揺らぐか、アジアの成長~日本企業の対応は如何に

2019/07/16 <>

・5月に日経主催のフォーラム「アジアの未来」が開催された。アジア各国の首脳は米中対立の中で、どのような認識をもって対応しようとしているのか。

・日本の多くの企業が、アジア各国でビジネスを展開している。国内においてもインバウンドの効果は大きい。今後の投資環境をみる上で、地政学的リスクをどのように認識しておくのか。目新しい見方ではないが、いくつかを考えてみたい。

・アジアは世界の成長地域であるが、通商摩擦と安全保障のせめぎ合いで、成長路線が揺らいでいる。世界のどの国も国内の秩序が保たれ、貿易や投資が自由ならほぼ間違いなく発展する。しかし、独裁者が富を奪い、民族紛争が激化し、貿易不均衡が顕在化してくると、そうはいかない。

・米中対立の中で、新たな秩序は容易に形成されそうになく、むしろ翻弄されかねない。国の発展過程における実力の差がもろに出てくることになる。

・米中の覇権争いは、新冷戦とも言われるが、かつての冷戦の時よりもはるかに相互依存性が髙い。米国は中国から年間6400億ドルを輸入しており、中国には1200億ドルを輸出している。この貿易に対して関税引き上げを行って、互いの経済へのダメージを覚悟しながらも、譲歩を引き出そうとしている。

・トランプ大統領のディール外交は、商取引の駆け引きを外交に持ち込んでいる。自国第一主義を個別ディールで吹っかけながら、相手との落としどころを探るやり方である。それを成果として誇示しようとしている。

・自由貿易論は、自国が強い時には主張しやすい。ところが、ものづくりの競争力が相対的に落ちてくると、管理貿易を指向したくなる。強者の論理から弱者の論理にすり替わってくる。

・当然自国が強いサービス分野で、サービス貿易の自由を主張する。一方、途上国サイドに立つと、サービス貿易の競争力はその差が大きすぎるので、受け入れるべく譲歩することは難しい。

・サービス貿易には、知財や技術が入ってくる。軍事技術が絡んでくるので、国の安全保障にも影響する。経済力と軍事力をベースにした国対国の覇権争いは、まさに世界のリーダーシップを誰がとるかという戦いになる。

・米国の国力は落ちている。経済力の低い不法移民を大らかに受け入れていく余力はなくなっている。世界№1の軍事力を支える技術について、それを支えるコアテクノロジーを、非合法はもちろん、合法的であっても競争国へ渡すことには、ストップかける。中国のファーウェイ(華為技術)はその象徴である。

・ファーウェイのトップの話は何度か聴いた。一代でテクノロジー企業を育てた企業家魂はすごい。先を見通す力や研究開発への取り組みも意欲的である。しかし、国策会社ではないか、世界の先端技術を不当に手に入れ、真似たのではないか、という疑念は拭えない。

・途上国にあって、先進国の知財を無断で真似ることは、歴史上いくらでもある。それがマイナーなうちは、許容されることもあった。しかし、先進国の利害に直接影響するようなメジャーな問題になると、企業間の競争を超えて国家間の対立となってくる。

・ファーウェイの米国からの締め出しは、5Gの発展スピードにも影響してくるが、ファーウェイなしでもやっていけるので、乗り切ることはできよう。

・一方、中国はいずれ民主化するしかない、という見方はどうだろうか。今のところ全く現実的ではない。習近平主席の中国は、国家資本主義、権威主義、監視主義をベースに、改革・解放を進めてきた。40年間の成果は見事である。

・しかし、中国方式を取り入れようという国は世界にあまりない。独裁国家となって、国民を牛耳ろうとし、その国を逃げ出す難民が多数出てくることはよくある。でも、中国に移民したいという話はほとんど聞かない。

・中国の台頭は、アジア各国で軋轢を生んでいる。経済力と軍事力は対であるから、南シナ海での中国の実績作りは誰も止めようがない。紛争が起こしたところで、領土の実質化では勝てそうにない。

・戦争は紛争解決の最後の手段、といわれる。大国間の戦争には至らないとしても、紛争は不可避であり、それを武力以外で抑える方策が問われよう。

・米国と中国は、アジアで存在を競っているが、ここでも米国は引こうとしており、中国は押そうとしている。自国第一主義、保護主義、移民排除の米国に、世界のリーダーとしての大義は今や揃っていない。実効支配が歴史を作り、紛争はテロ化を加速しかねない。

・米中の貿易摩擦で、中国にある外国企業の生産拠点は、アジア各国によりシフトしていこう。そこから、米国へ輸出ということになれば、有利になる国も出てくる。ベトナムもその一国であるが、一方でベトナムは南シナ海で領有権争いを抱えている。

・中国に頼って、自国のインフラを充実させたいというニーズも強い。しかし、中国の債務の罠に引っ掛からないようにする必要がある。途上国の首脳は分かっているが、融資を受けても主権は維持する、というのが本当に守れるだろうか。

・日本の安倍首相は、アジアの未来について、1)RCEP(東アジア地域包括的経済連携、16カ国)の確立、2)デジタル経済におけるDFFT(Data Free Flow with Trust:自由なデータ流通圏)の構築、3)人工光合成など地球環境イノベーション、を提唱している。

・企業においても、デジタル経済のデータディストリビューションにおいて、特定企業による覇権を許さず、自由な企業活動を守って発展させてくれる枠組みが必要である。

・今から20年、デジタル経済圏が大きく発展していく。この新しいイノベーションは、富の拡大、格差をさらに広げる可能性がある。

・その時、アジア各国におけるボトムラインをいかに引き上げていくか。トリクルダウン(浸透)効果は期待できない公算が高い。各国とも否応なく何らかの産業政策をとってこよう。これがまた摩擦の種になりかねない。

・中国のR&Dとハイテク企業の台頭、企業家精神の発露は誠に凄まじい。国家資本主義を超えるものがある。この体制のままでは、いずれ中国の国境を超える企業、人材も続出してこよう。

・中国がテクノロジー大国になってくる時、アジア各国は否応なしに中国と連携することになろう。米国中心の覇権が崩れていくことを意味する。

・その時、日本はどうするのか。イアン ブレマー氏の問い、「日本は大きなシンガポールになれるのか」に応えられるだろうか。今のところ相当難しい。しかし、悲観する必要はない。チャンスはあるので、チャレンジする覚悟がどの企業にも求められよう。大いに期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。