギャップがある、2)そこを埋めていく必要があるが、今の社会的課題に対して、CGに限らずESGはどう貢献していくのか、3)株主の短期志向を超えて、もっと本質的にみていく必要がある、と指摘した。
・日本企業の競争力は落ちている。生産性は上がっていない。ひいては賃金も伸びていない。設備投資やR&D投資も米国の方が伸びている。キャッシュフローを次の成長機会に活かしていない。そこで「攻めのガバナンス」改革が提唱されたが、未だ道半ばである。
・筆者もいくつかの上場企業の社外取締役や社外監査役をやっているが、CG改革を通して、企業のパフォーマンス向上に貢献しているか、と絶えず自問自答している。
・そうした中で、3つの変化に注目している。第1は、形式だけではないという動きである。CGコードの改定は、その都度社内で議論され。社外取締役からもその実効性が問われている。形式だけでなく、それが活かされるように前進していると感じる。
・第2は、CGのレベルは上がっているが。パフォーマンスとの結びつきについては、まだ明示できない。Gの改革に次いで、EやSにも力が入っている。ESGによるサステナビリティの向上にはまだ努力を要する。CGが経営力を高め、成長戦略の遂行で目にものみせて、リスクマネジメントも抜かりなく、というようになればよいが、その経路を「見える化」するのは容易でない。
・外部からみる時、1)CGの形が変化したことがわかるが、2)それが企業価値向上のためのビジネスモデル(BM)にうまく組み込まれているのか。この成果がみえにくい。3)BMが革新されて、それが財務パフォーマンスに結び付いて始めて、投資家は変化を実感できる。
・早大の宮島英昭教授は、日本型ガバナンスモデル2.0に向けて、3つの提言を行っている。①パーパス(存在意義)の再定義、②取締役会の役割の再検討、③会社の所有構造の最適化である。
・2013年から始まった「攻めのガバナンス」では、株主から圧力→もっとリスクテイクへ→成長力の実現→従業員福祉へのトリクルダウン効果を考えた。
・実際はどうであったか。ROEは少し上がったが、資本の回転率はさほど変化していない。現預金は増加して、負債は圧縮されたが、投資には十分使われていない。事業再編は緩慢で、株主還元は増加したが、従業員の所得向上にまでは行きわたっていない。
・つまり、R&D投資やM&Aなどに対するリスク態度が変わったとはいえない、と宮島教授は指摘する。「新しい資本主義」が分配を重視するなら、それを支える仕組みを一段と強化する必要がある。
・株主にもっと配慮しつつ、ステークホルダーの視野を非正規雇用、次世代、地球環境にまで広げていく必要がある。こうしたステークホルダーへの対応を、経営成績のエクスキューズにしないことであると強調した。
・そのために、パーパスを再定義して、社会的価値と経済価値を両立させていく。必要条件と十分条件の共有領域を広げていく経営力に注目したい。
・別の視点として、金融資本コストだけでなく、インフラなどの社会資本コスト、人材に関する人的資本コスト、環境に関する自然資本コストもビジネスモデルの評価に組み込んでいく必要があろう。
・取締役会の役割において、ステークホルダー間の利害調整が必要になるのであれば、社会のサステナビリティへ貢献、そのためのESGの推進と同時に、株主の長期的利益の確保に向けて、社外取締役による監督と助言が必要である。
・株主の所有構造では、1)ファミリーオーナーシップ、2)経営者、従業員の株式所有、3)株式持ち合いのネガティブ/ポジティブの見極め、4)パッシブ投資家のシステマテックリスク重視について、投資家サイドと企業サイドのギャップを埋めていく必要がある。
・取締役会の人数、多様性、スキルが注目されている。企業規模にもよるが、筆者は9人、7人、5人がよいと考えている。実際、慶大の坂井豊貴教授による‘意思決定の科学における「最適会議の設計」について’の講演を聴いて実感した。
・9人の場合は社外取締役5人、7人の場合は同4人、5人の場合は同3人である。執行サイドはCEOに加えて、CXO(CFO、CTO、CHROなど)が代表となる。社外取締役は、内外の経営者、機関投資家や有力ファンドの経験者、特定分野の専門家などであろう。
・目的関数をはっきりさせ、目的を共有し、人材の独立性を担保し、自由に議論できる場にする。そうすれば、執行サイドの意思決定に対しても、実質的な影響をもたらすことができ、価値向上がみえてくる、と坂井教授は強調した。
・投資家は価値向上のプロセスを知りたい。もっといえば、ここにエンゲージメントしていきたいと考えている。執行サイドの経営力がいかに組織力となっているか。それを支えるのがCGである。その解明こそ、価値評価の要であろう。