バックキャストの成長戦略~日立のケース

2022/01/17 <>

・昨年10月に「日立社会イノベーションフォーラム、(Hitachi Social Innovation Forum 2021)が催された。東原会長(CEO)の講演と小島社長(COO)の対談を聴いて興味深かった点をいくつか取り上げてみたい。企業の次なる胎動を知る上で大いに参考になろう。

・いかに生活者、消費者に近づくか。企業で働く人は生産者であるが、社会の中では消費者でもある。自然環境は生活の外にあるものではなく、共有財(コモンズ)として守っていく必要がある。日立は、2030年にカーボンニュートラル(CN)を達成し、2050年にはバリューチェーン全体でのCNを目指すという。

・人間中心のパラダイムでみると、人は生産者と消費者を行ったり来たりする。消費者が求めるものを、企業への発注者とみていく。B to B to Cにおいて、これを「創造的消費者」と称し価値を創出していく、と東原会長は強調する。

・社会システムに何らかの支障が発生した時、システムが途切れた時のダメージを最少にして、いかに早く回復させるか。このレジリエンスをシステムに組み込んでいく必要がある。

・社会インフラにDXは不可欠である。日立はOT(オペレーションテクノロジー)、IT、プロダクトの3つの領域を有している。これらをデータでつなぎ活用する上で、ルマーダ(Lumada)が威力を発揮している。

・例えば、サントリー食品インターナショナルの工場で生産計画を立てる時、ルマーダの活用によって、40時間かかっていたものが1時間でできるようになった。天然水1本1本のトレーサビリティが確保されている。このようなパートナーシップによるルマーダイノベーションを、世界にも広げていく。そのために、米国のグローバルロジック社をM&Aした。

・日立の再生は、川村氏が赤字を止め、中西氏が社会課題の解決というゴールを共有し、進むべき方向を定めた。東原氏が社会イノベーションをビジネスとして推進し、企業としての収益性向上に力を入れてきた。

・小島社長は、日立の中央研究所の所長やCTOを務め、ルマーダの開発をリードしてきた。ようやく基盤ができてきたので、その上に成長路線を形成していく。小島社長は、それが自分の役割であると語る。

・では、どのように展開するのか。将来の成長を予測(フォーキャスト)するのではなく、バックキャストで見つめていく。普通は未来を予測するが、予測は当たらない。当たらないものをベースにはできない。将来のあるべき姿から、現在なすべきことをつめていく。

・このバックキャストは、「意思の表明」であると小島社長はいう。将来何を達成したいのか。そのためにどんな能力が必要なのか。実際、2050年にCNを達成するとしたら、どのようなステップで、今何をすべきなのかをつめていく。

・日立はどこで成長していくのか。GDIという3つの領域を定めている。G(グリーン)では、10年前からポートフォリオの入れ替えに力を入れ、電力、鉄道、EVなどの分野でグリーンを追求している。

・D(デジタル)では、ルマーダをグローバルに展開する。そのために、グローバルロジックを1兆円で買収した。I(イノベーション)では、物理的なテクノロジーのロードマップを描き、R&Dの推進において、ベンチャーキャピタルも活用する。外部の力をビジネスモデルに組み込んでいく。

・このGDIの領域は激戦区である。戦略上の違いをいかに創って、独自の価値を実現していくか。最も重要なことは、スピードであると小島社長は強調する。

・この点では、もう1つのSDGsを重視する。S(シンプル)、D(デジタル)、G(グローバル)である。ライバルをはっきりさせて、目標を明確にシンプルにする。デジタルを活用して、プロセスを早くする。そして、世界のアセットを活用して自社の能力を高めていく。

・加えて、実行のフェーズにおける意思の強さを内外に示すことである、と語る。当初、中西氏が社会イノベーションと言い出した時、社内では何のことという感じで、十分理解されなかった。

・かつて、IBMからハードディスクビジネスを買収し、中西氏自ら苦労して事業再生させた。しかし、その事業を、社会イノベーションとのつながりが弱いということで売却した。これを契機に、社内では社会イノベーションを事業のコアすることを本気でとらえるようになった。

・口先だけではない経営者の本気度を示すには、バックキャストによるビジネスモデルの構想が有効である。①コンセプトを明確でシンプルな1つにする、②ルマーダで共通のプラットフォームを横軸に作っていく。③B to BはCまで意識しながら世界に出ていく、という戦略である。

・日立には、グローバルに5.4万社に顧客がいる。これらの企業と協創(コクリエーション)して、次の10年を創っていく方針である。今後の展開に注目したい。

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