攻めのIT経営銘柄~グランプリはANAホールディングス
・4月に「攻めのIT経営銘柄2019」が発表された。経産省と東証が共同で主催しており、経営革新や生産性の向上をもたらすITの活用に取り組んでいる企業を表彰するものである。
・今回で5回目の表彰であるが、業種ごとに優秀な企業を選定することに加えて、初めて全企業の中からグランプリ(最優秀)も選出した。デジタルトランスフォーメーション(DX)が、経営トップの強いコミットメントによって実践されている企業を選んだ。
・DXとは、1)データとデジタル技術を活用して、2)ビジネスモデルを変革し、3)競争優位を確立することである。
・攻めのIT経営“銘柄”と言っているところが面白い。通常なら企業というところを銘柄と名付けている。銘柄とは、広義にはブランドを意味するが、東証に上場する企業を株式投資の対象とする時、投資家は銘柄という言葉を使い、業界用語となっている。
・5つの評価項目をスコアリングしているが、これらの項目は企業のIT化、とりわけDX化を評価する時に大事な軸である。
・第1は、経営方針や経営計画に、企業価値向上のためのIT活用を盛り込んでいるか。トップマネジメントのコミットメントと、IT活用を推進する責任者を置いていることが重要である。
・第2は、企業価値向上のためのIT活用に向けて、戦略をしっかり立案し実行しているか。戦略であるから、現状のビジネスモデル(価値創造の仕組み)を、次の目指すべきビジネスモデルにどのようにもっていくか。その方策が問われる。まさにDXの根幹である。
・第3は、攻めのIT経営を推進するための組織体制と人材の確保である。従来の守りのITでは、システム部門は重要であるが、専門的な1つの部署にとどまっており、人材もミドルバック業務対応が中心であった。これを新しいDXにもっていくには、人材の配置や育成が決定的に重要である。どの企業においても人材は不足しており、ここの強化が問われている。
・第4は、攻めのIT経営を支える基盤作りである。新しい情報セキュリティなどシステム基盤を整備する必要がある。既存のシステムがレガシー(時代遅れ)となっているならば、これを入れ替えていくだけではなく、全く別の仕組みへ変身させていくことが求められる。
・これは、大変な作業であり、失敗は許されない。となると、そのようなリスクはとりたくないとなり、既存のシステムを温存して、使いまわしていくことになりかねない。それでは競争劣位に陥ってしまう。
・第5は、企業価値向上のためのIT活用を、企業自らどのように評価しているかである。ITを推進しても、それがどのような効果を上げているかは、なかなか分かりにくい。IT投資の効果はいくらか。これも計量化しにくい。
・しかし、定性的、定量的に評価する方法をビルトインしていかないと、PDCAをうまくまわしていくことができない。この評価システムをしっかり持っている企業は強い。
・東証上場企業にアンケートを送り、答えてもらう。自信のある企業や自らのポジションを知りたい企業は、アンケートに積極的に答える。アンケートの項目をみて、無理だと思う企業や面倒と思う企業は返信してこないとみられる。
・回答企業について、項目ごとにスコアリングし、ROE(3年平均)による基準も加えて、最終選考に入る。最終選考では、企業から提出された攻めのITに関する「わが社の事例」を審査員が評価する。
・この事例の優劣も踏まえて、東証業種分類ごとに優良企業が選ばれていく。業種毎なので、業種間のバラツキはありうる。業種によっては一定のレベルに達していないという理由で選定企業がないこともある。
・企業価値向上のためのIT活用・DXの推進では、実際の事例を通して、1)IT活用による「革新的な生産向上」の実現、2)IT活用による「既存ビジネスの拡充」の実現、3)IT活用による「ビジネス革新」の実現、という3つのレベルをみていく。
・データとデジタル技術の活用、収益への貢献、将来性や発展の可能性、さらにSDGsなど社会的課題の解決に対する取り組みもみていく。
・今回は29社が選定された。その中で、5年連続で選ばれた企業は、アサヒグループホールディングス、ブリヂストン、JFEホールディングス、JR東日本、三井物流、東京センチュリーの6社であった。
・一方、今回初めて選ばれた企業は、ユニ・チャーム、エーザイ、JXTGホールディングス、大日本印刷、丸井グループ、MS&ADインジュアランスグループ、三井不動産、三菱地所、パソナグループの9社であった。
・29社以外に、注目できる取り組みを行っている企業20社が、別途「注目企業」として選ばれた。注目企業の中には、テクマトリックス、パイプドHD、ラクスル、メルカリ、ルネサンス、ERIホールディングスなど、ユニークな企業も含まれている。
・最高のDXグランプリには、ANAホールディングスが選ばれた。①レガシー刷新を終えて、DXへの経営ビジョンが明解、②空港における簡単便利な顧客価値の提供、③空港オペレーションの革新的な生産性向上、④アバター推進などデジタルプラットフォーム作り、⑤全社的なイノベーションへの取り組みが本格的であることなどが評価された。
・こうした企業がそのまま投資対象になるわけではないが、中長期的な企業価値向上の有力候補であることは間違いない。日本のDXは世界からみてまだ先進的とはいえない。遅れているところも多い。
・しかし、「攻めのIT経営銘柄」を参考に、企業を見る目を一段と養い、自らのポートフォリオを見直すことは極めて有効であろう。