グローバル家電メーカーの目指す方向~生活者を追求
・アイリスグループは未上場であるが、大山健太郎会長の経営はつとに有名である。なぜ、アイリスオーヤマはこんなに発展しているのか。直接講演を聴いてみたが、まことに興味深い。
・IRISは現在グループ企業30社、33の工場を有する。工場は日本、米国、中国、韓国、欧州などである。取扱商品は2.5万アイテムで、毎年1000アイテムの新商品を発表する。
・企業として永遠の存続を目指し、不況期でも利益を出すことをモットーとする。1958年に、19歳の時に会社を引き継ぎ、2018年に息子に社長を譲り、会長となった。現在76歳である。
・アイリスは輸出企業ではない。現地生産、現地販売の地産地消を基本とする。快適生活へのソリューションをテーマに、ガーデニング(園芸品)や「みえる収納箱」で成長の足掛かりを掴んだ。シェアをとって、オンリーワンとなった分野でも、いずれ競合商品がでてくると需給は崩れる。常に新しい商品を出すことに全力投入している。
・日本の消費者は、商品に対する要求が高い。この品質に拘る日本で売れたものを、海外へ持っていくというパターンである。生活の基本や不満は変わらないので、通用するとみている。但し、サイズやカラーは違ってくるので、現地に合わせる。
・海外での販売は、オンリーワンでないと売れない。日本の流通は少し特殊だが、海外では顧客へネットで直接売っている。EC、DXのおかげで、海外が伸びている。
・コロナ禍では、マスクの生産を急拡大させた。13年前のマーズ(MERS)の時にマスク生産を始めたが、それが収まってからは、花粉用マスクとして生産を継続してきた。コロナ対応として、当初は中国でマスクを増産して日本に持ってきたが、足らないので日本のマスク生産能力を6倍に上げた。
・カーボンニュートラル(CN)について、日本は2030年に-46%の削減を目指すが、現状の延長線ではとてもできない。中国では石炭火力を制限して、停電が発生した。経済を止められないので、石炭火力を動かすとCO2が増大する。
・コロナからの回復で、エネルギー価格が上昇している。プラスチックの供給に不安が出ており、原料価格も2倍となっている。値上げをすれば、消費は減少する。海外の工場は、米、欧、韓とも苦しいが、日本、中国にもいずれ影響が出てくると大山会長は見ていた。
・家電では、サーキュレーターや布団乾燥機が売れている。換気のためのサーキュレーターは欧、米でも売れるので、現地生産を拡大している。生活密着型の商品は、物流コストも考慮して、現地生産している。
・中国の大連では、日本の工場以上に日本型のものづくりに馴染んでいる。一方、欧米では技術の習得に時間を要するので、できるだけロボットを入れて自動化を進めている。コロナ禍を経て、今後はサプライチェーンを短くする必要がある。そのために内製化率を上げていく方針である。
・アイリスは、今後ともグローバル家電メーカーとして躍進していこう。独自の商品開発力をベースに、日本の生産方式、日本の品質を世界に広げていく。大山会長は、生活者の不満や不足を、生活者の目線で見抜いていく。この日本スタイルを突き詰めていけば、マーケットは今後も大きく広がるとみている。
・では、サムソンはどうか。サムソン電子のキム・ヒョンソク社長(2021年11月時点)の講演を視聴した。ニューホーム、ニューライフのグローバルトレンドについて、3つの視点から洞察した。
・第1に、消費者は平均寿命が増加する中で、単身世代が増えてくる。ミレニアム世代やZ世代は、デジタルネイティブでESGにも敏感、インフルエンサーとしてマーケットをリードしよう。
・第2に、テクノロジーでは、1)モノの知能化が進む。5G、6G、M2M(machine to machine)、IoTが波及してくる。2)仮想とリアルが融合してくる。VR、メタバース、NFT(non-fungible token、非代替性トークン) が立ち上がってくる。3)プライバシーの強化や安全・安心が一段と重要になってくる。
・第3に、COVID-19のパンデミックによって、未来が10年早く進んでいる。オンラインが当たり前になり、コンテンツ重視のクリエイターエコノミーが進展し、ダイレクトコネクトの中で、ディセントラリゼーション(分散化、分権化)が進もうとしている。
・ホーム(家庭)は、かつて睡眠をとるシェルター(安全な居場所)であったが、今や滞在時間が長くなり、パーソナルなスペースとなっている。ここで仕事も生活も、社交やショッピング、レジャーを含めて費やされている。
・サムソン電子は、同社のデバイスを通して、13.7億人と繋がっている。この人数はソニーをはるかに上回る。顧客はエクスペリエンス(経験)を買っている。ブランドではなく、楽しい価値の提供を求めている。このエクスペリエンスを提供する企業になることを追求する。
・デバイスのコンセプトも再定義していく。機能+経験を提供する。パーソナライズされた経験の創出を続けることがキーとなる。例えば、冷蔵庫は機能+インテリア(色の組み合わせ)を、スマホはカスタマイズ化を、TVもディスプレイで、アート、絵画、写真をアレンジできるプラットフォーム化を、という展開になろう。
・さらに、ホームエクスペリエンスは、マルチ デバイス エクスペリエンスへと広がっていこう。キッチン家電は調理+栄養で健康をチェック、ギャラクシーウォッチはリモートヘルスセンシングで繋がり、フィットネスへと結びつけていく。
・いずれもAIを活用して、デバイスをつないでいく。DaaS(Device as a Platform )という方向を目指す。既にサムスンの社員の大半がMZ世代(ミレニアム&Z世代)である。彼らのアイデアが重要である。
・その前提として、どのような経験を、どのようなスペックで提供するのか。そのベクトル関する信頼が必要であり、社会が共感できるビジョンをもつことが大事である。これが共有できれば、マルチ デバイス プロジェクトで世界をリードすることができる、とヒョンソク社長は強調した。
・アイリスもサムソンも生活者にフォーカスし、生活者の求めるモノとコトを徹底的に追求しながら、独自の個性をさらに発揮しようとしている。サステナビリティやESGもここまで結びつかなければ、本物とはいえないと感じる。アイリスオーヤマにはぜひ上場してほしいものである。