これからの金融行政~金融庁の変身

2019/05/27

・4月に金融庁の遠藤長官から、今後の金融行政について話を聴く機会があった。その骨子に触れながら、印象に残った点について考えてみたい。

・金融庁は平成と共に発足したが、前半は金融危機対応、特に銀行を中心とした不良債権問題への対応に四苦八苦してきた。リーマンショックを乗り切った後からは、「金融処分庁」から「金融育成庁」へ変貌しようとしている。

・当初は、①ルール重視の事後チェック、②厳格な資産査定による検査、③徹底した法令遵守の確認に力を入れた。

・実効性はあったが、①形式、②過去、③部分への集中によって、副作用もあった。経営の中身より担保、経営のリスクより資産査定、顧客へのサービスより証拠作り、という姿勢に懸念があった。

・そこで、企業・経済の持続的成長と国民の安定的な資産形成には、3つのバランスが重要であると、考え方を前進させた。

・1)金融システムの安定は大事であるが、金融仲介機能をもっと発揮させるようにする。
2)利用者保護はもちろんであるが、利用者の利便性をもっと高める。3)市場の公正さ、透明さを確保するとともに、市場の活力を引き出すことである。

・金融庁の組織も、課題に対応するために再編された。中心課題は、金融機関の活動が、①企業の事業性を評価し、②顧客の立場に立って運用サービスを提供し、③将来を見据えたリスクを捉えて、④持続可能なビジネスモデルを実現することにある。

・そのためには、ベストプラクティスの追求に向けた対話に力を入れ、「金融育成庁」として金融サービスの向上に取り組む。具体的に7つの方針を打ち出している。デジタル化、資産形成、活力、ガバナンス、信頼、協力、改革がキーワードである。

・金融デジタライゼーションでは、2018年7月にFinTech Innovation Hubを設置した。フィンテックについて最新のトレンドを把握して、未来志向で金融行政に役立てていこうというものである。

・金融機能では、①決済、②資金供与、③資産運用、④リスク移転がとりわけ重視される。伝統的な銀行法、貸金業法、金融商品取引法、保険業法といった業態別ではなく、金融の機能別に中身を再検討しようとしている。

・家計の資産形成では、1)長期・積立・分散投資の推進、2)顧客本位の業務運営の確立、3)高齢社会の金融サービスのあり方、がテーマである。

・とりわけ、顧客本位という観点からみた時、金融機関が自己本位の利益を優先しているのではないか、という疑念がある。ビジネスモデルの抜本的転換が求められているが、その新しい姿がまだ十分描けていない。

・金融機関はどのようなビジネスモデルを創るべきなのか。①顧客に最善を尽くしながら、②社員に適切な動機付けをして、③会社としての持続的な価値創造の仕組みを構築することが問われている。

・押しつけ販売にならないようにできるか。顧客がよかったと実感できるようになるか。社員が、提供する商品やサービスに本当に自信を持てるか。これらはどのビジネスにおいても本質的なテーマである。

・はっきりしていることは、今の仕組みのままでは無理がある。新しいイノベーション(革新的な仕組み作り)がそれを成し遂げることになるので、強烈な新陳代謝を伴うことになろう。金融機関はなくならないが、担い手はかなり入れ替わる可能性が高い。

・資本市場の機能強化に向けて、CGC(コーポレートガバナンス・コード)やSSC(スチュワードシップ・コード)の改定、対話ガイドラインの策定も進んでいる。活力を引き出すためには公正・透明を確保しつつ、やる気のあるプロを登場させやすくする。そのための育成をサポートすることである。

・おもしろいことに、金融庁自身が組織活力の向上に向けて、職員の働き方改革に取り組んでいる。人材の配置、人事評価、人材育成、コミュニケーションの充実において、新しい試みを次々と実行している。若手の自主性を重視する政策オープンラボや、職員による出張授業も始めた。

・遠藤長官自ら、処分庁から育成庁に変身すると明言している。安定、保護、透明だけではなく、発展、利便、活力を強調している。検査局を廃止して、総合政策局や企画市場局を重視する。ミニマムスタンダードのルールを守っていればよいということではなく、もっと活発にベストプラクティスを実現することを求めている。

・金融の法体系も新しいものへ変えていく必要がある。FinTechでは新規参入が相次ぐし、今のままではイノベーションの制約になって世界から遅れをとってしまう。

・投信の販売や残高、ビジネスモデルを見ると旧態依然としている。米国に30年遅れているという認識のもと、新しい理念と運用を見える化して、リーディング運用機関を育てようとしている。

・そして、日本の金融の仕組みを変えていくために、まず金融庁自らが変わろうとしている。組織運営ではグーグルにも学んでいる。新しい時代の金融行政を期待したい。

株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所   株式会社日本ベル投資研究所
日本ベル投資研究所は「リスクマネジメントのできる投資家と企業家の創発」を目指して活動しています。足で稼いだ情報を一工夫して、皆様にお届けします。
本情報は投資家の参考情報の提供を目的として、株式会社日本ベル投資研究所が独自の視点から書いており、投資の推奨、勧誘、助言を与えるものではありません。また、情報の正確性を保証するものでもありません。株式会社日本ベル投資研究所は、利用者が本情報を用いて行う投資判断の一切について責任を負うものではありません。

このページのトップへ