GXでの成長機会はいかに
・DXとGX(グリーントランスフォーメーション)は、どの企業にとっても息の長い投資テーマである。社会的課題の解決に向けて、自社の戦略をどのように設定するのか。社会的価値と経済的価値を両立させて、企業価値向上を図っていくことが求められる。
・GXには3つの側面がある。1つ、カーボンニュートラル(CN)を進めるにはコストがかかる。現状のビジネスのやり方を続けるだけでは、今まで何らかの形で垂れ流していた環境負荷が許されなくなるので、それを削減するにはコストがかかる。
・かつて日本では公害問題がいろいろ発生した。健康被害も数多く出たが、当初は自らの活動が公害を起こすとは十分認識されていなかった。あるいは、認識はあったとしても、当時のルールを守っていれば、垂れ流しも許容された。
・その後、規制が強化とともに事態は改善された。よって、規制が大事で規制が強化されたら、それに従えばよい。その時かかるコストはできるだけ少ない方がよいという経営である。今やこの方針は全く支持されない。
・2つ目は、CNを実行するには、投資を必要とする。このCN投資をどのように実践するか。何らかの商品、サービスを提供する上で、原料、素材、エネルギーを大量に使う場合、その削減を進めないと、CNにネガティブな商品やサービスを提供する会社だとみられてしまう。
・そのような会社の商品やサービスを避けたいというステークホルダーが主流になれば、顧客は逃げ、いい人材も集まらなくなろう。逆にCN投資を先行することで、コストが増加することがあっても、企業としてのリスクマネジメントに十分効果があるという判断もあろう。
・グリーンファイナンスにおいても、CNを達成するためのトランジション(移行)を担うトランジションファイナンスがこれから大きく広がろう。
・3つ目は、CNに大きく貢献する新しいイノベーションに取り組み、GXを実現する企業に自ら変身していくことである。イノベーションには、すぐにできそうなこと、10年単位でR&Dが必要なこと、自社だけでなく社会の仕組みが変化する中で、チャンスが生まれてくること、などがあろう。
・例えば、LNGから水素(H)を作り、それを窒素(N)と反応させてアンモニア(NH3)を作る。このアンモニアと石炭を融合して発電を行えば、CO2は削減できる。それでも、LNG由来の水素は、途中のプロセスでCO2を排出するので、グレー水素ともみられる。
・再生エネルギーから水素が作られるのであれば、本来のグリーン水素といえるが、ここにはさらにイノベーションが必要である。
・あるいは、原子力発電の放射性廃棄物はどのようにコントロールするのか。ウランやプルトニウムが核燃料サイクルで再利用され、それ以外の廃棄物も長期にコントロールするには、これにもイノベーションが必要である。まだ実現が見込めていないイノベーションに対しても、R&Dは続けるべきであろう。
・CNに向けた先行投資は、新たな企業価値を生み出す可能性がある。当然、産業の交替も起きよう。自動車産業において、今のようなマイカーによる移動というものが相当必要でなくなるかもしれない。ガソリンから電気へ、水素へというだけでなく、その利用のあり方も根本から変化していこう。
・社会のメガトレンドは見えていそうで、まだ具体的ではない。どのようなビジョンを描いて突き進むのか。現状の延長戦上に自社が生き残っていく未来はないかもしれない。
・10月に3回目のTCFDサミットが催された。そこでの議論を視聴していると、日本企業の取り組みは活発である。CNに向けて、イノベーションとトランジションファイナンスがカギであるということははっきりしている。
・日本は2030年にGHG(温室効果ガス)を46%削減し、2050年にはCNを目指す。TCFDには世界で2400社が賛同し、日本では500社、世界でトップの社数となっている。プライム市場では、TCFDが開示義務となる。カーボンプライシングを利用するカーボンクレジット市場も創設の方向にある。
・サステナブルファイナンスが台頭する中で、グリーンウォッシングに惑わされないようにCNの情報開示は一段のルール化が進もう。そのレポーティングが企業価値にいかに結び付いているのか。グリーン投資のリターンはいかに測るのか。測定され始めて、コントロールできるという考え方がベースにある。
・CO2削減は、それ自体は測定しやすい。しかし、①自社、②仕入れ先も含めて、③サプライチェーン全体と広げていくと、その数値化は容易でないが、③のスコープ3のレベルを見える化していくことが求められよう。
・TCFDのレポートをどう企業評価に活かすか。現状がどのレベルにあるかを知った上で、中長期的にどのレベルを目指すのか。そのためのグリーン戦略の実効性はどうか。中長期戦略のトランジション(移行期)をどういう経路でいくのか。
・そして、企業価値創造に結び付いていくのか。まずは、グリーン投資とその成果(カーボンプライシングによる削減効果)に注目して、GX銘柄を選別したい。