どのタイプの会社か~その上で経営力を問う

2020/05/18 <>

・日本取締役協会は、「独立社外取締役の行動ガイドラインレポート」を発行した。協会の独立取締役委員会(委員長 みさき投資 中神社長)がまとめたものである。このガイドラインには、明確な主張があり、取締役会の実効性評価に役立つ。その論点から、いくつか取り上げたい。

・まず、会社を見る場合、タイプを3つに分けてみる。第1類は、大株主がいて、経営にも参加している独裁型である。トップダウンによる意思決定は早いが、絶対権力が腐敗することがある。

・第2類は、大株主はいるが、経営には参加していない立憲君主型である。適度な相互牽制が働いているが、ステークホールダー間の利害調整に腐心することがある。

・第3類は、株主が分散している共和制型である。社内調和を求めるのはよいが、無責任、不作為、忖度が発生することがある。

・どれも一長一短がある中で、自分が属する会社、投資する会社はどのタイプであろうか。あえて当てはめてほしい。

・次に、その会社の取締役会にフォーカスしてみる。取締役会の役割について、これも3つに分けてみる。

・1つ目は、取締役がマネジメントの役割を担うマネジメント型。執行を担う経営陣が社内取締役として大半を占めている。いわゆる従来型の取締役会である。

・2つ目は、取締役会に助言を期待するアドバイザリーボード型。社外取締役にアドバイスを期待しており、監督と執行の分離が十分でない。

・3つ目は、取締役が執行の監視に専念するモニタリングボード型。監督と執行が分離して、役割がはっきりしている。あえて、この3つに分けてみると、自分が属する会社、投資する会社はどのタイプであろうか。

・改めて資本生産性を検討する。2018年までの10年間平均の日本の上場企業のROEは、全体の63%が8%を下回った。業種業態によって差はあろうが、資本コスト(株主の期待リターン)を上回る利益(ROE)を上げている企業は少なかった。

・日本のROE 8.3%に対して、欧州15.2%、米国18.6%であった。ROE=マージン×資産回転率×レバレッジに分けてみると、その主因は、資産回転率やレバレッジよりも、マージンの差が圧倒的である。マージン(売上高利益率)は、日本5.2%に対して、欧州9.1%、米国10.0%であった。

・なぜマージンが低いのか。実態を分析し、いかに高めるかを追求する必要がある。それを執行部門が実践し、取締役会がモニタリングしていくという構図が基本である。

・そのためには、経営陣と取締役の役割が曖昧な兼務ではなく、執行と監督の役割を明確に分離せよ、というのが中神レポートの主張である。

・経営トップが、事なかれの姿勢で恙なく任期を務め、リスクを避けて勝負しないようでは困る。不作為の経営による成長不足、稼ぎ下手では適任といえない。

・経営トップには、強力なリーダーシップを発揮して、果敢な意思決定をしてほしい。それを後押し、監視していく仕組みが取締役会に求められる。つまり、取締役会は本来モニタリングボード型であるべきだ、と主張する。

・通常、社外取締役の役割は監督と助言といわれるが、この助言は執行内容への直接的アドバイスというよりも、執行方針や体制へのアドバイスであり、それを踏まえた監督である。

・取締役会の制度には、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社、監査役会設置会社の3つがあるが、上場企業の4分の3は監査役会設置会社であり、指名委員会等設置会社は少ない。

・監査役会設置会社が、モニタリングボード型からは最も遠い。ここに、いかにモニタリング機能を強め、経営トップに権限を集中して、リーダーシップを発揮してもらうか。取締役会の役割では、多様性をもった活発な議論をしながら、もっと収益性を高めてほしい。

・では、モニタリング型における監督の役割とは何か。中神レポートは3点を強調する。第1は、独立社外取締役の選任にある。その人物、経験、役割と、独立性を十分考慮すべきである。2000社×2人で4000人規模の社外取締役がこの数年で生まれているが、もっと熟練を積む必要がある。

・第2は、モニタリングボードに合わせたマネジメントプロセスの導入である。社外取締役が的確に役割を果たせるように、執行体制や運営方法を見直す必要がある。討議、方針策定、評価方法を明確にする。

・第3は、取締役会での議論の充実である。執行サイドの経営会議と同じような内容の蒸し返しや報告だけでは意味がない。重要な意思決定に関わる内容を討議、決議、報告に分けて、充実した議論を実行してほしい。

・監督(モニタリング型)の究極の役割は2つある。① 経営者の成績評価と報酬の決定、② 経営者の選解任、である。単に問題点の指摘にとどまるのではなく、経営者を後押しする。そして、結果責任はとってもらい、次の後継者にしっかりバトンタッチしていく。

・現在、上場企業の社外取締役はそれに相応しい人が任に就いているか。経営者の経営力とともに、社外取締役の人物と働きについても、投資家としてはよく見極めていきたい。この点で、中神レポートの提言は大いに参考になろう。

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