CDEXを投資に活かす
・これからの投資環境をどうみるか。体験を重視するアナリストとして、中長期の株式投資をどのように実践していくのか。気になる事項について、投資の視点から検討してみたい。
・マクロ的には、中国の覇権主義がますます高まってこよう。威圧外交は常套手段であり、報復によるいじめを防ぐ決め手は、なかなか見出しにくい。中国市場でのビジネスチャンスを見逃すわけにはいかないが、依存しすぎるといざという時のしっぺ返しが危い。
・ネットビジネスにおいて、米国のGAFA、中国のBATと直接戦える日本企業は見当たらないが、差別化戦略で一定の地位を築こうという動きは活発である。しかし、新しいメガトレンドに対抗しようという戦略は、すぐに足元をすくわれかねないので注意を要する。
・つまり、中長期の業績を計量的に予測することはかなり難しい。中長期投資のよりどころをどこにおけばよいのか。企業の株価は業績で決まる、というのが一般的な常識で、ファイナンスモデルの基本である。
・では、他者より早く先見的に業績を正しく予測できれば、株価パフォーマンスでα(付加価値)を得ることができるのか。必ずしも、そううまくはいかない。正しく予測できたとしても、それがコンセンサスであれば、その時点で株価には既に織り込まれているからである。
・大事なことは、多くの人がまだ気付いていなかったり、疑問に思って躊躇したりしている内容について、先に確信をもつことができればよい。それを業績予想に活かすならば優位に立てるかもしれない。これがαを得ようとする投資家の基本動作であろう。
・では、コロナ(covid-19)禍にあって、その影響(プラス・マイナス)を人より早く読むことができたであろうか。振り返ってみるとなるほどと思えても、その時点では迷いもあり難しい。
・実際、リモートワークなどDXが加速している。DXをビジネスモデルに活かして、企業価値を高める企業を見出すことは、詳しく調べていけばできるかもしれない。しかし、詳しく調べても、会社がDXの変身途上にあれば見極めがつきにくい。一定の確信を持ったとしても、その時には多くの投資家にすでに知れ渡っているかもしれない。
・例えば、リモートワークと同じように、健康のための在宅フィットネスのニーズが大きく高まっている。オンラインフィットネスの市場は有望である。これを新たなビジネスモデルに仕上げて、中長期的に儲けることのできる企業はどこだろうか。
・政府はデジタル庁を創設しようとしている。政府や自治体など公共機関のIT、DX化は遅れている。コロナ対策として、人々をIT、DXで徹底的に監視すれば一定の効果は得られようが、プライバシーの保護、セキュリティーの確保という点で、市民、国民の賛同を得ることは容易でない。
・中国のような監視社会、台湾のようなIT国家、欧州の一部の先進国のようなロックダウンができる国と違って、日本のような同意を求める共同体型むら社会では難しい。
・それでも、BD(ビックデータ)を分散保護し、利用方法を限定しながら活用しようという動きは活発化しよう。データの監視は一方向ではなく、双方向で行う必要があり、開示をベースにした透明性の確保が必須である。
・では、パブリックセクターのDXを担う企業はどこだろうか。候補はいくつもあるが、まだ戦略が十分でなかったり、規模の見直しが立たなかったりして、先行きは流動的である。
・カーボンニュートラルを目指して、脱CO2、再生エネルギーの新たな拡大が始まろうとしている。風力発電、水素エネルギーの活用、CO2の排出取引、蓄電池の公共施設や民間企業、家庭での利用が次第に一般化してこよう。
・環境テクノロジーの革新とともに、社会的価値向上のために経済原理の活用(プライスメカニズムの導入、サステナブルファイナンスの台頭)も大きく進展しよう。
・ESG債、グリーンボンド、ソーシャルボンド、SLL(サステナブル・リンク・ローン:ESGの目標付融資)など、ファイナンスも多様化してくる。
・社会にもたらす変化や影響の度合いを重視するインパクト投資も勢いをつけている。社会の隙間を狙って、バリューチェーンをつなごうという意図がある。エネルギー、農業、ヘルスケア、教育、食料などに広がろう。
・一方で、原子力発電はどうするのか。東日本大震災の被害は20兆円とも試算されているが、これとは別に福島原発の廃炉はどのように実行していくのか。
・核燃料棒の取り出し、溶融燃料(デブリ)の取り出し、処理水(トリチウムという三重水素を含む)の海洋放出などを安全に、かつ安心できるように行っていく必要がある。急ぐものから数10年かけるものまで、相当の費用がかかろう。
・もし、最新の原子力発電所を作って運転するとして、そのLCA(Life Cycle Assessment)
を行ったら、どんな結果が出るのだろうか。全く新しい発電所が競争力をもってできるのか。原子力の特性、日本の地理的な立地、安全上の構造的アーキテクチャーからみて、そもそも無理なのか。ここをぜひ知りたい。
・これからの企業価値は、ポストコロナ、DX、脱炭素をビジネスモデル(BM)に織り込んで創られていく。すなわち、V(企業価値)= BM(コロナCX、デジタルDX、脱炭素EX)として、社会的価値への広がりが求められる。
・ここで、2つの視点が重要である。1つは、新しいビジネスモデルが生み出す価値をキャッシュフローとして予見できないとしても、価値創造の蓋然性を判断することは可能である。ここを見極める努力をすることである。
・もう1つは、その蓋然性の予見で、他者を出し抜く必要はない。大事なことは、自分が確信を持つことで、それをベースに投資判断を行うことが重要である。
・筆者の経験では、多くの場合それでも十分間に合う。つまり、ポートフォリオとしてのαは追求できよう。αの水準に満足するかどうかは、自分の投資スタンスに依存する。
・世の中は不確実だから分からないと思い込むのではなく、偶然に賭けて宝くじのように祈ってみるのでもなく、もう少し見通せる世界がある。最も大事なことは、人への信頼である。‘よき経営者を見抜くこと’がその醍醐味といえよう。