オープンイノベーションへの嗅覚
・オープンイノベーションが活発である。イノベーションというと、R&D型の新技術、新製品にばかり目がいきそうであるが、新しい価値創造の仕組みづくりも重要である。
・このイノベーションを、自分たちだけのクローズド(閉じた)組織で頑張るのではなく、外部の知見や能力を活かしてオープンに(開放して)展開しようというのが、オープンイノベーションである。
・企業間の資本提携や業務提携は昔からあった。かつては、会社対会社で、敵か味方かという色分けに使われることが多かったが、今では個々の事業や開発案件ごとに連携を組むことが当たり前になっている。
・大学との共同研究も昔からあったが、この15年は大学発ベンチャーが一気に台頭してきた。大学の先生、若手研究者が自らの知見を学問として追求するだけでなく、ビジネスとして立ち上げ、その資金を多面的に活用しようとしている。
・企業で働く人々が、自らの思いを事業化したいと、ベンチャー企業を起こす人々も大幅に増えた。その企業を上場までもってくれば、一攫千金にも成りうるし、事業の幅も大きく広がってくる。
・大企業は、大きくなると動きが鈍くなる。一般論として、組織が大きくなるとパワーダウンすることが多い。一方で、そうならない企業もある。ビジネスモデルをしっかり進化させて、企業として輝いている。
・オープンイノベーションの典型は、大企業が自社のパワーが落ちている分をカバーするために、新しい外部の知見、能力と連携してビジネスモデルの再生を図ろうとする。
・大企業と組もうとするベンチャー企業は、自らの知見を確固たる事業組織に作り上げるには大企業と組んで、人材面、組織面、資金面でサポートを受けて、スピードアップを図ろうとする。
・ところが、このオープンイノベーションが上手くいかないことも多い。大企業にすれば、自分たちのやり方を押し付けて、ベンチャーの持っているいい知見だけを取り込もうとする。
・ベンチャー側にすると、大企業は形式重視でうるさい。資金や人材を必要な時に自由に使わせてくれればいいのであって、余計ないことに口出しはしないでほしい、と考えてしまうのかもしれない。
・知的財産戦略本部の価値共創タスクフォースの報告書「ワタシから始めるオープンイノベーション」がおもしろい。とても政府の報告書とは思えないくらい、人々の機微をひろっている。その骨子は2019年の知的財産推進計画に盛り込まれた。
・その1年前に、日本が目指すべき社会として、「価値デザイン社会」を掲げた。意味するところは、新しい価値を創り出すプロセスを、それぞれの主体が構想(デザイン)し、世に問い、共感を得て、価値を定め創出し、社会を変えていこうというものである。
・この価値デザイン社会を作っていく三要素として、①脱平均、②融合、③共感をあげている。アイデアを出す尖った才能が起点で、平均に集約するのではなく、尖った人々を見出し、結び付け、その融合する活動が共感を得てくれば、新しい社会も見えてこよう。
・解釈すれば、大学にも企業にも家庭にも、人と違ったことを考え、実践しようとする変な人、つまりイノベーターはいる。その人たちを押しつぶすのではなく、尖った人々を引き出して、普通の人々と結びつけて応援していく。
・その活動が面白い、凄いとなれば、共感が生まれてくる。これを組織としてまとめて運営する力が問われる。才能を融合して組織能力に高めていくこと、それがオープンイノベーションである。
・価値デザイン社会を実現するために、オープンイノベーションがぜひとも必要である。それが上手くいくにはどうしたらよいか。「ワタシから始めるオープンイノベーション」では、ここを語っている。
・オープンイノベーションができない人はどんなタイプか。委員会での議論から抽出したのであろうが、1)やらされ型、2)目先の利益型、3)ポエム型、4)八方美人型、などをあげている。
・確かに、いやいややらされ、目先の利益、自分の利益ばかり考え、言葉だけの美句を並べ、皆にいい顔して上手く立ち廻ろうとしても、うまく行くはずがない。でも、この手の人はいそうである。
・逆に、オープンイノベーションをやりとげようと、リードしている人をみると、自らのやる気(内発性)が高く、感性が鋭く、共感者を巻き込んでいく。
・周りを見ると、マインドセットの変革をポジティブに評価し、大目標のもと、危機感を共有して推進する場を用意し、それを風土にしている。常に利害の対立は起こりうるし、思いの違いから感情的にぶつかり合いも生じよう。そこを乗り越えていくマネジメントが問われる。
・報告書の面白いところは、マインドシートを用意している。オープンイノベーションを担う人々を、1)尖った人、2)サポーター、3)経営者層に分けて、心理的な診断ができるようにした。それぞれの性格をみながら、役割、マインドセット、アクションなどが考慮できる。
・人にも組織にも、変われる部分と変われない部分がある。イノベーターは変な人であるが、できれば自分は少し変であると、自覚できた方がよい。
・周りの常識人は、イノベーターを無視して、さわらぬようにするのではなく、サポーターとしてインクリュージョン(受け入れ)できるように話し合って、理解しておくことが必要である。
・組織をマネジメントする経営者は、変な人を排除するのではなく、頭ごなしに命令し、追い込むのではなく、持っている力を引き出し、発展させて変革の起爆剤にすることである。そのための度量とリーダーシップが問われる。事なかれ主義の調整型ではマネジメントできない。
・投資家はここを観る。オープンイノベーションの姿勢は本物か。イノベーターはいるか。サポーターは理解しているか。マネジメントのリーダーシップは十分か。コンテンツの秘密を知りたいわけではない。組織運営の仕組みとカルチャーを感じることができれば、雰囲気は分かる。財務データにはならないが、ここを分析できる嗅覚が非財務情報の本質である。