グループ・ガバナンスの強化はいかに
・6月に経産省より「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」(ガイドライン)が出された。9月に経産省主催のシンポジウムを聴き、レポートやエグゼクティブサマリーを読んで、とりわけ印象深かった点をいくつか取り上げたい。
・企業グループの設計に当たっては、1)事業部門間のシナジーがコングロマリット・ディスカウント(グループ価値の総和より低く評価)されるのではなく、プラスのシナジーであるコングロマリット・プレミアムが創出されるようにマネジメントすべきである。
・純粋持株会社の形をとった場合、ホールディングスと事業会社の役割分担を明確にすることである。確かに、この2つについて、できていない大企業が目立つ。買収した海外子会社が、自立しているとはいいながら、本社のコントロール外にあり、場合によっては不祥事を抱えたケースも散見された。
・資本コストをベースにした事業ポートフォリオのマネジメントが十分行われているか。何が最適か、コア事業の見極めはいかに、事業撤退のルールは本当に機能しているかなど、まだ不十分な点は多い。
・取締役会の機能、とりわけ社外取締役の役割が問われている。今の社外取締役が、グループ・ガバナンスの実効性を高める仕組み作りで、本当に責任を果たせるだけの資質と実績を有しているのか。その実行力が課題となっている。
・内部統制システムにおける3線ディフェンス(Three Lines of Defense)モデルを、着実に機能させることが求められる。第1ラインの事業部門、第2ラインの管理部門、第3ラインの内部監査部門の3線である。
・さらに、これらを監査する監査機能の実効性も問われる。とりわけ、内部監査が手薄になっていないか、監査役が形式的な活動にとどまっていないか、を見直す必要がある。内部監査は社長と監査役へのダブルレポーティングである。社長自らも含めて、社内に有事の事案が発生した時、いかに覚悟と胆力を持って行動できるか。
・社外役員が、第三者委員会や株主総会に責任を持って対応できるかが問われる。社外役員は平時の安定した役割に乗っているだけは、本来の役割を果たしていることにはならない。
・子会社経営陣の指名・報酬は誰が決めるのか。グループが100%子会社のみから形成され、グループ一体経営ならば、グループ全体を統括する仕組みで決定すればよい。
・しかし、合弁(JV)の時、業務資本提携の時、子会社が上場している時など、親会社とは別の株主がいる時、とりわけ少数株主がいる時のガバナンスをどうするのか。今、ここが問われている。
・グループ役員の指名・報酬については、グループ内の会社の位置付けの明確化したうえで、それぞれの会社のマネジメントの選び方と報酬のあり方について、方針を明確にすべきである。
・では、上場子会社はどうするのか。もともと親会社の中で育った事業が外に出たケース、グループとして長年一緒に育ってきた中で実質的な親子関係が続いているケース、買収して親会社グループの一員となったケース、親子間で事業の性格上かなり内部取引があるケースなど、その経緯をよくみる必要がある。
・株主総会決議において、資本の論理(多数決)は決定的である。それでも、子会社を上場させておく意義はあるのか。この点については突き詰めておく必要がある。
・上場子会社の少数株主や、上場子会社を投資対象と考える投資家は、少数株主の利益が阻害される可能性が著しく高い、とまず疑った方がよい。その上で、少数株主の利益を重視した経営をきちんと行うかを問う必要がある。
・4つの側面があろう。第1は上場子会社の社長、第2は上場子会社の社外取締役、第3は親会社の社長、第4は親会社の社外取締役に、直接意見表明してもらうことである。この点はぜひ聞いてみたい。この4者のガバナンスに関するコミットメントがよほど明確でないと、十分な信頼は得られない。
・親子間における利益相反を招かないような仕組みを、ガバナンス上組み込む必要があり、それが否ならば、親子上場はやめたした方がよい。
・今回のガイドラインをまとめた経産省のCCS(コーポレート・ガバナンス・システム)研究会のメンバーである宮島教授(早大)は、グローバルにグループ企業を増やした日本の大企業が、1)収益性が低い、2)大型M&Aが成功しない、3)事業再編が遅れている、4)内部統制が不十分である、4)親子上場のきしみが目立っている、という点を指摘している。
・親の不満、子の不満をどのようにマネージしていくのか。不満とは誰の不満なのか。経営者、社員、株主の不満と利益相反に、どのように折り合いをつけるのか。その制度設計と的確な運用が求められている。
・とりわけ、子会社上場に当たっては、1)不安定性がなぜ存在するかを十分説明せよ、2)独立社外取締役の要件を強化せよ、3)ガバナンスの基準は通常よりも厳しくして、社外取締役を3分の1以上、5割以上とかにすることも必要である、と述べた。1つの見識であろう。しかし、必ずしも十分でなく、今後の課題である。