取締役会のあり方~TDKのケース

2020/03/02 <>

・日本取締役協会は、1年前の2019年2月にコーポレート・ガバナンス・オブ・ザ・イヤーⓇ2018の表彰企業として、ヤマハ(Grand Prize)、TDK(Winner)、明治ホールディングス(Winner)、オムロン(経済産業大臣賞)、大和ハウス工業(東京都知事賞)を選定した。その中のTDKについて、12月に話を聴いた。

・ガバナンスの表彰に当たっては、1)東証1部上場企業から、過去3年を通じて社外取締役が3名以上おり(625 社)、2)3期平均ROE 10%以上、ROA 5%以上(非金融)で、時価総額1000億円以上(106社)を候補とした。

・さらに加点として、3)特定の大株主がいないこと、取締役会議長の執行からの分離、指名・報酬委員会の設置、4)経営パフォーマンス安定性などを加えて、総合的に評価した。

・TDKの澄田会長は、もともとハイテク分野のアナリストからスタートして、上場企業の社長を務めた後、TDKの社外取締役、取締役会の議長(非執行)を務めた。その後、執行も担う取締役会長となって現在に至る。非執行から執行へというユニークな転身を遂げている。

・藤原取締役会室長兼秘書室長と、澄田会長から話を聴いた。TDKは、日本を代表する電子部品企業、売上高1.4兆円、営業利益1100億円、時価総額1.5兆円、従業員10.5万人の会社である。驚くことに、海外生産比率85%、海外売上比率92%、海外従業員比率91%と、圧倒的に海外の比率が高い。

・事業の中身も大きく変化しており、製品ポートフォリオを大胆に組み換えてきた。戦前に東工大の大学発ベンチャーとしてフェライトを事業化し、その後、音楽・ビデオ用のカセットテープ、買収をベースにHDDヘッド、バッテリーからセンサーへと、事業の入れ替えを実行してきた。

・現在の中期計画Value Creation 2020では、2021年3月期で売上高1.65兆円、営業利益率10%以上、ROE 14% 以上を目指している。

・取締役は7名で、うち社外が3名、監査役は5名のうち社外3名である。取締役会は全員日本人で男性、監査役は社外3名のうち、1名外国人、1名女性である。

・執行役員は、18人中11人が外国人、15年前は外国人が1人であったから大幅に増えた。TDK本体の部門長に、買収企業のメンバーを積極的に登用している。人事部門のトップはドイツ人である。

・経営会議は英語、資料・発表・議事録も全て英語である。事業計画検討会、四半期レビュー、部門長の会議等も英語ベースである。取締役会は日本語であるが、英語で説明される議案が多く、その時は同時通訳を入れている。

・取締役会室が取締役を支援するが、これは戦略本部の中においてある。経営企画から遠いと、M&Aの遂行などにおいて、情報の共有、スピーディな議論や審議が十分できないという経験に基づく。

・取締役は社内4人、社外3人、監査役は社内2人、社外3人なので、社内対社外でみると6:6である。取締役に事業部門の代表は入っていない。会長、社長、財務、戦略担当の4人である。

・取締役会議長は社外で、指名、報酬委員長も社外である。石黒社長は指名委員会のみに入っている。澄田会長は、コーポレートガバナンス委員会の委員長のほか、指名、報酬委員会の委員になっている。この点では、監査役設置会社ではあるが、監督と執行の分離は先進的になされている。

・取締役会の実効性評価では、アンケート→個別インタビュー→ディスカッションを行い、改善策をまとめ実行に移す。個別インタビューでは、澄田会長(コーポレートガバナンス委員会委員長)が、全取締役、監査役に1時間以上行っている、さらに、3年に1度は第三者による外部評価も受けるようにしている。

・常勤監査役は経営会議に陪席しており、八木社外取締役(取締役会議長)は監査役会にも出ている。これによって、情報の共有、連携を図っている。

・社外取締役と社外監査役の役割は本来違っているが、取締役会の議論の場においては、すべて対等ということで、議論を活発化させている。取締役会がマンネリ化しないように、常に新しい機能を加えていくようにしていると、澄田会長は強調した。

・次の中期計画、長期ビジョンはどうするのか。中期計画は3カ年でやってきたが、2020年度が現在の最終年度となる。長期となると中期計画の2~3回分として、2021年度から6~9年となるので、2030年が1つの目途かもしれない。ここはこれから議論がスタートする。

・TDKはこの15年でM&Aを活発化させ、グローバル化を進めてきた。コーポレートガバナンスも、その実効性が高まるように大きな改革を実施してきた。買収した企業のマネジメント層が実力を発揮している。本社の執行部門のリーダーにも登用されている。

・今後は日本の本社においても、グローバル企業としてのマネジメント体制がもう一段求められよう。攻めのガバナンスが、TDKでは定着し、ビジネスの成果に結びついている。明らかに価値創造企業として世界に誇れよう。取締役会の次なるイノベーションに注目したい。

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