ポストコロナの株式市場~崩れるリスクはいかに
・新型コロナへの対応はみえてきたが、市場はまだ楽観と悲観が入り乱れている。COVID-19の感染防止にはワクチン接種が効く。しかし、変異株のデルタ型が1.4倍の感染力で新たな広がりを見せている。
・変異株にはこれからも新種が出てこよう。ワクチン接種による免疫効果は1年も経てば落ちてくるようだ。とすれば、集団免疫が相当高くならないと、コロナへの感染数は波状的に上下しよう。これに伴って、景気への悪影響が蒸し返されるので、次第に弱まるとしてもマーケットのリスク要因として続こう。
・国内でのワクチン生産、COVID-19の治療薬の普及、3度目、4度目の追加的ワクチン接種(ブースターショット)の体制作りが求められる。今後、1~2年は必要であろう。海外との人の往来となると、平常化するにはさらに数年を要しよう。
・それでも景気回復を反映して、大幅な金融緩和の見直しが進展しよう。インフレ懸念とテーパリング(金融緩和の段階的縮小)の綱引きが、市場の声とのギャップによって、マーケットに変動をもたらそう。
・ポストコロナの経済回復が一巡してきた後は、再び成長戦略の行き詰まりから、景気の停滞が起きるかもしれない。DX(デジタル)、GX(グリーン)を取り込んだビジネスモデル創りが明暗を分けよう。日経平均でみれば、株価は秋口にかけて調整を強めた後、3万円を回復するとしても、今後1~2年で3.5万円を目指すほどのパワーはまだ乏しい。
・もう1つの懸念は、地勢学的リスクである。半導体のショーテッジ(供給不足)も加わっている。6月に、藪中三十二氏(立命館大学教授、元外務事務次官)の話を聴く機会があった。この講演内容を踏まえながら米国、中国、日本の立ち位置について、頭を整理しておきたい。
・藪中氏は、日本の外交を40年ほど担ってきた。変化する世界にあって、外交官は、1)スピークアウト(よくしゃべり)、2)ロジック(理屈っぽく)、3)アウトスタンディング(目立つよう)にふるまわないと、その任務が果たせないという。
・これからの日本は、どのようなプレーヤーになるのか。覇権国としての米国の地位は落ちている。一方で、中国の台頭は著しい。バイデン大統領は、中国を目の敵にしている。このままでは中国に負けてしまうので、何とかしなければならないと考えている。そのために2つの戦略をとる、と藪中氏はみている。
・中国が、競争相手として、自らの秩序を脅かしている。これに対して、米国を強くする必要がある。そのために、米国版産業政策を強化する。かつて、日本が台頭してきた時には、自動車や半導体で、日本の産業政策を徹底的に糾弾した。しかし、今や半導体やAIを育てるために、政府が資金を出すという。
・もう1つは、中国と対峙するには、一国だけでは無理なので、パートナーと組む作戦である。バイデン陣営はG7重視に舵を切った。ワクチン提供で世界に貢献する。中国の一帯一路に対抗して、インフラ投資の支援にも乗り出すという。
・中国をどのように抑え込むのか。それには、インド太平洋の同盟国と組む。3月にQUADサミット(米、豪、日、印)を行い、2回目はワシントンで実施する予定ともみられる。そのために、日本の尖閣を支持し、インドではワクチンサポートを強化している。中国包囲をあからさまにし、豪と中国の関係はかなり悪化している。
・日米首脳会談では、日本重視を見せ、1)台湾海峡の防衛、2)中国依存のハイテク脱却、3)日本の製造業とのイノベーション協力、を強調した。
・台湾問題はかなりセンシティブである。台湾有事は戦争を意味する。戦争になれば、日本は必ず巻き込まれる。日米安保、集団的自衛権からみて、中国が台湾を攻めれば、米国は台湾を守る。その時、日本の米軍基地は全面的に使われることになるという見方だ。
・中国は台湾の独立を絶対に認めない。台湾に侵攻する口実を探っている。これまで台湾について、米国は「あいまい戦略」をとってきた。台湾を独立国と認めるわけではないが、西側の一員として重視してきた。
・日本には、尖閣有事、台湾有事、に対して2つの意見がある。1つは、中国共産党の独裁には目に余るものがあり、いざという時に備えて防衛力を強化し、有事も辞さないという対応をとるべし、という考えである。
・もう1つは、平和的解決に向けて、外交力を一段と強化すべし、という考えである。中国は絶えず挑発的なジャブを出してくる。国際的なルール違反、偽装や流言は常套手段である。これには徹底的に論駁していくが、武力的な手出しは中国に口実を与えるだけなので、よほど注意する必要があると、藪中氏は指摘する。
・米中の経済関係は相互依存にあり、完全にデカップリング(切り離す)ことはもはやできない。しかし、テクノロジーをベースにした新成長領域は、そのまま安全保障と結びついている。
・米国は、中国から米国内へのハイテク投資は認めない方針に転換した。台湾の半導体ではTSMCが世界的にも圧倒的である。米国はハイテクで産業政策を実行する。中国も自前主義でハイテクを伸ばそうとしている。
・中国の覇権を狙う大国主義、南シナ海の核心的利益を奪い取ろうとする好戦的な「戦狼外交」は、西側の反発をかっており、明確な対抗戦略が必須となっている。米中の冷戦は、互いの均衡を図りながら続くことになろう。
・こうした局面において、日本の中国に対する平和外交は、従来のようにはうまくいかない。2022年は中国国交回復から50年、日本はどう動くのか。米中の綱渡しのあり方が問われよう。
・藪中氏の見解は、米中リスクをみる上で大いに参考になろう。戦争はないとしても、紛争は起こりうる。中国は仕掛けるし、それを待っている節もある。マーケットは紛争リスクのたびに下振れしよう。ここも踏まえて、今後の投資戦略を練りたいものである。