親子上場をどう考えるか~アスクルのケース

2019/10/15

・9月にヤフーがZOZOを買収すると発表した。ZOZOの前澤社長は即日退任した。ヤフーは10月にTOBで50%超を所有する方針で、ZOZOの上場は維持する。前澤氏は持株30%強のほとんどを売却するという。

・ZOZOは、創業者でイノベーターの前澤氏がいなくなっても大丈夫なのか。ヤフーの傘下に入って、ECビジネスでは両社のポジションが上がるので、むしろ展開力は増すのか。シナジーを大きく生むようなマネジメントの実行が見ものである。

・その1か月前の8月に、ヤフーは、アスクルの社長と社外取締役の再任を株主総会で拒否した。アスクルの創業者である岩田氏は2012年にヤフーの傘下に入った。大株主はヤフー45.1%、プラス11.6%であり、岩田氏は1.8%の持株にすぎなかった。

・アスクルは文具大手で、法人向けに加えて、個人向け通販サイト(Lohaco)にも注力してきたが、こちらは9年来ずっと赤字であった。会社全体の業績も低調であった。ここをどうみるか。

・1)先行投資が続いてきたが、ようやく改善の方向がみえてきた。いい方向にある、とみるか。あるいは、2)ECビジネスは思ったように伸ばせていない。今の岩田社長では次の展開がはっきりしない。6年間トップをまかせたので、今回責任をとって交替をした方がよい、とみるかであった。

・8月に、アスクルの社外取締役を務めていた斉藤淳氏(元日本取引所グループ社長)の話を聴く機会があった。ヤフーは、アスクルを実質的に支配しており、親子上場とみなすことができる。

・アスクルは監査役設置会社であるが、独立社外取締役が過半を占める「指名・報酬委員会」(総会前は6名:社長、社外取締役3名(委員長を含む)、社外監査役1名、顧問弁護士1名)を諮問機関として設けている。

・ヤフーからみれば、厳密にいえば50%超でないという意味で、子会社ではなく関係会社である。今回は、次の大株主であるプラスもヤフーに同調したので、結果として独立社外取締役も否認された。

・斉藤氏は、岩田氏の人物を評価していた。アスクルの個人向けECビジネスについては、岩田氏の思いを理解し、時間はかかっていたが、改善の方向にあるとみていた。倉庫の火災や物流費の高騰もあったが、業績は上向きとみており、指名・報酬委員会で岩田氏の続投を決め、取締役会で決議し、総会議案とした。

・取締役会にはヤフーの現役役員も入っている。ところが、岩田社長の再任を容認できないとヤフーから知らされた。さらに、上場企業の指名・報酬委員会と取締役会の決議を無視することはできないとする独立社外取締役の意見表明を踏まえて、ヤフーは3人の独立社外取締役の再任も拒否した。

・ヤフーの川邊社長は、昨年6月に就任した。前任の宮坂氏(前社長)と岩田氏は、資本参加の時から気脈を通じていたが、それが川邊氏に替って一気に方針が変わった。ヤフー自身の立て直しを急ぐ中で、アスクルの鈍い動きは容認できなかったのであろう。

・ここで3つの課題がある。第1は、資本の論理である。経緯はどうあれ、取締役の選解任は株主総会の最大命題である。これは多数決で決まる。ヤフーのトップが、アスクルのトップの再認を適任と思わなければ、これまでの経緯がどうであれ、君子豹変して何ら問題はない。

・第2は、アスクルはヤフーの実質的子会社といえる。上場子会社に対して、親会社は資本の論理だけでものごとを決めてよいのか。アスクルには少数株主がいる。その少数株主の利益を十分勘案するために社外取締役がいる。

・その独立社外取締役が総合的にみて、現社長が適任と判断した指名・報酬委員会の意見を無視し、意に沿わない社外取締役も全員首にした。こんなことが、コーポレートガバナンスコード(CGC)の主旨に照らして許されるのか。世の悪例とならないかという点である。

・第3は、ではどうすればよかったか。今のCGCの原則のコンプライorエクスプレインではどうしようもない。法的ルールの新設が必要である、というのが1つの意見である。

・斉藤氏は、1)マジョリティの大株主がいる上場子会社では、少数株主の大半(例えば90%)が支持した場合、大株主だけの意見だけで社外取締役を切れないようにする。あるいは、2)独立社外取締役の身分を3年保証して、任期を3年にするようなルールを作る必要がある、と提案した。

・私が独立社外取締役だったらどうしたか。親会社(オーナー)の独立社外役員はもちろん、何よりも親会社のCEOと、平時よりエンゲージメントしておくことが必須である。

・これは、ハードルが高い。しかし、やればできる。できない人は、社外役員に向いていないかもしれない。今回のケースは、アスクル→ヤフー→ソフトバンク→ソフトバンクグループと親子関係が続くので、岩田氏は孫さんから見れば、ひ孫の存在となる。確かに、対話のハードルは高い。

・投資家は、上場子会社への投資を検討する場合、こうしたガバナンスのあり方を覚悟しておくことが求められる。斉藤氏は、今回自ら当事者となったことで、独立社外取締役の人数を増やしても、さほど意味がないと分かった、と語った。大いなる教訓であろう。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ