EVのインパクト~Beyond Mobility への期待

2021/07/26

・EV(電気自動車)の普及が本格化しつつある。①社会性、②技術力、③市場性、という3つの視点からみて、今後どうなるであろうか。

・筆者は若い時、自動車アナリストであった。いろいろな車に試乗して将来予測を行った。1970年代の石油ショックを契機に、省エネがテーマとなり、小型車がブームとなった。同時に、車社会が排ガスをまき散らすので、排ガス規制も逐次強化されてきた。

・燃費と排ガスを克服しつつ、移動を楽しみ、生活の糧にすることが当たり前になった。かっこいい乗用車や、実用的な商用車がイノベーションによって生まれてきた。しかし、当時の電気自動車は黎明期にあって、実用化には程遠かった。バッテリーの性能が問題外に低く、モーターも全く不十分であった。例え量産したとしても、コスト以前に性能で対抗できなかった。

・あれから40年、何度かの試行錯誤を経て、EVは新たなブームになろうとしている。今回は間違いなく伸びそうである。「世界デジタルサミット」で、日産自動車の星野朝子副社長は、Beyond MobilityとしてのEVを強調した。日産はリーフでEVに先鞭をつけ、10年で50万台を販売した。

・EVはゼロミッション、つまり排ガスのCO2やNOXはゼロであるが、カーボンニュートラルでは、車や電池を製造時、走る時、処分する時も含めて、ゼロにもっていく必要がある。EVは、ガソリン車の2倍以上のCO2を製造工程で出す。一方で、EVが長い距離を走行すれば、ゼロエミッションとして、製造工程の排出分をカバーすることができ、有利になってくる。

・同時に、事故を起こさないこと、死亡事故ゼロも大きな命題である。走る情報通信機器として、センサーを駆使して事故を防ぐことが期待される。

・もう1つ、EVは走る蓄電池としての役割も有している。災害時に、避難場所や老人ホールなどにおいて、EVのバッテリーから電気をとることができる。家庭においても、非常用電源の1つとして有力な道具となりうる。

・Beyond Mobilityとは、クリーンな移動手段としてだけではなく、電気を貯める役割にも着目して、EVを活用していこうものである。Beyond Mobilityが新しいニーズとして、社会インフラに組み込まれよう。

・EVの普及で、日本は遅れをとるのか。欧州は、かつてガソリンよりもディーゼルの燃費を優先したが、環境への配慮からEVシフトを一気に進めようとしている。補助金を出し、インフラ整備を進め、エコ教育にも力を入れている。

・米国では、テスラのようなとんでもないベンチャーが登場してきた。テスラは昨年EVを50万台販売し、売上高営業利益も6%を超えてきた。

・自動車メーカーは、今モビリティ(移動)を提供する会社に変身しようとしている。世界的にも、新しい競争相手が続々と出ている。中国でもIT企業が参入しようとしている。EVの販売価格も下がりつつある。原価の中で大きなウエイトを占めるバッテリーのコスト低減が進んでいることによる。

・日産自動車の新型EVアリアの予約は好調である。但し、生産能力に制約があるので、すぐに急拡大はできない。星野副社長は、テスラのイーロン・マスク氏はカリスマ的であるが、EVの技術という点では日産のライバルとみていない。日産はブランドを回復できるか。ワクワクする新車が出せるか。そして、主力の世界市場で戦っていけるか。星野副社長の役割は一段と重要になろう。

・では、EVシフトはどこまで進むのか。自動車大国日本はその地位がキープできるのか。NRIの株主総会後の経営報告会で、この点について、シンクタンクとしての分析と予測を示した。

・EVでは、今や中国と欧州がリードしている。カーボンニュートラルは、CO2排出をEVのライフサイクルを通して評価する必要がある。そうすると、EVは必ずしも優等生ではない。EVを製造する時の電力消費が課題であり、再生エネルギーがどこまで使えるかによって、大きな差が出てくる。

・再生エネルギーが十分に使えないならば、ハイブリッド車の方がまだましであるという意見も出てくる。2030年で再生エネルギーを30%以上使えるならば、EVの方が望ましいという見方ができる。欧州、中国、北米は、それがクリアできそうだが、日本を含むアジアの条件は不利である。

・ユーザーはEVを購入するのか。NRIのアンケート調査によると、若い人のEV関心度は高い。では、EV化がどんどん進むのかというと、必ずしもそうはならない。バッテリーが引き続きネックとなる。再生エネルギーの利用に制約があり、主力のLiB(リチウムイオン電池)のリチウムなど希少金属の資源にも制約がある。

・それでも、グローバルにみて2030年には新車の15~20%がEVになり、その市場規模は2000万台になるとNRIでは予測している。2020年の200万台強に対して10倍規模で、年率26%の高成長となろう。

・EVシフトが進むと、エンジン回りの部品がいらなくなる。バッテリーとモーターの性能にもよるが、EVの部品点数はエンジン車の3分の2になる。新しい電気部品には大いにチャンスがあるが、従来のエンジン関連部品は減ってしまう。

・EVを日本で生産して世界に輸出できればよいが、EVの部品を輸入に頼るようだと、自動車産業は縮小が余儀なくされよう。EV産業は、従来の垂直的産業構造から、水平分業的な産業構造へ大きくシフトしよう。

・EVの普及に日本はどう取り組むのか。いくつかの課題がある。まず、エネルギーインフラで、再生エネルギーの比率を上げていく必要がある。次に、国の立地からみて風力などに不利な面があるので、それをカバーするために、エネルギーマネジメントを一段と強化することが求められる。

・さらに、電池の有効活用という点で、蓄電でイノベーションをリードしていく必要がある。従来のモノづくりという視点ではなく、EV社会を見据えて、日本の強みを活かすプラットフォームを構築していってほしい。

・中国も欧州も、自国の電池メーカーの育成に力を入れている。日本は国内市場だけでは、規模が小さい。ボリュームを確保し、ハイブリッド部品を活用し、EVインフラを輸出していく戦略的対応が重要となろう。

・EV用電子部品はグローバルに成長する。ここに強い日本企業はいくつもある。これを超えて、EVプラットフォームで世界に対抗できるか。トヨタを始め、有力企業の挑戦はすでに始まっている。Beyond Mobility に大いに期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
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