花王のESG経営~きれいイノベーション

2020/12/02 <>

・10月に、日本証券アナリスト大会がWebで開催された。その中で、花王の澤田道隆社長が「ESG経営に大きく舵を切る」というテーマで講演した。

・花王の経営は常に先進的である。若い頃、当時の丸田社長から特命を受けて企業調査部をあげて調査したことがあった。常に理詰めで徹底している。資本コストを上回る企業価値経営、R&Dで根本から違いを作る経営、ESGを重視した経営で独自性を出している。

・昨年9月に、ESG経営に舵を切ると発表した。来年1月には長谷部佳宏専務が社長に就任する。8年ぶりの社長交代となるが、花王の経営風土をしっかり継承できるものとなろう。今回のプレゼンはそれを実感させるものであった。

・どうしてESG経営に舵を切ったのか。その理由を澤田社長は3つあげた。1)企業理念を実現するには、ESGが根幹である。2)CSRやサステナビリティでなくESGとしたのは、Gのガバナンスが最も大切であることによる。3)技術革新で社会に貢献することを目指しているが、このイノベーションを進めるに当たっても、ESGをど真ん中に据える必要がある。

・これまで、Eの環境では脱炭素に力を入れてきた。Sの社会では、社会貢献に努めてきた。しかし、一人よがりにならないように、自己満足にならないようにするには、Gが最も重要であると強調する。

・もう1つ、イノベーションには常に表と裏がある、と語る。例えば、プラスチック(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)は便利で社会に役立ってきた。しかし、時間が経つと、表の良さだけでなく、裏の弊害も目立ってきた。これからは、表も裏も同時に考えて、イノベーションの取り組む必要がある。そのためにESGが問われる。

・では、特徴あるESG経営を実行する上で、どのようなアクションをとるのか。ここでも3つアクションを掲げている。

①攻めのESG : ESGはコストではなく、投資としてとらえる。投資であるから、当然リターンを追求する。

②グローバルな取り組み : ESGの推進に当たって、米国人のマネジメントを統括責任者にした。日本人の視点ではなく、グローバルに通用するESGを実現するためである。

③花王らしい戦略 : 清潔、美、健康を追求するには、心もきれいである必要がある。生活者を起点に正道を歩む。Kirei Lifestyle Plan では「きれいを、こころに、未来へ」をシンボルとした。

・この決意表明には、3つの意味が込められている。第1は、抜本的に変える。これを澤田社長は‘突き抜けるレベル’と表現する。第2は、廃棄まで責任を持つ。バーティカルインテグレーションを視野に、ESGを設計していく。第3は、きれいイノベーションの領域を拡大し、人、社会、地球にインパクトを与えていく。

・Kirei Lifestyle Planの第1ステップとして、プラスチックにフォーカスしている。脱炭素はこれまでやってきたので、ボトルレス、シールレスに注力する。リデュースでは、詰め替え、濃縮という点で日本は先進国である。次はボトルの再生、フィルムの再生によって、廃棄ゴミをゼロにする。リサイクル品を再加工して活用するリサイクリエーション活動を一段と進める。

・フィルム容器のリサイクルでは、リサイクルしやすい容器、分別しやすい容器、回収運搬の水平リサイクルに業界あげて取り組む。まず花王とライオンが組んで成功事例を作り、P&Gにも入ってもらうという流れである。

・きれいを社会へ、というテーマでは、例えば、洗浄を3つのレベルでとらえている。1つは、簡単便利にして、洗浄の時間減らす。泡で流すようにすると、水の使用量も20%削減できる。

・2つ目は、泡を3D形状にしてわくわく楽しくする。ディズニーランドのミッキーの形をした泡は楽しさを提供し、手洗いの習慣化に役立っている。

・3つ目は、きれいにすることで、感謝の気持ちを表す。小学生が卒業するに当たってお世話になった教室、校舎をきれいにする。マジックリンシートを使ってきれいにする。すると気持ちがいい。こうした活動を花王はサポートしている。

・Sのソーシャルイノベーションでは、QOL(生活の質)を向上させるという意味で、医療の領域に入っていこうとしている。きれいにすることの先に、命を守るという目標を掲げた。感染症予防という見えない敵と戦うことも視野においている。

・5月に新型コロナウイルスの中和抗体の開発に成功した。ワクチンは自分の体の中に中和抗体を作るが、今回の治療薬候補はコロナウイルスを中和抗体で不活化させる。大量生産できる技術も有している。北里大学の片山教授と共同して、臨床試験を進めている。

・新社長の下で、来期からスタートする新中期計画(2025年)では、このソーシャルイノベーションとして、命を守ることをど真ん中におく、と澤田社長は熱く語った。

・Kirei Actionで、持続的利益のある成長を目指す。この基盤となるのかが、ESG経営である。とりわけ、Gを磨いていくと改めて強調した。

・コロナ禍での経営はどうなすべきか。コロナは人と人を引き裂いてしまう。人は繋がって学び、働き、生活することが楽しい。逆に、間がなくなってしまうと、不安になり、不健康になり、創造力が低下する。

・人はマスクで無表情になり、企業は赤字になって持続できなくなる。人を見なくなったり、人が見えなくなったりすると、自己中心的な発想になる。そうならないように守るのがESG経営であると、澤田社長は明言した。

・リアルとリモートをハイブリッドにして、新しい良さを先んじて作っていく。ニューノーマルは自ら作れ、と鼓舞する。一方で、多様化を取り入れることは、コストアップにもなるので、そこは工夫する必要がある。経営戦略は、①ブレるな、常に理念に戻れ、②戦わずして勝つイノベーションを突き進めよ、そして、③文化を創れ、と語った。

・今話題になっているESG経営やESG投資について、疑問や疑念の声もある。しかし、花王のような本物の企業価値経営にふれると、そうした疑念は払拭されよう。ハードルは高いが、こうした会社が次々登場してくるように、企業も投資家も大いに切磋琢磨したい。

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