DXの未来~デジタルシフトをいかに進めるか

2021/12/07

9月にNECの展示セミナー「Visionary Week 2021」をリモートで視聴した。DXの未来をいかに創っていくか。社会や人々のWell-being(善さ)をどこに求めていくのか。いくつかのセッションから印象深かった点を取り上げてみたい。

・台湾のデジタル大臣、オードリー・タン氏は、DT(デジタルテクノロジー)は人々を繋ぐAI(Assistant Intelligence、手助けとなる知的情報)をサポートするものであると定義する。

・民主主義は、人々の意見を汲み上げる仕組みであって、選挙だけがその方法でない。日々、人々のニーズを汲み上げていく必要がある。個の尊重、個の繋がりが大事で、シビックテック(Civic Tech)やガバメントテックはそのためのシステムである。

・COVID-19やカーボンニュートラルに国境はない。誰もが地球全体への説明責任を負っている。DTは平等なアクセスを原則とするので、デジタルデバイド(デジタル格差)は人権にまで関わってくる。

・DXのカギはデータにあり、その集め方が重要である。同時に、データの由来、品質、バイアス、遅れなどが問われる。迅速、安全にビジュアル化(可視化)することが価値を生む。

・タン氏は、シンパシー(同情)に引きずられることなく、エンパシー(共感)を追求し、それを軸に自らの考えを実践していく。まず不満を持つ人々に何度も聞く。次にバイアスに気付きながら、解決へのアクセスを図る。

・その時、①Fast(早く)、②Fair(公平に)、③Fun(楽しく)をモットーとして、新しいアイデアを実現していく。新しい価値を創るうえで、その価値が一方的に提供されるよりも、価値創造に参加する方が楽しい。シェアすると、もっと楽しくなってくる。

・先入観を持って人に接しない。一人ひとりを尊重する。今の人々だけでなく、後世の人々も視野に入れていく。パンデミックだけでなく、今やインフォデミック(根拠のない情報による感染爆発)も問題である。

・タン氏のWell-being(善さ)を追求する姿勢は一貫しており、そこにDTを活用している。デジタル大臣として、それを実践しているところが素晴らしい。

・NECはどうか。森田CEOは、①コラボレーション、②オープン、③ベルトルによって、未来の共感を創ろうとしている。理想の未来を提示し、それをめざす市民からの信頼を得て、実例を作り、実感してもらうというやり方をとっていく。

・大企業では、これまでの成功体験がしがらみになる。一方、スタートアップ企業にしがらみはない。互いがうまく組めば、新しい方向へ進むことができる。そのためにはベクトル合わせが必要である。

・企業のパーパス(存在意義)について、ステークホルダーとのコミュニケーションを通して共感を高め、社会的価値を見える化していく。そうすると人材も資金もついてくるので、これをビジネスにしていく、と森田CEOは強調する。

・パーパスをベースに、5年スパンの戦略を立て、企業文化に作り込んでいく。長期的利益の最大化を狙いつつ、短期の利益については最適化を図っていく。

・では、楽天、日経新聞、コマツのDXはどうか。各社のDX推進のトップの話は極めて興味深い。

・楽天の平井副社長(CIO)は、IBMから楽天に移って7年、5500名の開発部隊を統括している。うち3500人が東京にいるが、そのうち60%が外国人である。英語を公用化した効果で、三木谷ファンが集まっている。

・経営上の価値基準は、1)規模、2)社会的価値、3)おもしろいこと、にある。すべての企業がDXのテック企業になりうるので、ビジネスとテックのアーキテクチャーをいかに結び付けるか。DXによる分子(生み出される価値)の最大化を目指す。

・楽天はすでに70以上のサービスを作り出しており、これをエコシステムとして動かしている。カギはパーソナライゼーションで、顧客との接点を多面的に作っていく。

・楽天のテック戦略は、データ化(デジタリゼーション)によるデータサプライをベースに、1)プラットフォーム、2)アルゴリズム(サイエンス)、3)アナリテック(事業化)に分けて、デジタライゼーション(DX化)を進めている。

・日経の渡辺専務は、日経の記者を経て、日経パソコンの編集長などを務めた。日経電子版の担当になって、電子版を80万部まで伸ばしている。

・紙の日経新聞は、新聞販売店への卸売であった。広告枠も卸売であった。つまり、紙の新聞300万人の顔が見えていなかった。その中で顧客ファースト、デジタルファーストを追求した。

・徹底的に未来の読者のニーズを聞いた。30代の不満を聴いて、デジタル版に反映させた。彼らは紙を読まない世代である。

・もう1つ、テックについて先端企業に聞いて回った。コマツにも行った。そこで、課題を具体的ソリューションにするには、アプリを内製化する必要があると判断した。すぐ実行するには内製化していないと対応できない。2011年からその方向に舵を切った。現在エンジニアが80人いる。

・コマツの四家執行役員は、現在スマートコンストラクションの本部長である。建機のレンタル会社を起業したが、その会社がコマツにM&Aされ、その後、外から入った人材として、コマツ内で頭角を現してきた。

・途中入社でコマツに入ってみると、ダントツ商品、ダントツサービスを掲げて、ソリューションに取り組んでいるが、現場に行っても自社の製品からしかものごとをみていない。これでは広がりがない。本当に困ったことが分からない。

・コマツのモノづくり、コトづくり(困りごとの解決)の差が大きかった。そこで、スマートコンストラクションでは、コトづくりを徹底的に追究した。2015年からこのプロジェクトをスタートさせた。

・客の現場を見て、ソリューションを考えていった。例えば、土の盛り土(量)が分からなければ、建機の手配はできない。ドローンで測って、トラックの必要量が分かるようにした。ドローンの会社は、オープンイノベーションで探した。自社のテックありきでなく、ソリューションファースト、その上で世界のテックを探しに行った。

・これを進めていると、社内カルチャーとのギャップが広がった。そこで、スマートコンストラクションのDXに関わる関連会社をカーブアウトした。コロナ禍でスマートコンストラクションは加速化しているので、独立した方がスピーディになると判断した。

・大組織は1人では動かない。コマツに入ってやったことは、とにかく人々を巻き込んでいくことであると、四家氏は強調した。新しい人材を集めるのに、コマツの人事制度は合わない。そこで別会社化して、共感できる人材を集めていった。何事もスピード重視で、失敗する時も高速で失敗すべく、そして取り戻すという経営姿勢はすばらしい。

・どの会社もデジタルシフトを進めている。それは単なるテックの導入ではない。新しいビジネスモデルにしっかり組み込まれたDX戦略となっているか。DXのトップの話は面白い。DX銘柄の選択に大いに役立とう。

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