DXとIR~チェンジのケース
・8月に、経産省は東証と共同で「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」を公表した。企業価値向上につながるDXを推進している企業を選定し表彰するものである。「DX銘柄2020」で35社、「DX注目企業2020」で21社が選定された。
・東証の業種分類をベースに、全上場企業にアンケートを要請し、回答を得た企業からDX活用事例を重視して、評価委員会が最終的に選考した。評価項目は、①ビジョン・ビジネスモデル、②戦略、③組織・制度、④デジタル技術の活用・情報システム、⑤成果と重要な成果指標の共有である。
・その中で、デジタル時代を先導する企業として、小松製作所とトラスコ中山がDXグランプリに選ばれた。4年連続で選ばれた企業は、アサヒグループHD、ブリヂストン、JFE HD、JR東日本、日本瓦斯、東京センチュリーであった。また、ユニークな企業として、グランプリのトラスコ中山のほかに、不動産テックのGA Technology があげられる。
・これらの評価は昨年の実績をベースにしたものなので、新型コロナ前のDXである。新型コロナショックを踏まえて、今後はどうなるであろうか。ほとんどの企業は否応なくテレワークの実行に追い込まれ、DXは一段と加速している。
・テレワークの環境はどうであろうか。東京商工リサーチが6月に実施したアンケートによると、全国1.8万社のうちテレワークの普及率は56.4%、大企業においては83.0%であった。しかし、その業務の内容、管理の仕方、実績の評価については課題を残している。
・DXのコンサル企業で、パブリテック(自治体向けIT)で日本をリードするチェンジは、顧客企業を分析する中で、新型コロナ感染症の第1波の教訓を踏まえて、第2波への備えとして、次のような点に着目している。
・第1波からの気づきとしては、1)何とか業務は回っており、当初の想定より生産性の低下は感じられず、移動がない分だけ効率的になった、2)しかし、テレワークでできない仕事も明らかになり、押印や承認ボタンのために出社する必要があった、3)PCなど端末の配備にかなりの時間を要した、4)セキュリティの不備が案の定狙われた、5)一斉にアクセスするとネットワークが安定せず、速度問題で在宅業務に支障が出た、などをあげた。確かに実感であろう。
・第2波に備える要点としては、① サイバー攻撃を前提にしたセキュリティの確保、② 3か月で実装できるスピード感、③ IT管理者の少ない中小型企業でも利用できる簡便な運用、④ BYOD(私的端末の利用)への対応を指摘している。
・そのためのソリューションとして、1)BOX(クラウドストレージ)+Zoom(Web会議)+direct(ビジネスチャット)などのコラボ環境、2)Black Berry+Awingnなどの高度セキュリティの簡単構築、3)WorkSpacesのデジタル著作権保護機能を利用した情報漏洩対応、4)非接触での端末配備や丸ごとサポートなどを提案している。
・どの企業においても、営業におけるDXをどのように進めるかは大きな課題である。よく知った顧客といつものコミュニケーションや商談なら問題ないが、新たな契約を決めるような重要な営業となると、リモートだけではうまくいかない。
・SI企業やICT企業においても、自らのDX商品やDXサービスをどのようにセールスしていくか。その時まさにDXをいかに活用するか。ここには新しいノウハウが必要となる。DXによる企画・提案の進め方について、チェンジはコンサルを行っている。
・では、DX時代のIRはどうか。これについてもチェンジの取り組みはまことにユニークで先進的である。チェンジは4年前に新規公開して、時価総額は現在3500億円、公開時に比べて30倍以上になった。日本を代表するDX企業になることを目標に掲げて、New-ITトランスフォーメーションとパブリテック(公共自治体のDX)を推進している。
・「ふるさとチョイス」(ふるさと納税のトップサイト、シェア5割)を運営するトラストバンクをM&Aして、業績は断層的に伸びている。そこで、四半期ごとに株主・投資家向けWeb説明会を始めた。これが極めて好評である。
・8月に3Q(9月決算)の決算を公表した。その日の19時からZoomを使った株主・投資家説明会を行った。ここで重要なのは、既存株主を最も大事にしていることである。ホームページで説明会を予告して自社で主催した。もちろん、一般投資家も機関投資家も参加してよい。
・福留社長は自宅から参加した。19:00から始めて、40分ほど3Qの決算と今後について説明した。その後、Zoomのチャット機能を用いてQ&Aに入った。ピーク時400名を超える投資家が参加したが、21:30に終わった時でも300名が参加していた。
・何が凄いといって、チャットによる質問が100を超えた。これにすべて答えたことである。質問はさまざまである。しかし、どれも個人投資家として知りたいことであった。それに対して、1)いえない、2)わからない、3)答えない、4)無視する、という姿勢は一切とらずに丁寧に答えた。ここにIRの本質が表れている。
・ヒトは、自分が聞いた質問に正面から答えてくれると、かなり腹落ちする。この‘なるほど、わかった’という気持ちになれるかどうかが最も重要である。他人の質問を横で聞いているだけでは、通りすぎてしまうことも多い。
・きちんと答えてくれると分かるので、質問の書き込みがどんどん増えていく。結果として2時間半のWeb会議となった。内容は充実している。①次の中期計画は、②次の大型M&Aは、③会社の今の弱みは何か、④サブスク型へのシフトはいかに、⑤次の株式分割は、など知りたいことに、ビジョンと考え方をもって明解に話した。
・‘水を飲んで一息入れて、こんな丁寧な説明会は初めてだ、もう似たような質問が多くなってきたから、そろそろ終わっていいですよ’という書き込みも入った。和気あいあいとした楽しい説明会であった。長いとは感じなかった。
・これは、Web時代の新しいIRの1つのあり方であろう。対話(エンゲージメント)とは何か、を示す好事例であろう。このIRに接すると、これまでのIRが相対的に色あせてくる。従来と同じような形をそのままWebに持ち込んでくるだけでは、知りたいことに十分応えていない。消化不良の不満感が残るように思う。チェンジの次のZoom説明会をぜひ視聴していただきたい。