ノイズに惑わされないで~意思決定にあたって

2022/04/01 <>

・何らかの判断において、そのエラー(過誤)はバイアスとノイズから成る。バイアスとは、系統的な偏りで、そこには一貫した要因が働いている。ノイズは不規則なバラツキで、ノイズの要因はなかなか特定しにくい。

・普通の人にとって、バイアスというと偏見、ノイズというと雑音というのが一般的かもしれない。偏見とは偏った見方である。意思決定においては、判断や選択が何らかの要因で平均から一定程度ずれてしまうことを意味する。一方、ノイズは平均値からのバラツキの程度を意味する。

・偏りはない方がよく、バラツキは小さい方がよい。このバラツキであるノイズについて、カーネマンはさらに分析している。ピタゴラスの定理にならって、エラーをa2+b2=c2(a:バイアスエラー、b:ノイズエラー、c:システムエラー)というように分解していく。これを3段階にわたって行う。

・ノイズの成分を分けていく。判断すべき案件が有するバラツキをシステムノイズとすると、それは判断者によるバラツキ(レベルノイズ)と、それ以外のノイズ(パターンノイズ)に分ける。

・少しわかりにくいが、パターンノイズというのは、例えば通常は甘めの判断とする人が、特定の案件に限ってきつめの判断をしてしまう、というようなケースである。統計的にはシステムノイズに交互作用(インターラクション)が働いてしまうことを意味する。

・このパターンノイズはさらに、安定したパターンノイズと一過性のノイズに分ける。判断事案のバラツキ(システムノイズ)と判断者のノイズ(レベルノイズ)に相互作用がある時、パターンノイズが発生しうる。

・このパターンノイズを、いつもありうるパターンノイズと、一過性の機会ノイズに分けてみていく。一過性の機会ノイズとは、判断における狭い意味でのランダムノイズである。

・判断に当たって、行動科学では、従来、系統的な偏りであるバイアスに注目してきた。そうでないバラツキはランダムなものとして扱ってきたが、このランダムなバラツキであるノイズをさらに深く要因分解している。ここが新しい。

・偏りは平均的なズレを意味し、バラツキはその標準偏差(σ:シグマ)を意味している。判断には予測的判断と評価的判断がある。将来の予測に関わるような判断は、検証可能なものであれば、予測の質を問うことや、結果との関係性を議論することができる。

・評価的判断は、質的な判断が重要になるので、偏りやバラツキの捉え方が難しくなる。しかし、同じような案件が数多くある場合や、同じ人が数多く判断する場合には、評価的判断でもバイアスやノイズを十分とらえることができる。

・では、ノイズを減らすにはどうしたらよいのか。カーネマンによると、第1に、専門的な訓練を積むことである。第2に、判断のルールやアルゴリズム(判定手順)をきっちり定めることである。第3に、判断の決定プロセスにオブザーバー(第三者)を入れて、判断がぶれるのを防ぐことである。

・第4に、判断ハイジーン(予防的汎用チェックシート)を用意して、できるだけチェックしていく。第5に、利用する情報とその順序やタイミングを見定めて、科学的捜査のように進める。第6に、共通の尺度を用意して、独立した判断ができるようにする。第7に、判断すべき内容について、その要素を分解し、互いの独立性を確保して、データを厳格に用いる。つまり、判断の構造化を行う。第8に、比較評価を実施する。

・カーネマンの論旨を解釈すると、以下のように理解できよう。優れている、極めて優れている、というような主観的であいまいな表現は、できるだけはっきりさせるようにする。複数の判断者を活用して、コンセンサス予想を用いると、ノイズは減らすことができる。

・予測を、1つの点予測ではなく、幅のある区間予測にすると、ノイズは減らせる。判断の規範だけでは曖昧なので、経験を踏まえて具体的に検証していく。第三者をオブザーバーとして入れると、自分のバイアスやバラツキに気付くことも多い。

・実際、投資の実務においてすでに使われている方式もあろうが、もう一度自らの判断にバイアスとノイズが入っていないか、と問い直すことは極めて重要である。

・そのためには、判断の構造化(システム化)を一段と進める必要があろう。投資判断において、どのような軸(準拠枠)で要因を分解していくか。各軸の基準(準拠)が定性的である場合でも、いかに明確にレーティング(順位付けや数量化)できるか。互いの軸をできるだけ独立に評価して、交互作用を減らしていくか。こうした点に取り組みたい。

・まずは投資家としてのレベルを少しでも上げて、レベルノイズを減らす。次に交互作用のようなパターンノイズを減らしていくことである。

・カーネマンは、ヒトの合理性を論理一貫性としてみている。それがよいことか、まともなことかという観点ではなく、論理的に一貫しているかどうかを基準にする。そうするとバイアスやノイズによって、必ずしも合理的とはいえないことが多発する。

・筆者は、「ヒトは合理的であることを求めている」と認識する。その合理性は、一貫性、最適性、開放性から成ると捉えている。これは、佐伯胖先生から直接学んだ。つまり、よりよいものを求め、外部の意見も取り入れて、一貫性を追求していく。こういう投資態度でアナリシス(分析)を進め、スローな思考で投資をおもしろくしたいと思う。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。