株主総会に学ぶ~必ず個性が表れる

2019/08/05 <>

・今年の株主総会では、3つの会社に注目した。ソフトバンクグループ(時価総額11.0兆円)、SBIホールディングス(同6524億円)、RIZAPグループ(同1702億円)である。

・会社を知るには、少額の株主になってしばらくフォーローしてみる。その中でも総会に行って、トップマネジメントの言動を吟味するといろんなことが分かってくる。それぞれの会社について感じた点をいくつか取り上げてみたい。今回、まずはソフトバンクグループである。

・ソフトバンクグループ(SBG)では、孫さんが何を考えているかを知りたいと思った。ソフトバンクワールドというフォーラム&展示会では毎年話を聴いているが、株主には何を語るのか。ケータイのソフトバンクを上場させて、SBGはAIの投資会社として邁進している。

・SBGの株主総会は、ネットで中継されて誰でもみることができる。公開性が極めて高い。会場に来れない株主でも、孫さんの話を同じように聴くことができる。

・まずビデオを使って事業報告を行った。その後、監査役の報告については、通常とは全く異なる方式であった。多くの会社は監査役が監査報告を行うが、今回はそれがない。

・監査報告の内容はかなり形式的なもので、特に問題がない限り、どの会社でもほぼ同じ内容である。孫さんは、この報告を監査役に振るのではなく、自分で報告のポイントを述べた。形式に拘らない方法であった。

・一方、次の「対処すべき課題」については、持論をとうとうと語った。課題への対応であるから、これからの経営について方針や戦略をしっかり述べた。

・そこでは‘AI革命の指揮者になりたい’と宣言した。AIオーケストラのプレイヤーは起業家で、その起業家をまとめていく指揮者として、グローバルに活動していきたいという。

・SVF(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)は10兆円でスタートした。AIプレイヤーである企業に投資をして育てていく。そのためのシナジーを追求していくので、資本のマジョリティはとらないが、筆頭株主にはなっていく方針で、それを実行している。

・SVFの10兆円は、規模として世界トップである。世界のベンチャーキャピタル投資は2018年で8.6兆円であったから、それを凌ぐ。AI群(ぐん)戦略を基本に、ユニコーンハンターとして集中投資を行い、シナジーを創出しようとしている。

・SVFはファンド1号の次に、ファンド2号を組成していく予定である。このSVFを担う会社(チーム)は、当初40人で「スタートして、1年後に400人の陣容となったが、次は1000人体制にもっていく計画である。

・SBGは、AIを中心とする戦略的持続会社として活動する。例えとして、ウィーンフィルは1842年設立で180年近い歴史を誇る。団員(プレイヤー)は代わり、常任指揮者も代わってきたが、常に世界トップクラスのオーケストラとして輝いている。SBGもブランドと伝統を磨いて、300年続く会社にしていきたいと夢を描いている。

・孫さんは、坂本龍馬のいう「事を成す」ことに命をかけている。言うのは簡単ながら、実行は容易でない。これまでも、何か仕掛けるごとに、そのマネジメントは無茶で危ないと言われてきた。しかし、それでも事を成してきた。

・今の日本は引きこもりのように見える、日本に欠けているのはホラを吹くことである、という。孫さんは「大ボラ」を吹いて、それに挑戦してきた。ホラというと戯言(ざれごと)にように聞こえるが、これを英語で言うとビジョンであると定義する。つまり、Big Visionを立てて、その実現を目指すというわけだ。

・2040年には時価総額200兆円、年率15%成長を達成し、世界トップ10の企業に入るという大ボラを掲げた。情報革命のリーダーとして、人々を幸せにしたいという理念を追求していく。株主は同志なので、ぜひ一緒に進もうと語った。

・株主からに質問では、いつまで社長をやるのか、と聞かれた。19歳の時に人生50年計画を立てたので、69歳まで(現在61歳)にはバトンタッチを考えていくが、社長でなくなっても、会長とかさまざまなポジションはありうるので、会社には長く関わっていくと説明した。

・それよりも大事なことは、300年続く会社に仕立てていくことである。1人のイノベーターに依存しなくても、経営が持続するようにマネジメントシステムを構築していきたいという。ここにガバナンスの本質がある。今後の行方が見ものである。

・社外取締役では、二人の発言が興味深かった。三井物産の飯島会長からは、社外取について1年であるが、取締役会がカリスマのワンマンではないという点に驚いた、という発言があった。

・取締役会は言いたい放題で、ノーという意見が出てくる。緊張感のある中で、エキサイティングなビジネスの議論が行われている。

・ファーストリテイリングの柳井社長は、2001年から社外取締役を務めているが、反対ばかりしているという。孫さんは暴走しかねない。柳井氏は、それに対して、常にブレーキ役となって議論をふっかけていると自ら説明した。そして、株主の皆さん、皆さんも十分注意して孫さんの経営を見て、暴走にはストップをかけましょう、と発言した。

・でも、社外取締役の報酬の全額でSBGの株を買って、株主の皆さんと同じ少数株主として行動している、と話した。そしたら、孫さんから、柳井さんが報酬の全額でSBGの株を適時に購入していると今初めて知った、という発言が出た。ここにもガバナンスの妙が現れている。

・株主から動議が出された。副会長のロナルド・フィッシャーの役員報酬が高すぎるので、これを下げて配当にまわし、増配させよというものであった。孫氏の報酬229百万円に対して、フィッシャー氏は3266百万円であった。このうち基本報酬(現金)が339百万円で、2924百万円は株式報酬である。

・2年前にSBGに入ってもらう時に、成果報酬は株式にしてほしいという要請があり、取り入れた。フィッシャー氏は、エキサイティングなビジネスを担うので、その対価は米国流の方式にしてもらったと発言した。

・彼の企業価値向上への貢献は大きい。優秀な経営者は、世界のマーケットにおいて取り合いになっている。この点を理解してほしい、と孫さんは株主に説明し、動議は否決された。

・普通、株主総会で大ボラは吹かない。しかし、大きな構想を語ることで、株主に共感と理解を求める方式は、創業者ならではのやり方である。しかも、これまでの実績は、外からは綱渡りとみえる時でも、本人には読み筋として見事に乗り切ってきた。

・大きなビジョンとその実行戦略を示されると、株主の小さな不安や心配は消し飛んでしまう。そんな株主総会であった。

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