営業から価値生産へ~デジタルライフプランナーとは

2020/04/02 <>

PCデポ(コード7618)の野島社長は「ステークホルダーの皆様」へという自らの考え方をまとめた4ページの書簡を、2018年5月に公表した。これは画期的であった。

・第1に、事業が長期的価値創造に対して、生産的であることと位置付けている。AI・ロボットが注目される中で、「人間としての生産領域の拡大」を掲げている。

・第2に、会社としての価値観として、①Social(社会性、社会貢献)、②Environment(環境)、③Education(働き方、学び方)、④Entertainment(楽しさなど人間発信の新たなる価値創造)、⑤Governance(企業統制、運営統制)の5つを挙げている。ESGに2つのEを加えて、EEESG(トリプルESG)としている。

・第3に、Educationでは、生活の安定×生産性、人間性の向上×生産性を考慮して、新しい働き方へのシフトを提案する。大事なことは、未来をデザインすることと位置づけている。

・第4は、Entertainmentの重視である。顧客が店に来て楽しい、当社のスタッフも楽しさや未来創造と共感し、提供できるようにする。新しい使い方を学んで楽しい。デバイスを組み立てるのが楽しい。自分のIT機器が点検されているのを見て楽しい。家族と来て、将来のデジタルプランを一緒に作っていくのが楽しい。そういう楽しさを提供する場にしたいと考えている。

・第5に、ステークホルダーとのコミュニケーションを相互発信、相互受信して密にした。従来は、① CCC(お客様窓口)、② CR(コールセンター)、③ IRSR(インベスター・シェアホルダー・リレーション)、④ PR(パブリック・リレーション)があった。

・これに加えて、⑤ AR(アソシエイト・リレーション)、⑥ PTR(パートナー・リレーション)、⑦ MR(メンバー・リレーション)、⑧ ICR(インカンパニー・リレーション)などの専任者を置いた。ARは社員、家族との接点、PTRは取引先との接点、MRは会員との接点、ICRは社内広報としての接点を担っていく。

・この社長メッセージは、会社の統合思考(Integrated Thinking)を表現したものである。これを社長自らが書きおろした。

・コラージュによる参加型意識改革を、“デジタルライフ・デザインシート”で実践している。社長のリーダーシップのもと、新しい価値創造のコラージュ(頭の中を整理したふかん図)を作り、お客とは一人一人に合った計画図(デザインシート)を作り上げていく。

・新しいスマホが出たから、買い換えて、ということではなく、今後4年のデジタルライフを互いに検討して、それに対して計画的提案を行い、計画的に価値創造をしていく。

・社員には、コラージュによる課題設定や提案を実行させている。イメージや考えをみえる化するには、A4 1枚(パワーポイント1枚)やさまざまなサイズのコラージュ作成を通して身につく編集力が威力を発揮する。

・会社としては、社員のES(満足度)を上げるように仕組みを作っていく。そのためのインセンティブも報酬につけていく。70歳まで働けるようにして、50歳を過ぎても社員として採用していく。つまり、働き方を多様にして、ステークホルダーとのつながりの中で、信用、信頼を作り、やる気を引き出していく。

チーム作りには、人材育成が最も重要であり、現在野島社長は自らの時間の7~8割をこの育成に使っている。スタッフが一堂に会して方針発表を聞く機会や検討を行う機会は年1回から3回へ。社員はもちろん、パート・アルバイトに至るまでトップの考えを直接語って対話している。

1つのチーム(ワークス)となった担当者が、メンバー(会員)の将来計画図(デザインシート)を書いていく。その計画図こそがアセット(資産)である。これがいずれ需要を生み出す。この将来コンサルこそ、PCデポが目指すビジネスモデルである。将来のあるべきビジネスモデル(BM2)を描けている点を高く評価したい。

・メンバー(会員)には店舗にきてもらい、3~5人の専任チームと一緒のところで、わが家の将来デジタルライフプランを語ってもらう。最初はすごく時間がかかる。そのわりにビジネスにはならない。しかし、計画図が次第にはっきりしてくると、自分、妻、子供たち、親たちのそれぞれに、どのようなデジタルライフを組み込むことが楽しみにつながるかがわかってくる。

野島社長は、当社で働いている子育て世代のパートママを集めて、デジタルライフプランナーの活動について話をした。パートママは大いに盛り上がって、いろいろアイデアを出し始めた。店舗に戻ると、各人はどこかのチームの一員である。早速メンバー(会員)の新規加入に結びついたというケースも出ている。

・子育て世代のパートママは、いずれ子供の手が離れて、PCデポで本格的に働きたいとなれば、大いなる戦力となろう。仕事をきちんとしながら、楽しい職場にしていこうとしている。

チームメンバーが学び合って、1)常にメンバー(会員)にとっての価値を優先する、2)思いこみや独りよがりで無理なことはしない、3)チームの全員が助け合って、メンバーの将来計画図をどんどん貯めていく。

・これがまさに、攻めと守りのガバナンスとして、チーム内をコントロールしていく。上司の指令で、無理な行動をとることもない。成績をあげようと、押し込み的な販売に走ることもない。

・何が違うか。商品の販売によって粗利を得るビジネスモデルでは、フローを追わないと当面の利益が上がらない。これを丸ごとなしにして、ストック型の収益を我慢強く追うというのはつらい。足元が赤字になって数年がまんするということはほぼできない。

実は、多くの証券会社の対面サービスにおいても、ストック型のビジネスを求めてきた。しかしながらも、フローのビジネスから脱却できずに苦しんでいる。なぜできないか。数年の赤字を覚して、フローからストックへの死の谷を渡れないからである。

・PCデポは、今なぜ将来デジタルライフのプランナー型へシフトできるのか。それは、すでにプレミアム会員によるサブスクリプションが定着しているからである。10年先行した強みがある。よって、当社にできても、家電量販店など他社には相当難しい。 

・顧客との接点の意味付けが違っている。かつては、新しいデバイスが発売されると、それを顧客にアピールして販売した。今は、今日出た新商品を今日売る必要はない。

・それは供給側の論理で、メンバーである顧客のニーズではない。メンバーのデジタルライフを一緒に考えて将来計画図を描いているので、その時がきたら買い替えたり、買い増したりしていけばよい。

・デバイスファーストではなく、ソリューションファーストである。つまり、メンバーである顧客がデジタルライフで本当にやりたいことを実現できるように、ソリューションをサポートしていく。

通常顧客は、自分で買い替えや買い増しを検討し、店舗にやってくる。それはそれとして受け入れるが、当社が定義する計画的需要ではない。当社のいう計画的需要とは、メンバー(会員)が当社の専任チームと対話をして、それを1枚の計画図に描いた後で、実際の需要に結びついたもの、と定義している。

・計画図を描くと、計画的に需要が見込めるようになる。計画図こそストック(資産、アセット)であり、そこを積み上げることで需要が生み出される。2020年3月期の2Qで、計画的需要の全売上高に占める比率は2.5%とみられるが、これを2024年4Qには50%に持っていこうという目標を掲げている。

・計画的需要の比率が上がってくると、1)約束が売上となってくる、2)メンバーの長期化につながる、3)メンバーの来店頻度が上がってくる、4)コールセンターへの問い合わせが減る、5)メンバーの退会が減る、6)折込チラシが少なくなる、などの効果が見込める。即ち、企業価値が大幅に向上してこよう。

・チームでデジタルライフの計画図を書く。計画図こそが最大のアセットであるというカルチャーの形成である。この現場におけるマイクロガバナンスに、人材育成の魂を入れようとしている。この成果に注目したい。

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