日本のガバナンスの課題~英米型からみると

2020/05/25 <>

・日本は、「攻めガバナンス」を推進している。しかし、成果という点ではまだ途上にあり、その実効性が問われている。形式は整えようとしているが、実質が十分でないという見方である。

・では、英米型のガバナンスがいかにも素晴らしいのか。この点に関して、コリン・メイヤー教授(オックスフォード大学)の論考が興味深い。(日経新聞経済教室2020年4月7日)それを参考に、いくつか取り上げてみたい。

・企業の株主をインサイダー(創業家や関係企業)とアウトサイダー(内外機関投資家)に分けてみると、英米型はアウトサイダーの機関投資家が中心である。しかし、大企業の場合、機関投資家は分散しており、大口と特定できる株主は少ない。そのため、目先の経済的利益よりも長期的な価値に重きをおく安定株主が少ない。

・そこで、ある程度まとまった株を買って、企業に方針変更を迫るアクティビズムが普及した。これが短期的な利益を追求し要求すると、中長期的な株主や他のステークホルダーの利益が損なわれてしまう。

・ここをどうするか。新たな方向として、最近、英米では株主資本主義からステークホルダー資本主義へのシフトが志向されている、というのがメイヤー教授の主張である。

・アウトサイダーが環境、不平等、社会的包摂(インクルージョン)を巡って、主張を強める動きも目立っている。特定のステークホルダーの利益に偏らないように、バランスをとっていくには、企業の中長期的価値創造に共感し、それを支えてくれる機関投資家が欠かせない。

・英米でも、そうした中長期志向の機関投資家は多くなかったが、十分な対話(エンゲージメント)を踏まえて、その改善に努めてきた。そのトレンドがステークホルダー重視のガバナンスを目指すことになっている。

・日本はどうか。銀行ガバナンスが弱まった後、持ち合いによる企業のもたれ合いガバナンスに陥っていたともみられる。経済の低迷もあるが、経営者が収益力の向上に全力投入せず、リスクを避けて低水準の利益で満足しているようにもみえた。収益性の低迷が株価パフォーマンスの向上も阻害した。

・そこで、アウトサイダーの奮起を促し、企業のガバナンス改革との両輪で、株主利益の向上を図りながら、ステークホルダー全体の価値向上を目指すことにした。

・英米型が短期の株主利益に引き込まれないようにしようという時に、日本が従来の英米型を追いかけるようでは本末転倒である。そうならないように、CGC(コーポレートガバナンス・コード)やSSC(スチュワードシップ・コード)の内容をレベルアップさせ、その実効を求めている。

・日本では、サラリーマン型内部昇格の大企業よりも、創業型中堅企業の株価パフォーマンスがよいという傾向が明らかにみられる。大株主のいない大企業のガバナンス、オーナー色の中堅企業のガバナンスは、各々どうしたらよいのであろうか。

・大企業には、1)プロの経営者が選任できるようにする、2)オーナーとはいえないが、経営陣の報酬に占める株式のウエイトを大幅に高めて、中長期的価値創造のインセンティブを明確にする、3)それを支える社外取締役が機能できるガバナンスの仕組みにする、ことが求められる。現在、その方向に向かいつつあるが、まだ道半ばである。

・オーナー型企業については、1)オーナーのリーダーシップは十分発揮してもらうとして、ワンマン型の暴走に走らないように、牽制する仕組みが必要である。2)後継者にオーナーと同じ力量は期待しにくいので、その資質を十分見極める必要がある。

・とりわけ、オーナーの好き嫌いを適切にコントロールしたい。3)それを支えるようなガバナンスの仕組みを構築し、オーナーに納得してもらう必要がある。

・いずれのタイプにおいても、企業の持続的成長と、それを担うトップマネジメントの力量、それを支えるガバナンスの仕組みについて、アウトサイダーは企業と十分対話し、推進していく必要がある。

・その場合、通常の議決権行使に加えて、中長期の価値について企業に対話を強く求めるアクティビティがあってよい。良識あるアクティビストとして、的確な経営提言を行う真剣勝負が望まれる。

・メイヤー教授は、長期保有の機関投資家がそのウエイトを高め、ガバナンス改革の中核となることが、あるべき姿であると強調する。もし、短期主義に走ったり、中途半端な行動に留まったりするのであれば、攻めのガバナンス改革は期待はずれになる。今はその岐路にあると指摘した。

・新型コロナショックで、局面は大きく動いている。1つは、コロナショックへの短期的対応として、企業はどうサバイブするのか。2つ目は、この局面を乗り切った後で、マネジメントの風景はガラッと変わってくる。新しいマネジメントスタイルの勝負となる

・ステークホルダー重視のガバナンスのあり方が改めて問われる。グローバルにビジネスモデルの再構築が本格化しよう。気候変動、感染症、グローバルなサプライチェーンに関わる働き方や人権尊重を踏まえたBCPも推進されよう。

・日本のスチュワードシップ、コーポレートガバナンスの実効性にも、一層のレベルアップが要求される。有事に直面した経営トップの手綱さばきに注目したい。

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